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227 偵察結果は……

 それなりに歩いて回ったものの敵と遭遇しない。

 やはり最初のファントム集団は芦ノ湖ダンジョン1層のすべての魔物だったのだろうか。


「ここまで敵がいないと拍子抜けしてしまうな」


「油断するな、涼成。何処で出くわすかわからんのだぞ」


「すまん。フロアにいる魔物すべてが最初の襲撃で来たんじゃないかと思ってしまったんだ」


「さっきもそんなことを言っていたな。戦力を集中して投入するのは間違ってはいないがダンジョンでは当てはまらないかもな」


「えっ、どうしてー?」


 英花の言葉に真利が反応した。


「開けた場所じゃないから一度に襲いかかってくる数に限度があるだろう。時間はかかるが対処しやすくなる」


「あ、そっかー。でも、どうして壁抜けとかしてこないんだろうね」」


「ここがダンジョンの中だということを忘れてないか」


 俺が指摘しても真利は首をかしげるばかりだ。


「壁の向こう側は外扱いされるんだよ」


 さすがに空間的に断絶されている場所を飛び越えたりはできない。


「えっ、じゃあ壁を壊したりしたら脱出しやすくなるんじゃない?」


「外と言っても通常空間になっているというだけだ。こんな場所で壁を破壊しても芦ノ湖の地下でしかない」


「そっかー。それだと何の意味もないね」


「それ以前にダンジョンの壁は壊せないぞ」


「そうなの?」


「正しくは壊れた瞬間に元に戻ると言うべきだけどな」


 故に普通はショートカットなどもできない。


「それってズルくない?」


「知らんよ。そういうのはダンジョンの仕様を決めた奴に言ってくれ」


 誰が決めたかは知らないが。

 そもそも不変の法則のようなものにケチをつけても何も変わらないのだから、とやかく言っても始まらない。


「霊体型のアンデッドが壁抜けできないのだから、むしろ得をしていると思うがな」


「そっか。そうだよねー」


 英花の言葉で真利も納得したと思ったのだが。


「あれ? じゃあミケちゃんが壁抜けできるのはどうして?」


「空間魔法を使っているからに決まっているだろ」


「そうだったんだ!」


 スゴいことでも知らされたかのように真利が驚いている。

 今まで気付いていなかったことに俺の方が驚かされているよ。


 なんにせよその後も探索を続けたおかげで、かなりの範囲にわたってマッピングができた。


「どうだ、涼成? 芦ノ湖の半分くらいは探索できたんじゃないか」


「半分は言いすぎじゃないかなー。芦ノ湖って結構広いよ。3分の1くらいはクリアしてると思うけどー」


 英花も真利も気になるようだ。


「面積的なことを言えば4割くらいだと思うけどな」


「間だったねー」


 残念そうに苦笑している真利に対して英花は何かが気になるようで怪訝な顔をして何かを考えていた。


「どうしたのー?」


「涼成が引っ掛かるような言い方をしただろう。面積的には、と」


「そうだね?」


 それがどうしたのかと首をかしげる真利。


「涼成は他の要素で探索が困難になることを懸念しているのではないか?」


「そこまで大袈裟なものじゃないさ」


 今のところはね。


「ミケがなかなか帰ってこないだろう」


「そだねー」


「なるほど。何か探索を困難にする要因があって時間がかかっていると?」


「そういうこと」


「罠が多いのかなー?」


「その程度のことでミケが手間取るとも思えない」


「だよねー」


 自分で言っておきながら真利はさっさと意見を覆す。

 思いつきで発言しただけなのは明らかだ。

 せめて、もう少し推測した考えを披露してほしかったところである。

 そんなことを考えていると……


「お待たせして申し訳ありませんニャー!」


 シュバッと参上のミケである。


「どうだったんだ?」


 待ちきれないとばかりに英花が問う。


「今日のところは引き上げた方が良いですニャン」


