240 色々と試します
ミケが戻ってくる気配がないので2層で魔物を狩ることにする。
魔物の気配を負うのは紬に任せてみた。
狼系の精霊だから捜し物は上手いだろうという適当な理由でだけどね。
当人がやる気になったので先導させてみたところ、迷いなく2層の通路を進む。
程なくしてオークの群れと遭遇した。
数は2桁に達していたので、4人で分け合っても確実に複数を相手にすることになる。
他の冒険者チームの気配はない。
色々と試しながら戦えそうだ。
「とりあえず各自バラバラに戦って終わったら感想戦をやろうか」
向こうもこちらに気付いてドタドタと駆けてくる中で短い指示出しをした。
連携しないのはオーバーキルになるのが確実だったからだ。
単独で相手をしてもオーバーキルになるのは確実なんだけど加減はしやすいからね。
結果から言うと俺の場合、1匹目は上半身を消し飛ばしてしまった。
2匹目でさらに加減してみようとしたのだけど、それでも頭を吹っ飛ばしていた。
3回目でようやくという感じだったもんな。
「思った以上に加減が難しかった」
感想戦でも真っ先にこれを報告する。
「右に同じ」
小さく手を挙げながら英花が言った。
「だよねー。2匹しか倒してないから修正しきれなかったよー」
真利も愚痴りながらそんな報告をしてきた。
残るは紬だが。
「特には何も」
と言われて終了。
「修正は必要なかったのか」
フルフルと頭を振る紬。
「内容的には同じです」
略したかっただけかもしれないけど略しすぎ。
面倒くさがっているのかと思ったけど、そういう雰囲気でもない。
頭の中で考えて重複するなら不要な情報と勝手に判断したといったところか。
「情報共有は大事だから、要不要は自分で判断せずに報告を頼む」
コクリとうなずいたので次回からは大丈夫だろう。
再び探索に戻る。
そこそこ歩いて現れたのは単体のサーベルウルフだった。
ここに来るまでに、よその冒険者チームと遭遇したのは一度きりだ。
意図的に避けるようなことはしていないにもかかわらずこの状態。
以前よりも2層での遭遇頻度が下がっている気がする。
今日はたまたまなのか、最近の傾向なのかはわからないが今の俺たちには好都合だ。
実験的な戦い方をしても見られる心配がないというのは本当にありがたいね。
「真利、手刀で牙を切り落としてみるか?」
「えっ!? いいのー?」
「言い出しっぺは真利だろ。嫌なら俺がやろうか?」
途端に真利はブルブルと頭を振った。
「やるよ、やるやるー」
そう宣言した瞬間に間近まで迫っていたサーベルウルフが飛びかかってきた。
「えいっ!」
振り向きざまに右の手刀を横なぎに振り切る真利。
その流れのまま、今度は左の手刀をサーベルウルフの首へボクシングのジャブのように瞬間的に突き出した。
サーベルウルフは飛びかかってきた勢いを失って真下にドサリと落下。
直後、サーベルウルフの代名詞とも言うべき大きな牙が2本ゴロリと転がる。
首からは大量の出血が見られた。
しかしながら、真利の手は血に染まっていない。
一瞬、手刀を突き出した際に衝撃波でも発生させたのかと思ったけど。
「手が汚れていないな、真利」
「うん。魔力でガードしたからねー」
英花の問いに種明かしをしてくれたので謎が解けた。
「ふむ、応用すれば剣がなくても戦えそうだな」
「固い相手だと魔力の消費が大きくなるからオススメしない。武器を失ったときなんかの緊急手段だと思った方がいい」
「それもそうか」
そんなやり取りをして探索に戻る。
次に遭遇したのはメガワームの群れだ。
タフでしつこいし見た目も気持ち悪いから、できれば遭遇したくなかった相手である。
しかも数がそれなりにいる。
よその冒険者チームなら撤退を選択するくらいにはね。
距離のある間に魔法で終わらせようかと考えていたら紬が前に出た。
「お? やるつもりか」
紬がこちらをチラリと見てうなずいた。
「じゃあ、任せる」
そう言うが早いか、紬はダッシュで距離を詰め連続で蹴りを放つ。
「武器を使わないのか」
「打撃で中にダメージを通そうという腹じゃないか」
「えー、でもでも今の紬ちゃんだったらワンパンでパーンしちゃわない?」
真利よ、蹴りだからワンパンじゃないぞ。
あえて言うならワンキッか?
言いにくいことこの上ないから誰も採用しないだろうけど。
それとワンパンでパーンとはダジャレのつもりじゃあるまいな?
普通に破裂すると言えばいいものを。
なんにせよ真利が疑問を抱いたようなことにはならなかった。
そのかわりメガワームは次々と切断されていく。
「真利の手刀を応用しているようだな。魔力で刃を形成させたか」
「地面を這うような相手には伸縮が自在なぶん手持ちの武器より有効かもしれない」
「えーっ、緊急手段とか言ってなかったー?」
「基本は使わないようにするってことだ。相手に応じて臨機応変に対応すればいいだろ」
「今回は攻撃を当てづらく柔らかい相手だからな。下手に長引くと返り血でドロドロになるし」
「切断していたらドロドロになっちゃうよー」
「薄い魔力の障壁でガードしてるから大丈夫だ」
魔力を消耗しない程度なので強度は無いに等しい。
雨合羽を着ているようなものか。
「紬ちゃんは、これを試すために自分から前に出たのかなー」
おそらくはそうなんだろう。
風魔法でガードするより燃費が良いので雑魚を相手にするときは有用だ。
もちろん基本技として採用する。
メガワームの殲滅はそれなりに時間がかかった。
数がいたからね。
それでもミケが戻ってくる気配はない。
当然のことながら探索は続行である。
「ミケは手こずっているようだな」
「フン、よもやサボっているのではあるまいな」
英花が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「アハハ、それはないよー、英花ちゃん。ミケちゃんって任務大好きだもん」
「それもそうか」
忍者になりきってるもんな。
少なくとも本人はそのつもりだ。
忍者っぽいかと問われると返答に困るのだけど。
「なんにせよミケが苦戦するくらい、ここが広いってことだ」
「それはあるか。ジェイドたちが何日もかけているのに1層の地図がまだ完成していないしな」
「だよねー。ここまで広いと思ってなかったよー」
「魔物の種類も豊富だしな」
「しかも初心者お断りだ」
これも2層の探索が進んでいない理由だろう。
おまけに1層の地図が充実してきたことで1層を探索する冒険者が増えたと考えられる。
「2層の地図も1層並みにする必要があるか」
少なくともボス部屋か隠し階段が見つかれば2層も賑わうことになると思う。
「今日のところは地図の提出はやめておいた方がいいぞ、涼成」
「どうしてだ?」
「2層に来る前によその冒険者たちを何人も驚かせただろう」
俺も含めてみんな無自覚だったけど周りからは爆走しているようにしか見えていなかったんだろうなぁ、アレ。
「上で騒ぎになっていてもおかしくはない、か」
そんな時に2層の空白地帯だった場所の地図を提出したら、噂がすごい勢いで拡散してもおかしくない気がする。
「日を改めた方が良さそうだねー」
「いや、地図の報告はジェイドたちに任せよう」
「隠し階段はどうするのー、涼ちゃん?」
「保留だな。3層があるなら、どんな魔物がいるか判明してからでも遅くはないだろ」
読んでくれてありがとう。
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