236 討伐と後始末
スケルトンドラゴンに余計な真似をさせないためにはどうすればいいか。
そう考えて出した結論が頭部に収まっているダンジョンコアをじかに攻撃することだった。
だから剣を突き立てて雷撃を放ったのだ。
そうすることで己を守るしかない状況に追い込んだつもりである。
普通の魔物であれば雷撃を受けて感電した時点で戦闘は終了する。
それくらいの威力はあった。
にもかかわらずスケルトンドラゴンは耐えている。
地脈の力を頼りにゴリ押しでだけど。
とはいえ本来は絶対に戦うことのないダンジョンコアがじかに攻撃されたのだ。
防戦一方になってしまって何もできなくはなったけれど。
計画通りってね。
後は龍たちに任せておけばいい。
今までは浄化にリソースの大半をつぎ込んでいたけど、他のことができなかった訳じゃないのだ。
手も足も出ない相手に不覚を取るようなことはないさ。
それに今回のダンジョン攻略は居眠りをして地脈の支配権を奪われた雪辱戦でもある。
支配権を奪い返す絶好の機会だ。
そして、その瞬間は唐突に訪れる。
感電し痙攣していたスケルトンドラゴンが急に止まった。
そのまま倒れ込んでいき地面に激突。
スケルトンドラゴンの姿が薄くなり、やがて消えていった。
その場に残されたのは魔石とダンジョンコアのみ。
「あれだけ飛ばしていた鱗すら残らないなんてどうなってるんだろうねー」
真利はそんな風に言うが、それは当然だ。
「なに言ってるんだ。アレは召喚したアンデッド扱いだぞ」
「瓦礫もな。残らなくて当然だろう」
俺と英花の言葉にあんぐりと口を開けて固まる真利である。
だが、すぐに再起動した。
「ちょ、ちょっと待って。瓦礫がアンデッドっておかしくない?」
「瓦礫っぽく見えていたけど、アレも偽装だ」
「じゃあ、何だったの?」
「骨だよ。スケルトンドラゴンの背骨とか結構な大きさだろう」
「鱗も偽装なのー?」
疑心暗鬼にもなろうというものである。
「そっちはドラゴンゾンビからそこだけ召喚したみたいだな」
「だったら最初からドラゴンゾンビを召喚すれば良かったんじゃないかな」
俺もそう思うが、ひとつ不都合が生じるのでダンジョンコアにとっては無理な相談だったのだろう。
「それをすると、じかに操ることができなくなるだろ」
「どうしてー?」
「腐っているとはいえ肉が詰まっているから入り込む余地がない。外付けなんかしたら一発でバレバレだ」
「置き換えればいいんじゃない? 知能のないアンデッドなんだから脳みそとかいらないよねー」
グロ耐性があるのか何も考えていないのか、スゴいことを平然と言ってくれる。
「それをすると奴が望んだ機能をひとつキャンセルしないといけなかっただろうな」
「そんな機能あったっけ?」
「擬似的にだが再生していただろう」
傷つけばゾンビを召喚し直して再生したように見せかけたというカラクリだった。
今にして思えば、そんなのに引っ掛かったとは情けない限りである。
「ドラゴンゾンビだと、そんなことできないよ?」
「わざわざそんな真似をする必要がないだろう。普通に再生させればいいんだ」
そのための魔力は潤沢にある状態なんだから腐肉といえど増殖させるのはダンジョンコアであれば難しくなかったはずだ。
「ただし、その場合は取り除いた脳も再生されることになる」
「あ……」
真利もさすがに気付いたようだ。
「もしかしてダンジョンコアがスケルトンドラゴンを使った理由って再生したかったからなのー!?」
「そうなんじゃないか」
実際のところがどうなのかは知らないが。
仮にそうだとしてもドラゴンゾンビより劣る上に再生が擬似的にしかできなかったのはお粗末と言わざるを得ない。
「あんまり成功しているとは言い難いけど」
