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211 大阪組、待たされる

「少々、お待ちください」


 受付のお姉さんが[休止中]の札を出して去っていく。


 高山が振り返って困惑の表情を見せた。


「待て言われてもなぁ。何しに行ったんや」


 己の中に湧き上がった不安を誤魔化すように早口で喋る高山。

 リーダーがそんなことでどうするのかと問いたいところではあるけど、ここはダンジョンの中ではない。

 故に不安を隠すことなく表情に出しているのだろう。


「心配は無用だ」


「魔王様」


 英花が声をかけた時点で高山は落ち着きを取り戻していた。


「上役に報告に行っただけだから」


「ホンマですか!? そんなことあるもんなんですか?」


「我々も通った道だからな」


「なんや大袈裟な言い様ですなぁ」


「呼び出しを受けることになるとしても同じことがもう一度言えるのか?」


「ええっ、そんなことありますのん?」


「経験者が語っているのだ。間違いであるはずがなかろう」


「魔王様たちも隠し階段見つけたことあるんでっか?」


「最初に潜ったダンジョンでな。あの時も冒険者事務所の所長に呼び出された」


 そういうこともあったなぁ。

 あの所長さんの名前は聞きそびれたけど食えない感じの油断ならない人物だったのはよく覚えている。

 今もあそこの所長なんだろうか。

 役所関係は割と頻繁に人事異動があると聞くけど、軍隊でも同じだとすると別の部署にいる可能性が高い。

 まあ、遠藤大尉たちと違って少し話して終わった程度の関係だから二度と会うことはないだろう。


「最初に潜ったダンジョンて……」


「いきなりで、ごっつい成果上げてますやんか」


 大阪組が唖然とした顔でコクコクとうなずく。


「たまたまだ。違和感のあった場所が引き戸になっていたことに気付けただけのことだからな」


「いやいやいや、たまたまなんてことがある訳ないでっしゃろ」


「そうですわ。今まで隠し階段見つけた冒険者チームなんて数えるほどしかおりまへんで」


「まったく居なかったわけじゃないだろう」


「そういうのは斥候が得意な面子を抱えてるパーティだけでっせ」


「せや。経験豊富なとこが何度も潜ってようやく発見できるかどうかですからなぁ」


「偶然では見つけられませんて」


 ズルして見つけたようなものだから偶然と言い張るしかないのだ。

 察してくれと言いたいが、それを言ってしまうとズルをしたこともバレてしまうので沈黙するしかない。


「謙遜しはりますなぁ」


「もっと自慢してもええと思うんですけど」


「そんなことをしても鬱陶しいのが寄ってくるだけで我々には何のメリットもない。むしろ損をするだけだ」


「「「「「あー……」」」」」


 英花の言葉に大阪組が現実に気付いたようだ。


「これはワイらも吹聴するような真似はせん方が良さそうや」


「せやけど、あのカマキリはどないするんや。虫系の魔物はヤバいて聞くで」


「なかなか死なんとか、やたら固いとかいう話は聞くわな」


「カマキリは固いとは思えんけどな」


「奴らは部分的には固いぞ。頭とか剣腕とか」


 俺がそう言うと大阪組の視線が一気に集まった。


「そういや勇者様たちが、アレ仕留めはったんでしたっけ」


「まあな」


 本当は真利が一撃で終わらせたのだが、それを言ってしまうとソードマンティスは大したことがないと誤解されかねない。


「とにかく、虫のヤバさについてはギルドに報告してお任せでええやろ」


 丸投げとも言うな。

 責任が自分たちに無いことにするだけでも罪悪感などは薄れるはずだから悪いことだとは思わない。


「それやったらカマキリ倒した魔王様たちにも来てもらわんとアカンわな」


 帰りの道中で色々説明したせいか指名されてしまう。


「せやせや」


「よろしゅう頼んまっせー」


 大阪組は俺たちを巻き込む気満々のようだ。

