228 報告してみた
言葉で説明するのが難しいと感じたので幻影魔法で記憶を再生する形を取った。
「斬新な報告の仕方だね」
「人間にしてはな」
この世界の人間が魔法を使えるようになったのはつい最近のことなのに青龍も金竜もあまり驚いていない。
「霊体型の不死者かぁ。ウンザリするほどいたね」
「いきなり盛大な歓迎をしてくれたな。それで、その後はどうなったのだ?」
青龍と金竜は興奮気味に話しかけてくる。
「ミケを偵察に出して自分たちも近場の探索をしました」
「ほう、猫型の妖精か」
金竜が興味深げにミケを見た。
その視線がやたらと強く感じたのかミケがブルッと震え上がる。
いや、ミケだけではなく俺も覇気とでも言うべき圧を感じていた。
じかに見られていない俺でこれなのだとしたら正面から視線を受け止めているミケが感じているプレッシャーはいかほどのものか。
「安心せい。食ろうたりはせぬ」
その一言でプレッシャーから解放されたのかミケは脱力してその場に突っ伏してしまった。
「ダメじゃないか、金ちゃん。気を抑えないと小さい子を怖がらせちゃうって」
「そうだったな。すまぬ」
金竜が詫びると今し方の言葉とともに薄まっていたプレッシャーがフッと消えていた。
一気に楽になったと同時に小さくても龍は存在感がハンパないと思い知らされましたよ。
「続きを聞こうか」
「結構な距離を歩きましたが、その後の襲撃はありませんでした」
金竜にうながされたけれども俺から話せることの大半はミケから報告を受けたことばかりだ。
「ミケ、後を任せて大丈夫か?」
「お任せくださいニャ」
プレッシャーを感じなくなれば平気らしい。
トラウマになっていないようで何よりである。
ミケも俺と同じように幻影魔法を使った報告をする。
俺の時とは違ってダイジェスト版といった感じだったけどね。
最初は端折ってしまうと伝わりにくいんじゃないかと思ったものの、こちらの方がわかりやすかった。
「下の階層は見るもおぞましいことになってるね」
不快そうに青龍が言った。
「さらにその下は瘴気が濃い不死者だな。同じように見えて別物のようだ」
金竜は幻影化した記憶の像でありながらもゾンビとラトンビーストの違いに気付いたようだ。
神として祭られるだけはあるってことだね。
「おまけに最後に待ち構えるのは竜種の屍か」
「僕らとは姿形の異なる竜種だけど不愉快だね」
青龍の言うようにドラゴンゾンビは見た目が大いに違った。
細長い胴を持つ青竜たちに対してドラゴンゾンビは言わば肉食恐竜などに近いものがある。
背中にコウモリのような翼を生やしているあたりはファンタジー的な存在だとは思うが。
いずれにせよアンデッドなので不気味な印象が先行してしまうのだけど。
「そうだな。調伏されて心を入れ替えたことで祭られることとなったワシらと、死してなお抜け殻となった体を酷使される彼奴とで如何ほどの差があるというのだ」
青龍も金竜も気を放たぬようにしながらも憤慨していた。
姿は大きく異なれど同じ竜種として思うところは大いにあるのだろう。
「御覧の通り問題は山積みです」
とりあえず龍たちの心情に寄り添うことはせず話を先に進める。
思っていた以上に事態は深刻だからだ。
ミケからドラゴンゾンビが守護者であることを聞いてはいたけれど、ここまでの大きさだとは思っていなかった。
このタイプの竜は大きければ大きいほど強いことが多いんだよね。
今の時点で例外を期待するのは愚の骨頂と言わざるを得ない。
「山積みとは穏やかではないな。骸の竜がお主らの脅威であることはわかるが、他にもあるか」
金竜が尋ねてきた。
「ゾンビ化したドラゴンには万全の状態で挑みたいですから」
「あれに戦いを挑むと申すか」
「無謀だよ。やめた方がいい」
金竜と青龍が驚き呆れている。
そう言われるのも無理はないと俺も思う。
ゾンビ化したことで能力は大幅に下がったドラゴンだが、それでも並みの守護者をはるかに上回る戦闘力があるのはわかる。
これはザラタンを相手にしたとき以上のピンチだろう。
サイズ的には今回のドラゴンゾンビはザラタンとほぼ同等だと思われる。
けれども、身動きを取れなくする手があったザラタン戦とは異なりドラゴンゾンビを動けなくするような手はないのだ。
スピードはないとしてもパワーは警戒しなければならない。
あの巨体から繰り出される攻撃をかすりでもしたら俺たちなど大ダメージだろう。
せめてあと20はレベルが上であったなら互角の勝負に持ち込むことも可能だとは思うのだけど。
その上、鼻が曲がりそうなほどの腐臭は戦う上で重要となる集中力が削がれる恐れもある。
守護者の間にたどり着くまでに鼻が死んでいる恐れはあるけれど。
それはそれで消耗が激しいはずだ。
戦う前から不利な状況を背負い込むなど絶対にしてはならない。
ドラゴンゾンビの戦闘力が低下した以外に俺たちが有利になる材料もないではない。
ゾンビ化すると知性を失うため魔法が使えなくなっていることがそれだ。
とはいえブレスは警戒しなければならない。
元の姿だったときのそれではなく瘴気を濃縮した猛毒の息吹ではあるが。
これも封じなければならないのだから頭が痛い。
このようにドラゴンゾンビを相手にするだけでも問題は次々と出てくる。
龍たちが呆れて当然なのだ。
それでも戦えるのが俺たちしかいないのであるならば、やるしかあるまい。
タイムリミットが迫っているような切羽詰まった状況でないのは不幸中の幸いだ。
まあ、いつイレギュラーが発生するかわからないから悠長にするつもりはないけど。
「これはもう主祭神様方にお願いするしかあるまい」
「そうだね。居候だからって遠慮していると酷いことになりかねないよ」
んん? 龍たちは俺が思っているよりも焦っているような?
「どうして、そこまで焦ってるんですかね?」
「何を言っているのだ。迷宮があのような状態ではいつ暴走するかわからぬではないか。お主も知らぬ訳ではあるまい」
「そうだよ。あんなバッチイのが湖を汚すかと思ったら耐えられないね」
そういや龍たちは水神様だったっけ。
ゾンビがダンジョンからあふれ出したら真っ先に芦ノ湖が被害を受けることになるから気が気じゃなかったんだな。
「一刻も早く浄化してもらわねば」
「問題は何処まで弱体化させられるかだよね。地脈の支配権がこっちにあれば全部消し飛ばすこともできたかもしれないのに」
「それがあったな。忌々しい迷宮の主め!」
「ちょっと待ってもらえませんかね」
「なんだと言うのだ?」
「助っ人を頼んでいるという事実を忘れてませんか」
「猿田彦くんのことか。忘れてはいない。だがしかし、今は助っ人がどうこうと言えるような状況ではなくなっているのだ」
「だよね。一刻も早く何とかしないと」
どうやら俺と龍たちとではダンジョンの状態の見立てが異なるようだ。
これは何とか思いとどまらせることができても猶予はあまり貰えないと思っておいた方が良さそうだ。
「落ち着いてください。まだ慌てるような時間じゃないですよ」
「何を根拠にそのようなことを言うのだ」
金竜は追及してくるが青龍は黙ってジッと俺を見ている。
おかげで、その場しのぎかどうかを見極められているような気分になってしまった。
「実際に数限りなくダンジョンを見てきた俺が言うんです。間違いありませんよ」
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