214 簡単には得られないスキルもある
前日に選択したのと同じ通路を進んでいるけれど同じ魔物に遭遇するとは限らない。
ソードマンティスと遭遇したところまで来たが、今のところは魔物の痕跡すら見当たらない有様だ。
結局、新たにマッピングすることとなった。
(この調子だと時間かかりそうだよな)
(魔物と遭遇しても他のやつばかりだったりして)
真利が珍しく意地の悪いコメントをしている。
大人の修学旅行を邪魔された恨みは食べ物のそれと同等以上らしい。
そしてコメント通りにソードマンティス以外の魔物ばかりが出没するようになった。
ハーブマンであることが多いが、たまにワーウルフが来る。
「また、ワーウルフかよっ!」
「しかも数が多いですぜ!」
遠藤大尉と氷室准尉の前衛コンビが愚痴りながらも2人だけで抑え込みながら戦っている。
さばくのに時間がかかると判断したのか後衛の大川曹長が魔法を放った。
格子状の炎が通路いっぱいに広がりながらジリジリと飛んでいく。
火球の応用だな。
このままだと前衛の2人にも当たってしまうが、アレは逃げ場はないと思い込ませて炎の檻に意識を向けさせるためのブラフだろう。
本命は堂島氏の風刃だった。
案の定、大川曹長の魔法に動きを鈍らせていたワーウルフたちがまんまと脚を傷つけられていく。
スピードが命のワーウルフにとって、それは致命的なダメージだ。
瞬く間に前衛の2人によって始末されていく。
言うまでもなく大川曹長の魔法はキャンセルされた。
それを見て大阪組が驚き感心する。
「魔法を使い捨てたで!?」
「ブラフに使たんや。せやけど、ビビらせて他に意識が向かんようにするっちゅうのは斬新やで」
「魔力の無駄遣いて言われそうやけど消費は最小限やろな。制御が大変そうやと思うけど」
「さすが自衛軍ちゅうことやな」
「堂島も複数の魔法を制御しきっとったし、ワイらも負けてられへんわ」
「今のところ制御では向こうの方が上とちゃうか」
「そこは、これからやろ」
「せやな。成長の余地がない訳やないんやし」
「明日から気合い入れて修行のやり直しや!」
「「「「「おう!」」」」」
どうやら居残りさせて正解だったようだ。
帰らせていたらモチベーションを高めることも戦い方のバリエーションを増やすヒントを得ることもなかっただろうからね。
「そっちも盛り上がってんな」
ドロップアイテムの回収が終わった遠藤大尉が声をかけてきた。
何故か大阪組にではなく俺というのが解せないのだが。
「俺は別にテンションが上がってる訳でもないんですがね」
「指導教官なんだろう?」
遠藤大尉はニヤニヤしながら聞いてくる。
これはあの狸親父少佐から聞いたな。
「一時的にレクチャーした程度で教官と呼ばれるほどのことはしていませんよ」
「ほおう?」
さらにニヤニヤが増す。
堂島氏からも情報を得ているから大阪組の元の強さなんかも把握しているのだろう。
「何か誤解されているようですが、俺たちが彼らに足りていないものを指摘した程度にすぎません。元からそれだけの伸び代があっただけのことです」
「おや、そうなのかい?」
首をかしげながら大阪組の方を見る。
彼らがどう答えるかで判断しようということか。
「教えてもろたんは、ほんの数日ですさかいなぁ」
「ゲームみたいにパワーレベリングしたちゅう感じやありませんでしたで」
「自惚れる訳にはいかんけど伸び代があったちゅうのも道理ですわ」
「ホンマホンマ」
「それに、いのちだいじにの方針も行きすぎると逆効果やいうのは教えてもらわんと気付かんままでしたで」
「とどのつまりワイらはホンマに戦い方を知らんかったとしか言い様がないんですわ」
大阪組の返事は遠藤大尉にとっては望んだものではなかったようだ。
その証拠にニヤニヤが消えている。
興が削がれたといったところか。
こうなると話が続くはずもない訳で。
さらに大川曹長から急かされて探索の再開となった。
「こうも遭遇できないとはなぁ。本当にカマキリはいるのか?」
遠藤大尉が退屈そうに氷室准尉に声をかけている。
「動画も剣腕や羽根も見たじゃないですか」
呆れたように返事をする氷室准尉である。
「そうなんだけどさぁ。こうも発見できないとは俺たちクジ運悪くね?」
「こういうのをクジ運と言って良いのかは疑問ですな。運が良いとは言えないでしょうがね」
「何にせよ暇だよなぁ」
遠藤大尉は同意を求めるようにボヤくが、氷室准尉は返事をしない。
「准尉?」
横を歩く氷室准尉を見る遠藤大尉。
そこには後ろを気にして冷や汗をかいている氷室准尉がいた。
「んん~?」
釣られるように歩きながら振り返ると……
「うっ」
ピリピリした空気をまとった大川曹長がいた。
「そんなに暇なら大尉にマッピングを交代してもらいましょうか。退屈しのぎにはなりますよ」
冷たさの感じられる声で言われた遠藤大尉は震え上がった。
「いや、遠慮しておくよ。俺の描いた地図は評判が悪いからな」
「それならば尚のこと練習してもらわないといけませんねえ」
どうやら簡単には許してもらえないようだ。
その後もネチネチとお小言をもらい続けたことで遠藤大尉はすっかり大人しくなってしまった。
「軍隊て階級がすべてや思てたけど、そうでもないんやな」
「あの美人曹長さん、ごっつう怖いわ」
「ああ、触らぬ神に祟りなしとは正にあんな感じやな」
「出た。国語教師の今日の格言」
大阪組も他人事として軽口を叩いているな。
大川曹長の耳にも届いているはずだけど少しも意識を向けられる様子がない。
それだけ遠藤大尉に怒り心頭なんだろう。
そうこうする間に結構な距離を歩いていた。
上の階層と大差ないくらいにマッピングも進んでいる。
こうなってくると階段かボス部屋が出てきてもおかしくないんだけど、この面子でボス部屋に挑みたくはないなぁ。
しょうがない。
少しだけズルをしますか。
『ミケ』
念話でミケを呼ぶ。
霊体モードでずっとついて来ていたミケがシュバッと俺の前にやってくる。
もちろん霊体のままでだ。
『お呼びとあらば即参上ニャン』
外連味のあるポージングで自分は忍者ですアピールをしてくるミケだが、そこはいつものようにスルーだ。
『ボス部屋を避けたい。それとソードマンティスを釣ってきてくれると助かる』
『了解ですニャ』
返事をしてシュバッと消える。
(ねえ、涼ちゃん。どうしてあんな指示を出したの?)
(この面子でボス部屋に突入したくない)
(どうしてー?)
(戦わざるを得ないけど手抜きしてると見られかねない)
だからといってギアを上げると、それはそれでドン引きされることになりかねない。
今の俺たちと彼らではそれだけの差があるのだ。
(せめて芝居スキルを得ていれば、誤魔化しようもあるのだろうがな)
英花も話しに加わってきた。
(そんなスキルがあるんだー)
(あるけど勇者として必要性を感じなかったから取得してないぞ)
(私もだ。こんなことなら取得だけでもしておくべきだったな)
(今からでも遅くないんじゃない?)
(検討はしておくか)
(それって、いつまでも検討中になると思うんだけど)
(他のスキルと違って取得しにくいんだよ)
(そうなのー?)
(真剣に芝居をする機会が俺たちにあると思うか?)
(せめて観劇するとか)
(その程度で取得できるならドラマとかアニメを見ているだけで習得できてるよ)
読んでくれてありがとう。
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