 他のことであれば回避一択と言いたいところだが、無謀な冒険者が出てこないように警告するのも俺たちの仕事だと思うしかない。

 ここで俺たちにからんできた輩だと聞く耳を持たないだろうけど。

 連中がどうなろうと知ったことではないが、他の真面目な冒険者たちの犠牲が増えるのは嬉しくないのでね。


 地元冒険者たちも聞き耳を立てているのでカマキリの話をもう少ししておこう。

 おもむろに大型バックパックから剣腕を取り出す。

 布に包まれているので地元連中は何を始めるのかと首をかしげつつも興味津々だ。


「勇者様、それが例のドロップアイテムでっか?」


「ああ、ソードマンティスの剣腕だ。説明するなら現物を見せた方がいいだろう?」


 言いながら包みを解いていく。


「そりゃそうですけど、今でなくてもええんとちゃいますか」


 中身が人の腕と変わらないサイズの剣のようなものだと判明するとフロアにどよめきが起きた。

 地元冒険者たちには見覚えのないドロップアイテムだからだろう。


「スゲー、何だアレ?」


「見たことないぞ。何の魔物からドロップしたんだろうな」


「彼らの話からするとカマキリの鎌じゃないか?」


「ソードマンティスとか言うようだな」


「ここにはそんな魔物いないだろう」


「いや、3層を発見したと言ってたから、そこで仕留めたんじゃないか」


「虫かー。ヤバいんじゃないか?」


「しぶといって言うもんな」


 彼らの話が聞こえてきたところで大阪組も俺の意図を察したようだ。


「自重してくれたらええんですけど」


「そうでない者の面倒まで見るつもりはないさ。俺たちがするのは警告を出すだけ」


「その後に用心するかどうかは本人しだいってことだ」


 英花がフォローしてくれた。

 先に牽制しておけば警告も軽んじられることは少ないだろう。

 なるべく犠牲者が減るようにと呼び出されるまで大阪組を相手にソードマンティスとの戦い方を説明しておいた。


「頭潰しても死なんとかシャレになりまへんで」


「だから先に心臓と脚部の付け根を潰す」


「なるほど。心臓潰しとけば動きが鈍なるし頭が残っとっても時間の問題ちゅう訳ですな」


「脚をもいだら、まともに動けんようになる。考えましたな」


「せやけど懐に入らんとアカンからヤバいで」


「その剣腕、ごっつ切れ味ええんでっしゃろ?」


「ああ。並みの鎧はバターも同然だ」


 ホブゴブリンの皮で実演してみせる。


「それ、帰りの途中で狩ったホブゴブリンの皮でっしゃろ」


 何に使うのかとばかりに声をかけられたので丁度いい。


「ああ。こういうこともあろうかと思って実演用にな」


「実演でっか?」


 岩田がどういうことかと首をかしげながら聞いてきた。


「この剣腕の切れ味を目の当たりにして無謀な突撃をするような奴はいないと思いたいね」


「そうは言うても刃物は腕前しだいで、なまくらでも切れまっしゃろ」


「持ってるだけなら腕も関係なくなるさ」


「へ?」


「という訳で、これを持ってくれるか」


「ワイが剣腕を持つんでっか?」


「つべこべ言わない。刃は上向きで姿勢を低く膝をついて」


「はあ、こうでっか?」


 戸惑いながらも従う岩田。

 地元冒険者たちによく見えるように角度を調整しホブゴブリンの皮を丸めたものを剣腕の上に落とす。

 ドサッと事務所の床に落ちた皮は真っ二つに切り裂かれていた。


 途端に地元冒険者たちが一瞬だけざわめいた。

 その後は声も出せずに固まってしまう。


「うはっ、落としただけでこれですかいな。ちょっとシャレになりまへんで」


「ソードマンティスに接近戦を挑むのがいかに困難かわかっただろ」


「下手したらワーウルフより強いんとちゃいますか」


「総合力では互角だろうな。スピードのワーウルフか攻撃力のソードマンティスかってところだ」


「ワイはカマキリの方が嫌ですわ」


読んでくれてありがとう。

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