225 青と金
九頭龍神社の社殿の中に入ると暗い理由が判明した。
洞窟の中のように岩肌しかない場所だったのだ。
ただ、俺たちが入ってすぐに明るくなった。
岩肌全体が明るくなる感じで神秘的な雰囲気がある。
「いらっしゃい」
「よく来たな。猿田彦くんから話は聞いているよ。ワシらのために済まないね」
猿田彦命をくん付けで呼んだのは金色の龍、最初に挨拶してきたのは青い龍だった。
「どうも、初めまして」
「お邪魔する」
「こんにちはー」
真利も人間相手じゃなければ人見知りモードは発動しないようだ。
まあ、龍たちがさほど大きくなかったので威圧感がなかったからというのもあると思う。
シルエットだけなら大蛇と勘違いされる程度のサイズなんだよね。
どう見ても龍と聞いて想像するような大きさではない。
これが地脈と接続できない影響なのか。
「ずいぶんと弱っているようにお見受けするが」
英花の言葉に龍たちは苦笑した、ように見えた。
龍の表情なんてわかんないから雰囲気でそう感じたという訳だ。
「大きさのことかい? 普段はこんなものだよ」
「無駄に力を消耗せずに済むから効率が良いのだ」
「参拝客から受け取った気で維持するのは、これが精一杯とも言えるけどね」
つまり現状にもっとも適したサイズであるとも言える。
「情けないことにな。今は大きくもなれぬ」
金竜が不甲斐ないと頭を振って嘆息した。
「しょうがないよ。うっかり居眠りしてたら、こんなことになっちゃったんだし」
「十年単位で寝るのを居眠りとは言わん」
いずれにせよ龍からすると普通に眠れてしまうものらしい。
まあ、その結果として地脈の支配権を奪われてしまったというのだから感心している場合ではない。
「そうかなぁ? 本格的に眠ってしまうと軽く数百年は眠ってしまうじゃないか」
「今はそんなことを論じている時ではない」
龍たちの掛け合いを見ていると、なんだか漫才コンビを見ているような気分になってきたな。
どちらも漫才をしているつもりはないんだろうけど会話のテンポがなんとなくそんな風に感じたのだ。
「ひとつ疑問に思っていることがあるんですが」
「何だい?」
「この神社は箱根神社の末社ですよね。本社の方に頼らず猿田彦命に救援依頼したのは何故です?」
「ああ、そのことね」
ばつが悪そうに言い淀む青龍。
「ワシらはかつて悪さをしていて調伏された身だ」
「今は改心してるから、こうして祭ってもらえているんだけどね」
「故に居候のようなものでな。お願いすれば助けてもらえるとは思うが……」
「あんまり迷惑かけたくないんだよね」
それで猿田彦命を頼ったのか。
「とはいえ自力でどうにかできる状態ではなくなったのも事実なのだ」
「だから友達の猿田彦くんにお願いしたんだよ」
「友達ですか」
どういうつながりで救援依頼があったのかと思っていたけど、友だち付き合いがあったんだな。
「そうだよ。今は僕のコレクションを貸し出してる」
「コレクション?」
「ゲームだよ。咲夜大戦とか色々」
「「「はあっ!?」」」
ここでそのタイトルを聞くとは思わなかったせいで、俺たち3人はそろって声を上げていた。
「そんなに意外かな?」
青龍が不思議そうにしている。
「それはアレだろう。ワシらがこの姿でゲームができるのかとか」
「ああ、そっか。僕ら霊体だもんね」
俺たちが驚いたのは猿田彦命にゲームを貸していた相手が目の前にいたからだ。
まさかという思いが強かったのは彼らが言ったことも理由のひとつとして含まれてはいるけどね。
仮に実体があったとしても龍の体ではゲームをするのは難しいのではないだろうか。
「今は無理だけど僕たち人化できるんだ」
「それでたまに出掛けたりするのだ」
「ゲーム機とかゲームもその時に手に入れたんだよ」
お金の出所とかについては、あえて聞くまい。
「それで古いゲームだったんだねー」
「えっ!?」
真利の言葉に今度は青龍が驚く番だった。
「技術の進歩は日進月歩と言うであろう。何十年と寝ていれば、そうなって当然だ」
呆れた様子で金竜が溜め息をついた。
「じゃあ、もしかしてSEDAのサルーンはもう……」
「無いですね。後継機のドリームキャットが出ましたけど、その後SEDAは家庭用ゲーム機から撤退しましたよ」
「な、なんだってーっ!?」
やたらショックを受けている青龍である。
「だから、そんなことを気にしている場合ではないだろう」
金竜がたしなめるが、こちらも些細なことを気にしてしまったせいなので責任の一端はある。
「すみません。妙なことを気にしてしまったせいで」
「いいんだ。知らないままの方が恥をかいたと思うから。最新の情報を仕入れておかないとね」
めげてない青龍である。
「気にしなくて良い。此奴はすぐに落ち込むが復活するのも早い」
金竜の言ったことは事実なんだろう。
ならば、いつまでも気にし続けるよりは話を進めた方が建設的というもの。
俺たちは龍たちから話を聞いて詳しい情報を得た。
件のダンジョンは芦ノ湖の地下にあり結構な広さがあるという。
しかも芦ノ湖の形状に合わせる格好なので細長い。
ダンジョン内をくまなく回ろうとすると時間がかかってしまうな。
そして、中の魔物はアンデッド系だそうだ。
思わず天を仰ぎたくなった。
「アンデッドかぁ……」
「ゾンビが出ないと良いのだが」
さんざん嫌な思いをした俺と英花はボヤくしかできない。
広さを考えると助っ人を呼びたいところだけど嫌がられそうだ。
「すまないな。存分に力が振るえる状態なら雑魚など浄化して援護もできるのだが」
金竜が詫びてきた。
「いえ、大丈夫です」
何が大丈夫なのかと問われると答えに詰まってしまうところだけど龍たちに無理はさせられない。
「それをしてしまうとダンジョンが定着しやすくなるのでは?」
英花が気になっていたことを問うた。
「親玉を浄化して消してしまわなければ大丈夫だと思うよ」
「最初のうちに気付いていれば、こんなことにならなかったものを」
あっけらかんと答える青龍に対して金竜は忸怩たる思いがあるようでギリギリと歯噛みしている。
「済んだことをとやかく言っても何も始まらないよ」
「わかっている! それでも嫌な記憶というものは消せぬのだ」
吐き捨てるように言った金竜の気持ちはわからなくもない。
言ってみれば黒歴史だろうからね。
俺にも勇者扱いされて調子に乗っていたら実は騙されていたなんて恥ずかしくも腹立たしい過去がある。
しかも、どんなに忘れたいと思っても消え去ってはくれないのだ。
時間がたてば少しは薄れるだろうけど、それでも完全解消とはいかない。
厄介なものだ。
「今の僕たちにできることなんて無いに等しいから腹立たしいのもわかるけどね。それで無茶して消滅したら意味ないよ?」
青龍にそう言われてしまうと、ぐうの音も出ない金竜だ。
「そんな訳で、ひとつよろしく頼むよ」
青龍がぺこりと頭を下げた。
「ワシからも頼む」
金竜が悔しそうな目をしながら深々とお辞儀する。
ここまでされて何もしないで帰るという選択肢はない。
その無念な思いをなんとしても晴らしたくなった。
「大丈夫。その予定で派遣されてますからね」
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