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222 青雲入道の甘党仲間

「やはり人間は面倒な生き物よな」


 青雲入道が俺たちがお土産として持参した豆大福を食べながら語った。


「そうかい?」


「そうとも。恨みつらみで同族を殺せるのだからな」


 田原のことだ。

 本来であれば青雲入道が狸親父のことなど知る由もないのだが……

 お土産を手渡した際に最近の出来事を聞かせてほしいと頼まれたので話した結果がこれである。


「もちろん、お主らがそういう輩とは違うことは承知しておるがな」


「そりゃどうも」


「しかし、この豆大福は旨いな」


 青雲入道は満足そうにうなずきながら食べている。

 これで何個目だろうか。

 ちょっと買いすぎたかもしれない。

 それもこれも烏天狗たちの人数がわからなくて多めに買ってきたからだ。


 そういや、デパートの店員さんが目を丸くさせていたなぁ。

 お世話になった会社に持っていくお土産だと言ったら納得してくれたけどさ。

 言うまでもなくウソだ。

 奇異の目にさらされるのに耐えられなかったせいなので俺は悪くないと言いたい。


「喜んでもらえて何よりだが、一度にたくさん食べて大丈夫なのか?」


「ん? 問題ないぞ。我は病気にならんのでな」


「それはうらやましい話だ」


 人間なら腹を壊してもおかしくない量を食べているからね。

 もし人間が毎日この量の豆大福を食べ続けたら短期間で糖尿病になってしまうこと間違いなしだ。


「人間は不便よな。だが、うらやましくもある」


「そうか?」


「このように旨いものを好きなときに食べられるではないか」


「あー、そういうこと。言われてみると確かにそうかも」


「我らは供え物を間接的に味わうことしかできぬからなぁ」


「間接的?」


「じかに食べられぬから術で味を抜き出しておるのよ」


「へえ、そんなことしてたんだー」


 真利が妙に感心している。


「天狗に限った話ではあるまい。供え物をした後のお下がりは味気ないことが多い」


 英花は似た事例を知っているようだ。


「そうだな。お主らであれば問題あるまい」


 不意に青雲入道が謎めいたことを言い出した。


「俺たちだと何が問題ないんだ?」


「うむ。我が友にも土産を持っていってはくれまいか」


「えーっ、高尾山以外にも東京に天狗がいるんだー」


 真利は目を見開いて驚いている。


「いや、この近辺に我以外の天狗はおらぬ」


「なるほど。天狗以外の友がいるということか。興味深い」


 しみじみとうなずく英花。


「左様。我が友は日枝神社におる」


 確か修学旅行のしおりに記載されていた。

 まだ行っていないが行く予定の場所である。

 建立されている場所は確か赤坂だったか。


「神様なんだー」


 確か祭神は……


「人間からするとそうなるか。名を猿田彦と言う」


 そうそう、そうだった。


「でも、私たちが行ったところで会えるのかなぁ。神様も隠れ里のような場所にいるんでしょ?」


「確かにな。ここのように人気のない場所から入るようなことはできないだろう」


 真利が疑問を呈すると英花も同意する。


「まずはここに来るがよい。道をつなげてやろう」


 それなら誰にも見られずに行くことができるか。

 問題があるとすれば、青雲入道たちにも再びお土産を持ってこないといけないことだろう。

 それが目的じゃあるまいな。


「ひとつ聞きたいんだけど」


「何かな?」


「向こうは何人いるんだ?」


 日枝神社は大きな神社だったから、お一人様ってことはないだろう。

 神使とか眷属とかがいるはずだ。

 あと神様相手に何人はないか。

 本来なら柱で数えるんだったっけ?

