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238 いいのかな?

 フフンと鼻を鳴らした九尾の狐。


「ずいぶんと自信ありげではないか」


 こちらを見た白龍は懐疑的な目をしている。


「ホントに大丈夫?」


「白を納得させるのは骨だと思うのだがな」


 青龍や金竜も心配そうにはしているが、結局のところ九尾の狐の発言を信じ切れていない。


「形があるから多いとか分けられないとか言ってコイツらは遠慮するんだよ」


「むう、どうして山分けの難しいものを出そうとしていたのがわかるのだ」


 白龍が不機嫌さと困惑を足して割ったような声を出している。


「考えるまでもねえよ。金銀財宝がダメとなったらお前らの手持ちに何が残る? 同じようなものがふたつとない武具とかくらいのもんだろう」


「うぐっ」


「ついでに言っとくと、そういうのは派手すぎてコイツらはいらんと言うぞ」


 そう言うと九尾の狐はこちらを振り返り──


「やたらと光る防具とか一振りするだけで地割れを起こすような剣なんていらんだろう?」


 俺たちに向けて聞いてきた。

 もちろん答えはイエスだ。

 迷いなく3人でコクコクとうなずいた。


「ぐぬぬ」


 白龍は悔しそうにうなっている。


「じゃあ、九ちゃんは何がいいと思うのさ?」


「加護だ。コイツらは迷宮退治にあちこち回っているから、おあつらえ向きだぞ」


 龍たちがキョトンと目を丸くさせている。

 かと思うと顔をつきあわせての念話会談を再び始めてしまった。


「なあ、九ちゃん」


「なんだ?」


「御利益ってどんなのがあるんだ? いくつかあるんだろ」


「うちの神さんのことじゃねえから詳しいことは知らん」


 思わずズッコケそうになったが言われてみて確かにと思った。

 言ってみれば、よその家の内情だ。

 伝え聞いていることもあるかもしれないけれど本当のところはどうなのかとかは、わかるはずもないだろう。


「ひとつだけ確実なのは」


 そこで九尾の狐は言葉を句切った。


「確実なのは?」


「龍とは水の神と古来から言われているから、そっち系だな。他は知らん」


 何故か雨乞いの場景を思い浮かべてしまった。

 水神様というと不思議とそういうイメージがあるんだよな。

 昔話の絵本やら何やらの記憶が頭の片隅にこびりついているせいかもしれない。


「水不足になったら雨乞いの儀式とかしないといけないのかなー?」


「真利よ、魔法で水が出せるではないか」


 俺と同じようなことを考えていた真利の発言に冷静にツッコミを入れる英花。


「あ、そっか。ついついそういうのを想像しちゃった」


「私も同じようなことを考えてしまったから気持ちはわからんではないがな」


 どうやら俺たちの中では共通認識のようだ。


「でも、それだけじゃないだろう」


「そういう御利益は後付けのこじつけだったりすることが多いと思うがな」


「どっちにしても調べないとわかんないよー」


 真利の言う通り考えても仕方のないことだ。

 そうなると龍たちがどういう結論を出すかなんだが。


「本当にそんなもので良いのか」


 などと白龍に問われてしまいましたよ?


