209 大阪組、発見する
大阪組の舎人ダンジョン2層攻略は続く。
地図の空白地域に入って間もなくサーベルウルフとの遭遇戦となったが問題なく戦えていた。
さすがに今までの雑魚のように瞬殺では終わらなかったが、跳躍力に優れた脚部を真っ先に潰してから確実に仕留めている。
防御主体で戦っていた時は一瞬の隙を狙う感じだったので時間も体力も使っていたが、今回はそれがない。
当然、探索に支障が出るはずもなくマッピングも順調に進めていく。
お台場ダンジョンでは入手した地図の範囲内でしか行動していなかったため、大阪組が地図を描くのは初めて見る。
時間はかけていないが雑には感じない。
(マッピングも手慣れているな)
英花が感心するくらいに手早く簡潔に地図を描いていく。
(でも、小さく書きすぎじゃないかなー。あれだと場所によっては何がなんだかわからなくなるよ?)
(だから色数の多いペンを使っているんだよ)
彼らが使っているのは1本で何色も使い分けられるボールペンだ。
全員が同じものを持っているので、たまたまということはないだろう。
ちなみにマッピングは見張りを交代しながら全員で行っている。
専門の担当を作らないのは地図を描いている者が行動不能になったり地図を失うようなことがあった場合を想定しているからだ。
だから大阪組は全員で地図を確認しながら進んでいたんだな。
あれなら地図関連でトラブルになることもあるまい。
(どういうこと?)
(注釈事項は色を変えて数字とかアルファベットを割り当てて、詳しい内容は他のメモに書き込むはずだ)
まだ別記するようなことにはなっていないので断定はできないけどね。
(でも、それだと地図の確認が面倒になるんじゃない?)
(そうとも限らないぞ)
(えーっ、どうしてー?)
(広いダンジョンで大きく描くと何枚も継ぎ足すことになるだろ。そっちの方が面倒だぞ)
それなら注釈個所を別記する方が道順を確認しやすい。
言うまでもなく道に迷うことも少なくなる訳だ。
(そっかー。ちゃんと考えがあってのことなんだね)
(考えているかどうかは本人たちに聞いてみないとわからないけどな)
(えーっ、考えていないなんてことがあるのー?)
(誰かに教わったことを機械的に実践しているだけかもしれないだろ)
可能性としてはゼロではないという程度だとは思うけど。
以前は教師だった彼らが何の検証もなく、あのようなマッピングを行っているとは考えにくいからね。
(そうかなー)
真利も可能性は無いに等しいと感じているようだ。
(どっちだって構わないだろう。事実も結果も変わらないんだからな)
英花が割って入ってきた。
確かにその通りだ。
重要なのは大阪組が安全かつ確実にダンジョン攻略ができているか、だからね。
(行くぞ)
俺たちは再び移動を始めた大阪組の後を追う。
そうして移動してはマッピング、ときどき戦闘を繰り返す。
俺たちも脇道から襲いかかってきた魔物と戦ったが、そういう時に限って狙っているはずのハーブマンではなかったりするんだよね。
そのあたりは帰りに寄り道でもしてドロップアイテムをゲットするとしよう。
何度目かのマッピングタイム。
大阪組はそろそろ帰るタイミングを話し合っていた。
「体力的には問題あらへんねやけどなぁ」
「ドロップアイテムがネックやんなぁ」
「それやねん。この調子で戦ってたら帰りはアイテム捨てていかなあかんようになってまうわ」
「それは避けたいなぁ」
「問題は帰り道でどんだけ魔物と遭遇するかやで」
「まったくの空振りいうことはないやろ」
「せやんなぁ。そん時に捨てることなったらかなわんで」
「捨てるべきか否か。それが問題や」
「そんなん捨てやん方に決まってるがな」
「欲をかきすぎると失敗してしまうんがオチやで」
「そうは言うけど、もったいないやないかい」
「もったいない言うて泣きを見ることになったら、それこそアカンて」
「せやな。命あっての物種みたいなことになったらシャレんならん」
「ほな、もうちょいだけ先に進んで次に魔物と戦闘になったら引き返すんでええか?」
「それがええやろな」
「無難なとこちゃうか」
「荷物も安全も余裕持っとかんと何が起きるかわからんしなぁ」
こんな具合に話し合いが終わって先に進み始めたのだが世の中なにが起きるかわからない。
進んでいた通路が曲がり角になっていたのだが。
「行き止まりや」
「曲がってすぐちゅうのは不自然やないか」
「もしかして、これが噂の隠し階段やないやろか」
「いやいや、こんなん露骨すぎるやろ。トラップとちゃうか?」
「それは怖いな。先に安全かどうか調べた方がええやろ」
大阪組がトラップのチェックをするのは初めて見るな。
お台場ではトラップを避けて攻略してたからね。
そういうのも見ておくべきだったと今更ながらに反省する。
「うわっ、これマジで当たりやで」
「どないしたんや。やっぱり罠かいな」
「トラップかどうかはもうちょっと待ってくれ。なんぞ仕掛けがあるのは間違いないさかい」
「どんな感じや?」
「岩に偽装した板やな。たぶん石材やから、これも岩ちゅうたら岩なんやけど」
「要するにもっと大きそうに見える虚仮おどしの石板なんやろ」
「まあ、そういうこっちゃ」
各所を確認しながら会話もしている。
普通は集中を乱すからすべきではないのだろうが、大阪組の場合はこの方が良いようだ。
「うん、わかったで。露骨な罠はない」
「露骨でないのはあるんかい」
「それは、コイツを動かしてみやなわからん」
「これ、動くんかいな」
「虚仮おどして言うたんは自分やろ」
「せやったな。で、どんな風に動くんや」
「下にずらす感じや」
「下に?」
「逆向きのシャッターみたいな感じやと思たらええ」
「けったいな仕掛けやな」
「それ、アレやろ。阪強電車の窓みたいな感じとちゃうんか」
一段下降窓とかいうのを採用しているんだっけ?
前に動画か何かで見た覚えがある。
「おー、それやそれ」
「なんや、アレのことかいな」
「ほな、最初からそう言うたらええやないか」
「しゃーないやろ。ど忘れしとったんや」
「まあ、ええわ。とにかくなんかあってもえええように退避するで」
「了解や」
1人を残して曲がり角から戻ってきたが全員が1本のロープを握っている。
ロープの先は曲がり角の向こうだ。
残った1人が罠の作動に巻き込まれて逃げられなくなった場合に引っ張って救出するつもりらしい。
「行くで!」
「おうっ!」
掛け声とそれに応じる声が威勢よく響く。
その割には派手な音などはしないのだけど。
そりゃそうだ。変則的とはいえ、ただの扉なんだから。
「開いたで。階段や!」
曲がり角から覗き込む大阪組一同。
「トラップなんぞあるかいな。ここまでやっといて作動せんとか、どんな罠やねん」
呆れたと言わんばかりの声が聞こえてきた。
「それもそうやな」
それでゾロゾロと曲がり角の奥へと向かう一同。
「ホンマに階段やな」
「隠し階段見つけるやなんて初めてや」
「記念になるで」
「ほな、写真でも撮っとくか?」
「写真は意味ないで」
「何でや!?」
「人に見せても何処のダンジョンの何層の階段前かわからんやろ。せめて動画やで」
「うおー、最初から動画撮っといたら良かったぁ」
後悔先に立たずである。
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