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212 英花、不機嫌になる

 地元冒険者たちがドン引きしている。

 静まりかえってしまったホールの有様に刺激が強すぎたかと思ったが、これくらいでないと実力が足りていない脳筋の突撃は防げないかと考え直した。


「ある意味めっちゃ受けたようなもんやで、これ」


「なんでや、ドン引きやんけ」


「せやから、ある意味なんや。ごっつう注目されてインパクト抜群の結果やろ」


「言いたいことはわからんでもないけど、やっぱりちゃうやろ」


「そんなんどうでもええわ。この結果は俺らにもキツいで」


「ホブゴブリンの皮て防具にも使われるやろ」


「どっちか言うたら安モンやけどな」


「それが問題やねん」


「どう問題なんや」


「安モンの方が出回っとる量が多いちゅうことやろ」


「メンテが楽やからベテランでも使てる奴は多いで」


「楽ちゅうかコストがかからんさかいな。どっちにせよベテランもよう使てるのは由々しき事態やで」


「犠牲者がそんだけ増えるちゅうことやろしな」


「勇者様がデモンストレーションしたのもようわかるわ」


「それつまり帰り道ですでにデモンストレーションしよて考えてたちゅうことやろ。マジで危惧してたんやなぁ」


「そんだけ手強い相手やったんやろ」


「ワイら、撤退して正解やったな。あのまま戦っとったら死にはせんでもヤバかったかもしれん」


「ホンマや。あのタイミングで慎重になったんは、ええ判断やった」


「下手したら3層見つけたことでテンション、ガーッ上がって調子に乗っとったかもしれんからなぁ」


「いのちだいじに、は基本やで」


 静まりかえった事務所のホールで大阪組が遠慮なく喋っているというのに、地元冒険者たちは黙りこくったままだ。

 まさかトラウマになってないよな。

 それはさすがに罪悪感が湧いてしまうんだけど。


「凄いことをしてくれたものだね」


 ようやく他人の声が聞こえたと思って振り向いたら報告に向かった受付のお姉さんを従えたオジさんがいた。

 おそらくはここの所長だろう。

 ただ、初めて来たはずなのに何故か見覚えがあると感じる人物だった。


「んー? そこの君たちは……」


 向こうも俺たちのことを見知っているような口ぶりだ。


(最初に潜ったダンジョンを管理してる事務所の所長さんだよ)


