21 戦い終えて
日本に戻ってきて最初に遭遇したダンジョンコアは往生際が悪かった。
守護者である腐食の王を倒された直後にゴーストを引っ張り出したくらいだ。
本来であればリポップするまでのクールタイムがあるところを別の魔物で補うような真似は、良く言えば工夫なんだろうけど。
悪く言うまでもなく、しぶといと言わざるを得ない。
まあ、腐食の王のような特殊能力がないんじゃ一方的に終わらせるだけだったけど。
……特殊能力はあるのか。
霊体型のアンデッドだから通常の物理攻撃は無効だったはずだ。
俺たちは魔法で攻撃したから兵士長の成れの果ては能力を発揮することなく終わったけど。
そう。ゴーストの正体は兵士長だった。
黒いモヤとなっても、頬のこけたいけ好かない面構えは前のまま。
怒りと憎しみで歪んでいたからさらに醜くなっていたな。
動けるようになる前に浄化結界で構築した光の箱に閉じ込めた後は低音のおどろおどろしい声で叫ぶだけだった。
外に出ようと壁面に触れればバチッと弾かれ、瘴気を吐き出して結界を攻撃しても浄化されていく。
腐食の王を仕留めレベル13になっていたことで消耗していた魔力も全回復していたので浄化結界はそう簡単には途切れない。
コーティング魔石に込められた魔力を吸収した程度じゃどうしようもなかった訳だ。
クールタイムを無視して魔物を生成しようとするからそうなる。
ただ、瘴気を吐き出したのはまるっきりの無駄だったかというと、そうでもなかった。
英花の放った火球と相殺して本体にダメージは及ばなかったからね。
兵士長がそんなことまで考えて対応していたとは思えないけど。
何かというと根性で片付けようとするパワハラサディストだったし。
「やるじゃないか」
結局、英花の闘志に火をつけただけだったけどね。
「何処まで耐えられる?」
そう言うからには特大の火球を使うのかと思ったが、英花が放ったのは最初と同じ野球のボールサイズで火力も同程度であった。
ただし、それを連射した。
大きいのや高威力のものは防ぎきられると次弾を当てるまでのタイムラグで瘴気が復活するからね。
そんな訳で、さほど時間をかけることなく本体に火球を届かせることに成功。
兵士長だったものに命中すると断末魔の叫びとともに今度こそ滅んだのである。
「英花は奴が最期なにを吠えていたかわかった?」
「いいや。涼成は?」
「俺もわからなかった」
「この恨み晴らさでおくべきか、だったですニャ」
「よくわかったわね、ミケ」
「魔王様にお褒めいただけるとは恐悦至極に存じますニャ」
ちょっと感心したくらいでやたら嬉しそうなミケである。
「それにしても逆恨みもいいところじゃないか」
対する英花はすでに話題を切り替えて立腹しているあたり温度差があるね。
まあ、変に指摘して水を差すよりもしばらく浸らせてあげた方がいいだろう。
「兵士長の奴らしいと思うけど」
「涼成は腹立たしくないのかっ」
英花は怒りが収まらないようである。
「俺はそんなに」
「なにぃ!?」
なんだか目くじらを立てられそうな雰囲気だ。
「むしろ、ざまぁと思うだけだけど?」
「どういうこと?」
英花のまなじりがつり上がっている。
下手なことを言うと酷い目にあわされそうだ。
「奴は完全に消滅したじゃないか。恨みなんて晴らしようがないと思うんだが」
一瞬、呆気にとられ大きく目を見開いた英花だったが。
「なるほど! それもそうだな」
ポンと手を叩いて、それまでの怒りっぷりが嘘のように納得していた。
「それよりもダンジョンコアだ」
「おおっ、そうだった。見当たらないからすっかり忘れていた」
「おいおい」
「大丈夫ですニャ。自分が地属性の魔法で引き上げておきましたニャン」
ミケに言われて守護者がいたあたりを見てみれば、いつの間にか地面に大きな魔石が転がっていた。
守護者の魔石はかたわらに転がっているのでダンジョンコアであるのは間違いない。