「入念な準備が必要なのか?」


「そうですニャー。2層はゾンビだらけで1歩進むだけでも大変ですニャ」


「「うわぁ……」」


 恐れていたことが現実になってしまった。


「それだけじゃないですニャ。3層があって──」


「なにっ、2層までじゃないのか!?」


 英花が強く反応した。


「は、はいですニャッ。3層はラトンビーストですニャー。数は2層ほどではないですが、それだけに厄介かもしれませんニャ」


「ラトン何とかっていうのもアンデッドなの?」


 真利が聞いてくる。

 ゲームや文献などでは出てこないアンデッドだから無理もない。


「ラトンビーストだ。腐った獣ってことだがパッと見だとゾンビとほぼ変わらない」


「なのに別のアンデッドなのー!?」


 目を丸くさせている真利だ。


「より凶暴で俊敏性はゾンビの比ではないからこそのビーストなのだ」


 俺より先に英花が説明してくれた。

 凶暴性が上ってだけならフェローシャスゾンビとかサヴェージゾンビとか呼ばれていただろう。


「初級冒険者が遭遇すれば、たとえパーティを組んでいても助からないだろうな」


「見分けがつかないのも原因だったりする?」


「それとわかっていても初級冒険者には脅威だよ」


「見かけたら逃げるしかないんだね。でも、ゾンビと同じ見た目じゃダメかなー」


「ドス黒いオーラをまとっているから見分けはつくんだが……」


「見分けられるならいいじゃない。何か問題があるのー?」


「オーラと言っても、ほとばしるように出ているわけじゃない。遠目で見分けるのは極めて難しい」


 真利の疑問に英花が答えた。


「そして近寄ってしまえば奴らの間合いというわけだ」


「それじゃあ見分けられても意味ないよー」


「まあ、答えがわかっている俺たちには関係ない」


「それにレアなアンデッドだから気にする必要もないだろう」


 英花が遠い目をする。


「まさか、こちらでも奴らと戦うことになるとは思わなかった」


「だよなぁ。でも、先にラトンビーストだとわかっているだけマシだろう」


「涼成もゾンビだとなめてかかって痛い目を見た口か」


「ああ。きっと代々の勇者が手酷い目にあってるんじゃないか」


「勇者あるあるだな」


 嫌なあるあるだ。


「そんなにヤバい相手が、ここにはいっぱいいるんだよね?」


 真利が焦ったように聞いてくる。


「大丈夫だ。今の俺たちならラトンビーストと知らなくても後れを取るようなことはない」


 ただ、臭いの被害は知っていても受けてしまう恐れが大いにあるのが嫌なところだ。


「そうじゃなくて、他の冒険者さんたちが被害を受けるじゃない」


「英花がレアだって言っただろう。アンデッドの巣窟のような場所で出会うかどうかだよ」


 ゾンビの巣窟だったうちのフィールドダンジョンでさえ出現しなかったくらいだ。

 普通のダンジョンでは、まず出会わないと思っていい。


「でもでもっ……」


 俺たちの話にあおられたせいか真利は妙に焦っている。


「少し落ち着け、真利」


 英花が真利をなだめるべく声をかけた。


「我々以外にこの芦ノ湖ダンジョンに入ってこられる奴がいると思うか?」


 その指摘に真利は我に返った。


「あっ」


 こんな調子じゃミスをしかねない。

 そうでなくてもミケが一時撤退を進言している。

 素直に従った方がいいだろう。

 と、その前に……


「ボスも見てきたんだよな」


「はいですニャン。ドラゴンゾンビでしたニャー」


「撤退だ、撤退! そんなの相手に準備なしで突撃なんかするのはバカだ」


 そんな訳で九頭龍神社まで戻ってきましたよ。


「どうだった?」


 青龍が急かすように聞いてきた。

 金竜もそわそわと落ち着かない。

 まずは報告からだな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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