「ええ。多すぎる財宝とか目立って使えない武器類は困るだけですから、そちらの方がいいです」


「なんとも欲のないことだ」


 また言われてしまった。

 けれど、欲なら人並みにあると思うんだけどな。

 このあたりは認識にギャップがあるんだろうということで納得しておいた。

 いちいち否定していたら話が進まなくて帰るのが遅くなってしまうからね。


「では、そこに並ぶのだ」


 俺たち3人と紬が指示通り横一列に並ぶ。

 龍たちも並んでボンヤリと淡く光を発し始めた。

 その光が俺たちの方へ降り注いでくる。

 キラキラしてて綺麗なので思わず見とれる格好になっていたけど、気付けば降り注ぐ光から言い知れない圧のようなものを感じるようになってきた。


「おおっ?」


 光が体の中に浸透してくる感じとでも言えばいいのだろうか。

 普通ならあり得ないことだけど、その感覚は間違っていないと思う。

 神境内の厳かな空気が俺たちの周りに集まってきている気がしたからね。

 これが加護を受けるということなんだろう。


 それがどれほど続いただろうか。

 短いようで長い不思議な時間感覚だったと思う。

 もしかすると浴びていた光が影響していたんじゃないだろうかという推測はしてみたけど確かめようがないので考えるのは諦めた。


 その後は光を浴びるに任せた状態が続く。

 いつ終わるのかなとは思ったのだけど退屈には感じなかったのは少し不思議な気がする。

 そして、徐々に光は薄らいでいき完全に消えると周囲の雰囲気もガラッと変わった。

 光を浴びている間はずっと俺たちの周囲に集まっていた厳かな空気が拡散というか元に戻ったせいだろう。


 光を浴びる前と今とでは外見上の差はなかった。

 が、自分自身で感じる変化は明確である。

 感覚的なものだけど魔法でバフを受けた時のそれに近い。

 ただ、高揚感のようなものはなく冷静に今の状態を見ることができている。

 おそらく能力的にも何割増しぐらいになっているだろう。

 そのあたりは後で確認しておいた方が良さそうだ。


 ひとつだけ不安なことがある。

 加護と言うからには常時この状態だと思われるが、ここまでしてもらうのは気が引けるのだ。

 今さらキャンセルとか言い出せるはずもないとはわかっちゃいるけどね。


「本当に良かったんでしょうか? ここまでしてもらうのはさすがに依怙贔屓のような気がするんですが」


 バカ正直に伝えるのもどうかと思ったけど、不安が解消されないままモヤモヤするよりはマシだと思ったので聞いてみた。


「依怙贔屓? 大いに結構。お主らはそれだけの大仕事を成し遂げたのだ」


「だよね。迷宮の主の姑息な策に気付いたのは君たちだろう。誇っていいんだよ」


「九ちゃんから聞いておるぞ」


 白龍の言葉を青龍や金竜が援護してくる。


「その九ちゃんも気付いていましたよ」


 九尾の狐を見ながらそう言うと、そっぽを向かれてしまった。


「先に気付いたのはお主だと聞いている」


「九ちゃんは頭に血が上って気付くのが遅れたって」


「実に九ちゃんらしい」


「余計なお世話だ。正直に言って何が悪い」


 九尾の狐は不貞腐れてしまった。

 頭に血が上ったあたりは事実かもしれないけど、それでも俺たちだけの功績かと言われると違うと思うんだよなぁ。


「誇るが良い。お主らは人の身でありながら我らと遜色のない働きをしたのだからな。期待しているぞ」


「えーっと、ありがとうございます」


「「ありがとうございます」」


 期待しているという言葉には引っかかりを覚えたものの褒められたことに礼を言うと英花や真利も続いた。


「フハハハハ、礼を言うのはこちらだというのにお主らが言うとはおかしなものだ」


「だよね。変なの」


「同感だ」


 龍たちには大いに笑われてしまいましたよ?

 そんなに変かな。


「コイツらはこういう奴らなんだよ」


 九尾の狐にまでそんな風に言われてしまった。


「ところで期待しているということは、まだ何か問題があるんですか?」


「そういうことではないぞ。お主ら、各地で活躍しておるそうではないか。久々に面白い人間が出てきたと話題になっておる」


 何処でとは聞けなかった。

 各地でと言ったからには全遠征先のことを把握されていそうだもんな。

 それだけ広範囲にとなると日本中の神様から注目されていてもおかしくない気がする。


 できれば、そうであってほしくないところだ。

 何処で声をかけられたりするかわからないもんね。

 今回も大変だったし当分はお静かにお願いします。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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