239 久々のお台場ダンジョン
やって来ました、お台場ダンジョン。
「なんか久々感あるよねー」
入り口のゲートをくぐってしばらく歩いたところで真利がボソッと呟くように言った。
「仕方あるまい。色々とあったからな」
しみじみと英花が言葉をつなぐ。
「ああ。俺なんて修学旅行のことがすっかり頭から抜け落ちてた」
少しばかりぶっちゃけすぎかと思ったけど真利も英花も苦笑しながらうなずいている。
どうやら2人にも思い当たる節があるようだ。
「それはそうと今日は何処まで行くつもりだ、涼成」
英花が尋ねてくる。
「奥の奥までだな。最近は地図が更新され続けているから割と奥の方まで人が入るらしいし」
「隠れ里の民たちが活躍するのも考え物かもしれんな」
何を隠そう、地図の更新は隠れ里の民たちの功績である。
彼らが更新した地図情報によると1層は今まで想定されていたよりもずっと広いことが判明した。
東京都の地図と重ね合わせたなら環状線に匹敵するだけの面積は確実にある。
ダンジョンは亜空間なので、東京の地下にそれだけの空洞が実際にできているわけではないけれど。
だとしても改めて桁違いの広さだと言わざるを得ない。
広い広いと言われていたし、実際に潜ってみて確かに広いと実感していたつもりだったけどね。
ちなみに端は1層であるにもかかわらず一部まだ確認されていない所がある。
2層への階段が比較的入り口近くにあったのは運が良かったと言えるだろう。
「そんなこと言うもんじゃないよ。彼らが提出した地図のおかげで多くの冒険者が助かっているはずだ」
1層の割に手強い魔物が出るためマッピングも命がけになるのだ。
実力者しか来ないと言われているお台場ダンジョンでも手こずるようなのばかりだからね。
オークも群れると侮れなくなるし、メガワームはタフだから体力を消耗する。
特に注意が必要なのはミノタウロス、ワーウルフ、サーベルウルフあたりだろうか。
中には無理して地図の拡張を頑張っていたパーティも少なくないと聞いている。
地図の提出で得られる報酬などは微々たるものであるにもかかわらずね。
端まで踏破したことで得られる名声なんかが目的だったりするんだろうけど、空白地帯の多い地図の頃は手酷い目にあう冒険者たちが少なくなかったと聞いている。
最近はそういう冒険者も更新された地図のおかげで減っているそうだ。
「己の力量を過信して無茶をする奴のことまで配慮するつもりはない」
英花はなかなかに辛辣だ。
自業自得と言ってしまえば確かにその通りなんだけどね。
「いっそのこと3層に行っちゃうー?」
真利がそんなことを聞いてきたが、3層はまだ発見されていない。
2層の地図も1層に比べれば空白地帯が多い不完全な状態だ。
「2層にボス部屋があるかもしれないだろ」
「このダンジョン、もっと深いと思うけどなー」
「根拠は?」
「そんなのないよー」
要するに勘ということか。
とはいえ、意外とバカにできないんだよなぁ。
「そのあたりはミケが解決してくれるはずだ」
英花がそう言うと──
『お呼びですかニャー?』
霊体モードでシュバッと参上するミケ。
「今回は時間がかかるだろうから、2層に隠し階段があるかどうかだけを確認してきてくれ」
『了解しましたニャーン』
現れた時と同様にシュバッと消えていくミケ。
これも、もうおなじみなのだけど、そうでない者もいる。
紬だ。
今日の目的が龍たちから受けた加護が如何ほどのものか確認するためなのでダンジョンに入ってから英花の眷属召喚で呼んでいる。
ダンジョン内とはいえ人目があるので遮音結界や幻影結界は構築済みなのは言うまでもないだろう。
その紬が微妙な感じで首をかしげていた。
何か気になることでもあっただろうか。
「どうした、何かあったか?」
フルフルと頭を振る紬。
「縮地を使っても真似ができそうにないので考えていました」
一瞬なんのことかと首をひねりかけたけど、すぐにミケのシュバッと現れたり消えたりすることだと思い至った。
ダンジョン以外ではそうそう使う機会がないからね。
「気になるならミケに聞けばいいんじゃないか。それで再現できるかはわからないけど」
あのサイズだから可能ということも考えられるし。
「そうしてみます」
紬がそう返事をしたところで英花からの視線を感じた。
今度は何だ?
「さっさと2層へ向かおう。こんな所でミケの報告を受けるのは時間の無駄だ」
「そうだな」
魔物の分布は1層と変わらないんだし、このあたりでうろついていてもメリットは何もない。
そんな訳で俺たちは徒歩から駆け足に切り替えて2層へと向かう。
途中で何組もの冒険者チームとすれ違ったけど一様に驚愕の視線を向けられてしまった。
「なんで驚かれるんだろうな?」
走りながら疑問を口にする。
「ダンジョンの中で駆けずり回ること自体が普通じゃないからだろう。そんなのは魔物から逃げる場合しかないからな」
英花の言うことはもっともなんだけど、ちょっと違う気がするんだよな。
「どうかなー? 違うんじゃない?」
真利も俺と同じ意見のようだ。
「どういうことだ、何が違う?」
「驚かれるだけだったからな」
「そうそう。魔物から逃げてるなら、あの人たちはもっと慌てた感じでバタバタしてると思うんだよねー」
「それもそうか。では、何に驚いていたのだろうな」
英花が疑問を口にしたところで2層への階段前に到着した。
「これが原因だろう」
「これ、とは?」
「今までにない早い到着だと思わないか」
俺が問い返すと、英花は黙って考え込み始めた。
「……そうかもしれない。時間を計っておけば良かったな」
「それだけ違和感なくここまで来て時間は半減しているとしたら?」
「なにっ!? 時間を計っていたのか、涼成?」
今度は英花が驚愕の視線を向けてきた。
「まあね。今日は能力を確認するために来ているじゃないか」
新スキルもあるので確認するのは能力だけではないんだけどね。
「思った以上に加護の影響があるのだな」
「いや、レベルアップしてる分を忘れてるだろ。両方の効果でってところかな」
「あ……」
そんな風に短く声を発したあたりレベルアップしたことを失念していたらしい。
英花にしては珍しいうっかりだ。
とはいえ、レベルアップした時は疲れていたし反省も多くて確認もろくにできなかったからなぁ。
で、そのまま加護を受けることになったりと慌ただしくもあったし。
そう考えると仕方がないのかもしれない。
「でもー、小走りだったよね。そこまで驚かれるようなことかなー?」
「真利もかなり過小に評価しているようだな。まあ、俺にもその感覚はあったんだけど」
時間計測しておいて良かったよ。
想定の半分以下の時間で到着してしまったのを確認しなかったら俺も半信半疑でいたと思う。
「とにかく、今の俺たちの小走りはここに来る冒険者たちにとって全速力以上なんだろうよ」
俺の言葉に英花が表情を渋らせて嘆息した。
「これは加減を覚えるのに一苦労させられそうだな」
「魔物と戦って、どの程度感覚に差があるのか確認してみるか」
「今なら手刀でサーベルウルフの牙を切り落とせそうだね」
軽口を叩いたつもりなのか真利が苦笑している。
「それくらいは簡単にできるだろうな」
「えーっ!?」
苦笑から一転して真利は目を丸くさせていた。
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