 なんだか青雲入道との付き合いから人のように思ってしまっていた。

 もしかすると不敬だと叱られてしまうかもしれないというのに。


「律儀よな。適当で構わぬぞ」


「そういう訳にはいかないだろう」


「眷属は九尾の狐がいるのみだが、神使は猿が沢山だ」


「おーい、たくさんじゃわからんぞ」


「そうとしか言い様がないのだ。その時によって増えたり減ったりするからな」


「どういうことだ?」


「神使は外に出て仕事をしていることが多いのだ」


「あ、そうなんだ」


 それでは正確に把握するのは困難だろう。


「足りねば足りぬで構わぬよ。誰も気にはせぬ」


 少し多めで持っていって足りなければそう思うことにしよう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 日を改めて高尾山の隠れ里から道をつないでもらい日枝神社の神境に来た。

 青雲入道の話によると神社における隠れ里のようなものらしい。


「やあ、いらっしゃい」


 鳥居をくぐるとフレンドリーなお兄さんが出迎えてくれた。

 着ているものは神職の衣装を動きやすくしたようなものだが軽さを感じない。

 ニコニコしていて近所の親切なお兄さんって雰囲気もあるのだけど絶対に侮るようなことがあってはいけないと本能が訴えてくるのだ。

 かといって恐れ多いと感じるようなことはなく、自然と両手を合わせて感謝の言葉が出てきそうになる。

 きっと徳望があるからなんだろう。

 間違いなく神様だ。


「すみません。神様自らお出迎えにいらっしゃるとは思いもしませんでしたので」


「いやいや、いいんだよ。青雲くんの連絡があってから楽しみで仕方なかったんだ」


 つまりは待ちきれなくて自ら足を運んだということか。

 普通は奥の社にどっしりと構えているものだと思うんだけど、そういうイメージとは裏腹にフットワークが軽い神様だね。


「ああ、それともっと気楽に話してほしいな。青雲くんのところでも普通に喋っていると聞いているよ」


 青雲入道はそんなことまで話しているのか。


「勘弁してください。神様相手に不敬じゃないですか」


 一応、抵抗はしてみたのだけどニコニコした笑顔のまま無言で威圧されてしまいましたよ?

 強い殺気を浴びせられるよりもプレッシャーがすごくて心臓に悪いったら。

 もちろん抗える訳もございません。


「えっと、じゃあ、よろしく……」


「うんうん」


 猿田彦命は満足そうだが俺は寿命が縮まりそうだよ。


「諦めろ、人間。このお方は昔からこうだ」


 いつの間にか白狐が猿田彦命のそばに座っていた。

 よく見ると尻尾がいくつもある。

 青雲入道から聞いていた九尾の狐だな。

 お猿さんは遠巻きにして俺たちを見ている。


「えっと、これお土産、ですよ?」


 普通に喋ろうと思えば思うほど頭の中がこんがらがって自分で何を言ってるのかわからなくなる。

 おかげで英花や真利には苦笑されてしまっていた。

 だったら俺の代わりに話をしてくれと言いたい。


「いやあ、すまないねえ。青雲くんは僕が甘党だと知っているから気を利かせてくれたみたいなんだ」


 お土産の芋羊羹を嬉しそうに受け取りながら、そんな話をしてくる。


「ほうほう、舟波の芋羊羹だね。これをじかに味わえる日が来ようとは」


 東京で買ったものだからお供えされていることもあるだろうと思っていた。

 けれど、これを選んだ理由は切り分け方しだいで食いっぱぐれることがないからだ。

 あまりに人数が多いと極薄になってしまうけれども。

 そんな訳でここまで受けが良いとは夢にも思っていなかったよ。


「ささっ、こんなところで立ち話も何だから奥へ行こう」


 ウキウキの猿田彦命に手まで引かれて案内されてしまうと逃げることもできやしない。

 できれば帰りたいんですがダメですか?

 そんなことを考えていたら英花と真利に背中を押されてしまった。

 逃げ腰になっているのを見透かされてしまったみたいだ。

 お土産は喜んでもらえたんだから、いいじゃないか。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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