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252 ウィンドシーカーズ、慣らしをする

 武具を新調したウィンドシーカーズの3人。

 その翌日には慣らしをかねて舎人公園ダンジョンに赴いていた。

 1層で早々に単体のマッドボアと遭遇。


「コイツ、もらうわね」


 前に出ながら野川が言えば──


「いいよ」


「了解した」


 橘と芝浦が迷うことなく了承する。

 もらうという言葉はドロップアイテムのことではなく戦う権利のことなので目くじらを立てるようなものではない。

 この程度の魔物であれば3人がかりで倒すような相手ではないので、誰かが仕留めなければならないなら率先してくれる者に任せようとなる訳だ。


 突進しようと前足で地面を引っかくマッドボアを野川がどっしりとした構えで待ち受ける。

 これは彼女本来のスタイルではない。

 盾持ちではあるが敵の攻撃を受け流すのがいつもの野川の戦い方だ。


「さあて、職人さんオススメの機能を試させてもらいましょうか」


 盾に意識を向けて伸びろと念じながら魔力を流すと盾が下方向へ伸長し、先端の尖った部分がガッと地面に突き立つ。

 その音がマッドボアを刺激したのか咆哮を上げながら突進してきた。


 初心者ならば焦りを感じたりもするのだろうが年単位で冒険者を続けている野川は動じない。

 盾ごと吹き飛ばす勢いで突っ込んできたマッドボアを正面から受け止めた。

 衝撃は思っていたほどではない。


 一方でマッドボアの方は頭部が血まみれになっていた。

 すぐには次の動作に移れないようで固まっている。

 この好機を見逃す野川ではない。

 すかさず剣で急所を突いてトドメを刺した。


「新しい盾はいいわね」


 盾に流していた魔力を引っ込めると伸びていたヒーターシールドが元の大きさに戻った。


「マッドボアの突進も容易く止められるなんて思わなかったわ」


 野川はオーダーメイドの盾であるヒーターシールドの感触に手応えを感じていた。


「ぶつかった時ドンって結構大きい音がしたのに平気そうだね」


 橘がちょっと不思議そうにしながら野川に話しかける。


「それは衝撃吸収機能のおかげじゃない?」


「そのシールド、そんな機能もあったんだ」


 目をパチクリとさせる橘。


「言ってなかったっけ?」


「うん、伸長機能のことしか聞いてないよ」


「そっか、ゴメンゴメン。じゃあ、こういうのも知らないわよね」


 言いながら野川は再び盾に魔力を流す。

 ただし、今度は回れと念じながらだ。


 ヒーターシールドがグルンと回転する。


「わっ、スゴい」


 尖った部分が腕の延長線上に来たところで回転が止まった。


「これで突き刺す武器に早変わりってね」


「なるほど。それでシールドの下の部分が既製品より尖っていたのか。攻防一体の盾ということだな」


 回転するだけでは驚いたり感心したりすることのなかった芝浦も、これには納得顔だ。


「まあね。でも、それだけじゃないのよ」


 そう言いながら野川がさらに念じると盾が勢いよく突き出された。

 いや、マッドボアの突進を受け止めたときのように盾が伸長したのだ。


「この形態でも伸びるんだぁ」


「これなら槍の突きに匹敵する攻撃になり得るな」


 橘は素直に感心するだけだが芝浦は攻撃力が高いと見て取った。


「それは、さすがに大袈裟よ。リーチはそこまで長くないし」


 芝浦の分析を聞いた野川が苦笑する。


「この機能はおまけみたいなものだから祐子の槍のように伸縮自在って訳にもいかないのよ」


 武器としての完成度は芝浦の槍の方が高いと野川は思っている。

 事前に槍の伸縮具合を見せてもらっていたから、実際に盾の攻撃機能を使ってみて差があるのはよくわかった。


 あくまでこのヒーターシールドは防具としての機能がメインとなる。