間違いないのだが……
「よく引き上げられたな。抵抗されただろうに」
英花が感心すると、ミケは鼻高々で胸を反らした。
「抵抗はなかったですニャン。ほとんどまな板の鯉でしたニャ」
「「なんだって!?」」
「ダンジョン全体を大幅に空間拡張してリソースを大量消費しているのにゴーストを無理やり裏ボスに仕立て上げようとした結果ですニャ」
「余計なことをしたせいで疲弊したか」
「その通りですニャ。今なら抵抗されないニャン」
このまま放置した場合、どのくらいで復活するかが問題だ。
難癖をつけられる前に用事を済ませるのが最適解と言うべきだな。
「さっさとダンジョンの支配権を奪ってしまおう」
「そうだな」
2人で魔力を流しダンジョンコアの中枢に干渉する。
ミケの言った通りまともな抵抗はない。
そうしようとする意思のようなものは感じるが実行できなければ意味はない。
程なくしてダンジョンコアを屈服させることに成功。
このフィールドダンジョンの支配権は俺たちのものとなった。
「呆気ないな」
「ああ、こんなに楽なのは初めてだ」
あまりのことに英花が苦笑している。
それはそうだろう。
消耗した魔力はほとんどない。
ゴーストを討滅した時よりも少なかったほどだ。
半ば呆然としていた俺も釣られるように苦笑いさせられてしまった。
「とはいえ、これで終わりじゃないからな」
「ああ、わかっている」
むしろスタートラインにたった段階と言うべきだろう。
ダンジョンの支配権は得たものの構成自体は何も変わってはいないのだ。
拡張した空間、ポップする魔物、その他の環境など。
「まずは拡張領域を狭めないと」
何も始められないというか、やっても意味がなくなってしまう。
まあ、再設定すればいいだけなんだが二度手間はしたくないよな。
「それなんだが、涼成」
「ん?」
「狭めるのは必要最低限にしておこう」
「どういうことだ?」
「転移ポイントはダンジョンコアを支配しているから自由に設定できる」
「そうだな」
しかし、それだけが理由ではないはずだ。
「我々は外の状況を知らない。急激な変化は外にいる誰かを警戒させかねないからな」
なるほど、そういうことか。
ダンジョンの外にいる相手が友好的であるかどうかは今のところ不明だ。
密林という環境設定のせいで外が日本国内かどうかもわからない。
ただの旅行者をスパイ扱いして有無を言わさず逮捕するような国もある訳だし。
あるいは紛争地域だった場合、銃殺されるなんてこともないとは言えない。
用心に越したことはないだろう。
「そうなると配置する魔物のことも考える必要があるな」
「ああ。外周近くは今のままだ」
「じゃあ、今の俺たちで奥へ侵入するのに3日かかるくらいで様子を見よう」
レベルが2桁に達する人間がそうそういるとは思えないが、組織だった相手なら頭数を増やすのは可能だからね。
「カモフラージュには妥当かな」
「その内側には何を配置する?」
そんなこんなで俺たちはダンジョンの構成を決めていった。
「後は、このダンジョンコアを何処に設置するかだな」
英花は思っていた以上に慎重だ。
フィールドダンジョンはかなり狭めはしたが奥深くまで侵入できる者はそうそういないと思うのだが。
地道にレベルを上げていれば不可能ではないかもしれないけれど。
「それなら爺ちゃんの家を俺たち専用のセーフエリアにした上でダンジョンの中心に設定してコアをセットしよう」
「もう一声ほしいな」
許可された者以外の侵入を許さない場所にダンジョンコアを置こうという俺の提案でも英花には物足りないようだ。
「涼成、ゴーレムは作れるか?」
「材料さえあれば難しくはないな」
「だったらゴーレムの中に埋め込んで守らせよう」
どう考えても防衛する気満々である。
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