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215 当たりが来る

 何度目かの小休憩を取っているときだった。


『涼成様、大変ですニャン』


 ミケを送り出してから、さほど時間もたっていなかったが念話で連絡があった。

 何か不測の事態があったようだ。


『どうした?』


『ソードマンティスが見つからニャイのは当然ですニャー』


 泡を食っているせいかミケの報告は要領を得ない。


『具体的には?』


 辛抱強く問い合わせてみたところ──


『奴ら湧き部屋にいるのかってくらい群れてますニャッ!』


『数は把握できるのか?』


『30以上は確実にいますニャ』


 攻撃力に特化した魔物が数十体はキツいな。

 下手なボスよりよほど脅威だ。

 それでも俺たちだけなら対処できるけど今は同行者がいるからなぁ。


『ここから近いのか』


『実はそうですニャン』


『それならボス部屋に誘導する方がまだマシか』


『残念なお知らせがありますニャー』


『なんだよ?』


『ボス部屋はソードマンティスが群れている場所のさらに奥なんですニャ』


 なんてこったいな事態だ。

 ボス部屋で戦えば、さすがに探索を続行しようとは言い出さないだろうと思っていたのに当てが外れた。

 このままだとソードマンティスの群れとの遭遇戦になりかねない。


 戦いは数だよ、兄貴! なんて言った厳つい顔のオッサンがいたけど、それが実現してしまう恐れがある。

 ならば、どうするか。


 このまま引き返す?

 どう考えても無理だろうな。

 大阪組はともかく遠藤大尉たちはソードマンティスを見つけるまで帰ることはないはずだ。

 3層すべてを巡って発見できなかったとでもならない限り。


 かと言って、このまま流れに任せるのは非常に危険だ。

 数十体のソードマンティスとまともに戦うことになるのが目に見えている。

 果たして大阪組や遠藤大尉たちが最後までノーミスで回避し続けられるだろうか。

 回避に専念するなら、しばらくは可能かもしれない。

 それとて体力が続く間という条件がつく。

 ましてソードマンティスを仕留めるために攻撃がともなうとなれば厳しいと言わざるを得ない。


 帰れない状況では残された選択肢は迎撃のみ。

 それと承知で戦うのであれば流れに任せるのとは違う結果になるよう一工夫が必要である。

 要は各個撃破をすればいいのだ。

 次々と敵が襲撃してくるとなれば、途中で撤退となることもあるだろう。

 問題はどうやってそれを実現させるかだ。


 こういう時に良い手を思いつけないあたり自分がポンコツなんだと思い知らされているようで嫌になる。


『英花、なんかいい手ある?』


『脳筋コンビを眠らせて担いで逃げるのはどうだ』


 遠藤大尉と氷室准尉のことなんだろうけど脳筋コンビとはね。

 英花は氷室准尉のことは何とも思ってなかったはずだから遠藤大尉に引っ張られたんだな。


『そこまですれば、さすがに全員が撤退するだろうけどさ。後のことはどうするんだよ』


 文句を言われるのは間違いないし説明も求められる。

 そして、まともに言い訳できる材料もない。

 実行すれば後で確実に詰む一時しのぎでしかないものを、いい手とは言わない。


『言ってみただけだ』


『あのな……』


 言いたくなる気持ちはわからなくもない。

 根に持ちすぎと言われるだろうけど今日の予定をキャンセルされた恨みは簡単には消えてくれないのだ。

 俺だってそうなんだから。


『真利は?』


『釣るしかないんじゃないかなー』


『そんなことをすれば確実に犠牲者が出るぞ』


 守る対象が多すぎるから、どうしても抜けができてしまう。


『一気に押し寄せないように通路に風の障壁をかけておけばいいんじゃないかなー』


『ついでに通路を狭めるように石壁を使うのはどうだ?』


 英花がそんな提案をしてきたのだが。


『それは却下だな。万が一にも目撃されると面倒だ』


 ダンジョンの地形は変化しないのが基本だ。

 石壁で形を変えた場所が次に来たときには元に戻っていたなら、どう思われるか。

 勘のいい遠藤大尉だと、それだけで俺たちの関与を疑ってくる恐れがある。

 そういうリスクは避けたいものだ。


『ふむ、それもそうだな』


『じゃあ、ミケちゃんの方へ転移して適当に間引くのはダメかな』


 真利がなかなか大胆なことを言い出した。


『それこそ見られたらどうするんだよ』


『こっちはミケちゃんに化けてもらって、向こうは幻影で何もないように見せるとか?』


『転移の瞬間がネックだよ。よほど上手くやらないと幻影が不自然に見えてしまうぞ』


『そっかー、残念』


「そろそろ行こうか」


 不意に遠藤大尉が休憩の終わりを告げた。

 悠長なことはしていられなくなったな。


『ミケ、釣ってくれ。先頭の何体かをこちらに向かわせて後は風魔法で妨害を!』


『了解ですニャー』


 結局、バタバタした状態での作戦決行となった。

 正直なところ作戦というのもどうかと思うような代物だけどね。


 で、ミケに釣り出しを指示して間もなくのこと。

 最初に気付いたのは堂島氏であった。


「遠藤はん、なんぞ近寄ってきよりますわ」


 さすがは斥候担当といったところか。


「数は?」


「もうちょっと近寄ってこんと何とも言えませんけど3くらいやないかと思いますわ」


 正解だ。

 ミケは上手くやったようだな。


「その様子だとワーウルフではなさそうだな」


 奴らの移動速度を考慮しての判断だろう。


「あとはハーブマンか未だ遭遇していないソードマンティスか」


「どっちでしょうね。できれば当たりであってほしいものですな」


 何も知らない氷室准尉は後者を望んでいるようだ。

 というより、ここにいる事情を知らない全員がそう思っていることだろう。

 もしもソードマンティスが30体も群れていると知ったらどんな反応をするのかね。


「おっ、来たか!」


「むぅ」


 やがて遠藤大尉や氷室准尉も気配を感じ取り──


「ここで迎撃する。おそらく当たりの方だ」


 イケイケだった今までとは異なる慎重な指示が出された。

 気配から何かしら不穏なものを察知したらしい。


 止まった場所は通路の中でも広くなっている場所なんだけど、その選択はどうなんだろうね。

 確かに多数の敵を相手にするときは狭い場所の方が相手の数を絞れる利点がある。

 その一方でこちらも動きが限定されてしまって連携が取りづらかったり、何より回避する際の動きが制限されてしまう。

 当然、広ければその逆だ。


 遠藤大尉の方針は連携優先であることは間違いあるまい。

 回避重視かは聞いてみないとわからないけど多少は考慮していると思う。


「来たぞ!」


「ホントにカマキリだよ。当たりだったな」


「張井、あれで間違いないか?」


 確認するように遠藤大尉が問い合わせてきた。


「ええ。俺たちが戦ったのと同種の魔物です」


「注意点は?」


 何度も聞かれたはずだがと思いかけて、これは遠藤大尉なりの配慮だと気付いた。

 失念してヘマをする者が出ないようにおさらいしてくれている訳だ。


「攻撃は絶対に回避で! 受けたら武器や防具が壊されると肝に銘じてください」


 さすがに言い過ぎの嫌いはあるが、まともに食らえば一巻の終わりとなる恐れがある以上は用心に越したことはない。


「ということだ。全員、気をつけろよ!」


 遠藤大尉の激励が戦闘開始の合図となった。

 3体のソードマンティスに対して各チームで対応することになるようだ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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