 真利がそっと耳打ちして教えてくれた。

 言われてみれば確かにそうだ。

 まさか、もう会うこともないだろうと思っていた人物と思いがけない場所で再会したものだ。


「前に隠し階段の報告を受けた新人冒険者だったね。おっと、今は特級冒険者だったかな」


 実にわざとらしい言い様だ。

 報告を受けた時点でチェックしていただろうに。

 以前のように向こうのペースに引きずり込まれないようにしないといけない。


 それとは別に地元冒険者たちの方からざわめきが聞こえてきた。


「特級? 特級免許持ちなのか」


「マジかよ!?」


「どうりで魔王様とか勇者様なんてトンデモな呼ばれ方してるわけだぜ」


「雰囲気あるよな」


「もう1人も何かスゴい二つ名とかあったりしそうだな」


「ずっと黙ってるけど、そっちの方が怖く感じるよ」


 ようやくソードマンティスの剣腕の呪縛から解き放たれたみたいだ。

 視線をオジさんの方へ戻す。


「ここの所長を任されている田原だ」


 階級章を見ると少佐だったが、前は違うものをつけていた気がする。

 統合自衛軍に再編成される際に昇進した口だろう。

 遠藤大尉たちのように前線で成果を上げる機会が少なそうなのに階級が上がるということは、かなり優秀な人物と見るべきか。

 その割には冒険者事務所の所長のポジションは変わらぬままだけど。

 冒険者の成果が少ない事務所に派遣されて立て直しをするのが専門だったりしてね。


 何にせよ向こうが名乗ったのだから、こちらも自己紹介をしていく。

 大阪組もいるので、そこそこ時間がかかったような気がした。


「またしても君たちが隠し階段を発見したのか」


 俺たちの方を見ながら田原少佐が言った。


「違いますね。発見したのは彼らです」


 大阪組の方を見るよう視線でうながす。


「ほう、君たちか。地元の冒険者ではないと見受けるが」


「自分らは大阪がホームですわ」


 代表して高山が答えている。


「それにしても今日ここに来たばかりなのだろう? それで隠し階段を発見するとは快挙だね」


「縁があって真尾さんたちに鍛えられましてん。今日は自分らがどれだけできるようになったか見てもらおいうことで距離を置く形ではあるんですけど同行してもらいまして」


「ほうほう、それはそれは」


 楽しげに笑みを浮かべる田原少佐に嫌な予感を覚えた。


「先に言っておきますが、見ず知らずの相手を鍛えるつもりは毛頭ありませんので。大阪組には遠征時に世話になったからですよ」


 先に釘を刺しておく。


「おや、そうなのかい?」


 すっとぼけた感じで大阪組に問うあたりタヌキだな。


「自分らの方が世話になった気がせんでもないですけど、そういうことですわ」


「それは残念」


「そもそも自分らは遠征に来ているだけですよって長居しませんで」


「おや、それは残念。もっと成果を上げてほしいと思っていたんだがねえ」


 チラチラと大阪組や俺たちを交互に見てくる様は実にわざとらしい。


「どのみち新しい層が発見されたら自衛軍のチームが派遣されるでしょう。テコ入れするならその後にしないと事故があってからじゃ責任問題になるんじゃないですか」


「そう言われてしまうと強くはお願いできないねえ」


「強くでなくてもお断りだ」


 不愉快そうに英花が言った。

 向こうが探るような目つきで見てきたからだ。

 要するに利用する気満々ってことだな。

 そんな調子であんなことを言われると額面通りに受け取ることなどできない。


「高山、帰るぞ」


 特に声を荒げるでもなく英花が声をかけた。


「えっ、報告はどないしはるんでっか?」


「不要だ。搾取することしか考えていないような所長のいるギルドに協力する必要などない」


「搾取は酷いなぁ」


 苦笑する田原少佐。


「少佐、英花に駆け引きを仕掛けるなど下策もいいところですよ。そういうのを一番嫌いますからね」


 自衛軍と険悪になるのも考え物なので一応は火消しに動いておく。

 ただ、ここで引き下がらないのなら俺もこれ以上のフォローをする気はない。

 それは真利も同じようで俺の後ろに隠れながらも嫌悪をあらわにしていた。

 多少の殺気が乗ったせいか地元冒険者たちがビクついている。


「いや、参った。降参だ」


 田原少佐が冷たさの残る表情をクルリと変えて軽く両手を挙げた。


「遠藤から聞いていたが、ここまで成長しているとはね」


 どうやら俺たちは、どれほどのものか見極めるために試されたようだ。


「気に入らないな」


 英花もそれを理解して不機嫌さは維持したままだ。

 帰るのだけは保留にしたようだけど。


「すまないね。久々だったから、おもねるようなタイプかどうか確かめさせてもらったんだよ」


 それで媚びへつらうようなら利用する気だったんだな。

 食えない狸親父だ。


「あのー、報告はどないしたらええんでっしゃろ?」


 小さく手を挙げて高山がおずおずと聞いてくる。


「ソードマンティスとやらが危険な魔物だということはよくわかったよ。記録にも残せたから周知させるのは問題ない」


「え? いつの間に……」


 困惑する大阪組に防犯カメラを指差して知らせる。


「あっ、そんなことまで見越してはったんですか!?」


「何度も繰り返すなど面倒だろう?」


「「「「「あー」」」」」


 俺が問い返すと大阪組からは納得の苦笑が返された。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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