 盾の長さを変える機能を組み込む際に職人が面白がって武器としても使えるようにしてくれただけだ。

 元から攻撃の際に自在に長さを調節できるよう機能が組み込まれた芝浦の槍とは比べるべくもない。


「そこは武器と防具の差。でも、武器になる防具はいざという時に強い」


「まあね。そこは納得してるどころか満足してるわよ」


「じゃあ使い勝手は悪くないんだね」


 橘が聞いてきた。


「ええ。あの職人の腕は信用に値するわ」


「何者なんだろうね」


「魔道具職人。それ以外に何がある?」


「そうなんだけどさ」


 芝浦の疑問の言葉に思わず苦笑してしまう橘だ。


「何処で修行したのかとか気にならない?」


「腕が確かで正規のショップで働いているなら、それで充分」


「いや、あの、ミステリアスだねって話なんだけど」


「わかっている。そして私は他人の経歴に興味がない。それだけ」


「ですよねえ」


 長い付き合いだからわかっているのだけど、つい話を引っ張ってしまった。

 それだけ、あのショップの職人は謎めいていた訳だ。


 橘たちからすれば謎めいてはいるが、実際は遠藤大尉に頼まれて臨時で手伝っている隠れ里の民だったりする。

 遠征期間中だけなので不定期かつ期間限定であることを橘たちは知らない。

 本人たちが思っている以上に運が良かった訳だ。


「ミチルもオーダーメイドにすれば良かったのに」


 野川に言われて苦笑する橘。


「オーダーはしなかったけど、私の買った既製品はオーダー品みたいだったよ」


「なによ、それ。聞いてないわよ」


 自分のことは棚に上げて野川が抗議する。


「言葉で説明するのが難しいから」


 困ったような苦笑いを浮かべながら橘はそう返事をした。


「どう難しいのよ」


「うーんと、例えばこんなのとか」


 鎧とセットになっているらしい重りを左手で投げると爆発的な加速で飛んでいきダンジョンの壁にめり込んだ。


「また凶悪なオプションを付けたのね」


「それだけじゃないよ」


「え?」


 怪訝な表情を浮かべた野川をよそに橘が左手で引き寄せるような所作をすると重りが壁から抜け出て橘の方へ飛んで戻ってくる。

 それだけではなく元のセットされていた位置に収まった。

 落下する様子が見られないので魔道具の作用で固定されたのだろう。


「ナニソレ」


 呆れてしまった野川の口から片言に近い疑問の言葉が漏れた。


「こういう機能なんだよ。上手く使えば引き戻すときに敵の死角をついて攻撃できるって職人さんが言ってた」


「ユニークな機能だ」


 芝浦が興味深げに重りを見ている。


「それだけじゃなくて……」


 再び橘が重りを投てきする。

 今度は通路の奥の方へ向けて投げたはずだが、加速が始まると先程と同じ位置に重りが軌道修正していた。

 寸分違わぬ位置で、さらに深く重りがめり込む。


「ロックオン機能まであるとか凶悪よね」


「アハハ、私も説明を受けたときそう思ったよ」


 野川の言葉に橘は苦笑するばかりだ。


「それとね」


「まだあるの!?」


 野川の驚きをスルーして橘が引き戻しの操作をする。

 ただし、今度は重りが飛んで来る間に複雑な手の動きが加わっていた。

 すると重りが踊るかのように宙で複雑な軌道を描き始める。


 唖然とする野川。

 芝浦も表情はあまり変えていないが驚いている様子だ。


 それを確認するように見てから橘は再び引き戻しの操作をして今度はセット位置に重りを戻した。


「魔力の糸でつながっているから、こんな風に操作できるんだって。ちょっと使いこなすのは難しそうだから練習しないとだけど」


「ホント何者なのよ、あの職人」


「凄腕だ」


 野川と芝浦はしばし呆然とさせられていた。


読んでくれてありがとう。

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