木を見て森を見ずというか手段にこだわるあまり目的を見失っている感じだ。
「むしろ完全に失敗しているだろう」
「おかげで助かったんだから、いいんじゃない?」
英花の皮肉に真利が笑いながら言った。
「それもそうだな。我々にも反省すべき点は多かった」
「そういうのは後回しにしよう」
俺は九尾の狐の方へ振り返る。
「もういいのか?」
「あ、待っててくれたんだ」
「まあな。それでどうする?」
どうするというのは、このダンジョンを支配して残すのか潰すのかを選択しろということだろう。
「俺たちが勝手に決めていいことじゃないと思うけど」
「青龍くんたちは地脈の支配権さえ戻ってくれば迷宮がどうなろうと構わないと言っている」
どうやら先に問い合わせてくれていたようだ。
まあ、あれだけ長々と話し込んだんだから当然か。
「こっちも興味がないから好きにしてくれ」
九尾の狐がそう言うとお猿さんたちが体を揺するように大きくコクコクとうなずいた。
「我々もここを修行の場にしようとは思っていない」
烏天狗たちも芦ノ湖ダンジョンの権利を放棄すると意思表示を見せた。
残るは俺たちだけだが、だからといって勝手に決めていいわけじゃないだろう。
「青竜たちが良いと言っても、芦ノ湖は箱根神社のお膝元じゃないか。御祭神に断りもなく勝手に自分たちのものにすることはできないよ」
「おお、それがあったな。ついつい現場で判断しちまうところだったよ」
悪びれずに九尾の狐が笑う。
「高尾山の、悪いが青龍くんたちにそのあたりのこと聞いてくんねえか」
烏天狗の代表がコクリとうなずいて念話を始める。
ダンジョンコアが無力化された今は別に特殊な念話を使う必要はないが、どうやらつながったままらしいので話がしやすいようだ。
待つことしばし……
「芦ノ湖に不浄のものが存在していた場所を残すことまかりならぬ、だそうだ」
念話をしていた烏天狗がそう告げてきた。
予想通りだったので特に驚きはない。
逆の返答だったら自分の耳を疑うくらいはしたかもしれないけど。
「じゃあ、芦ノ湖ダンジョンは閉鎖で。このダンジョンコアはもらってもいいのかな?」
「それは芦ノ湖の浄化を手助けした者たちが好きにすると良い、とのことだ」
そっちのことも一緒に聞いてくれていたみたいだな。
「九ちゃんはいるかい?」
「そんなもん、いらん。球遊びするにはデカすぎる」
「お猿さんは?」
フルフルと頭が振られる。
「我らも不要だ」
聞く前に烏天狗たちから言われてしまった。
「じゃあ、お土産としてもらっておきまーす」
「リアがまたパワーアップしそうだねー」
それは確実だろう。
地脈の制御ができるくらいのダンジョンコアなんだし。
どういうパワーアップをするかは後のお楽しみってところだな。
「パワーアップと言えば、我らもレベルが上がったはずだ」
一応は竜種を討伐したわけだからね。
寄ってたかってといった感じだったけど。
「そのあたりの確認は帰ってからにしようぜ」
ここでずっと油を売っている訳にはいかないもんな。
そんな訳で芦ノ湖ダンジョンは閉鎖して帰還したんだけど青竜たちには何度も礼を言われた。
一番頑張ったのは青竜たち自身だと思うけどな。
あと猿田彦命や青雲入道とかも地脈の力を貸したり人員を送り出したりしたし。
俺たちなんてダンジョンでちょっと戦っただけだ。
それにダンジョンコアをもらったしレベルアップもしたから逆に恐縮させられたよ。
ちなみにホテルに帰ってから確認したところレベルは63になっていた。
ちょっとしたボーナスをもらった気分だね。
これでも本物の竜種を相手取るにはまだまだなんだけどさ。
読んでくれてありがとう。
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