206 大阪組に呼ばれました
その日、大阪組から英花に連絡があった。
「昨日は休んで高尾山に登ったんだろ。休養明けでどこか他のダンジョンに潜った報告とかだったのか?」
「いいや。ある意味、依頼だな」
「依頼だって?」
「面倒事に巻き込まれたのかなぁ」
真利が言ったことは俺も懸念した。
世の中、どんな些細なことでも難癖をつけてくる輩はいるからね。
「そうじゃない。明日、舎人公園のダンジョンに潜るから見てほしいそうだ」
「見てほしいって、どういうことだ?」
ちょっと意味不明である。
手伝ってほしいとかフォローをしてほしいというのであれば、わかるのだけど。
「授業参観みたいな感じとかー」
なるほど。そういうのはあるかもしれないな。
大阪組には卒業を言い渡したけど、当人たちはまだ自信が持てないようだったし。
俺たちが見ていることで精神的な負荷が変わってくるというのはあるだろう。
もしかすると観戦していて気付いたことを指摘してほしいとかいう思惑もあるかもしれないが。
「それが近いだろうな」
クスクスと英花が笑う。
「どれだけ強くなったのか初めて挑むダンジョンで確かめてほしいんだそうだ」
まさしく授業参観だな。
もしくは習い事の発表会とか。
「それでお台場じゃなくて舎人公園なんだー」
戦闘以外のあれこれを見るという意味では正しい選択だと思う。
何度も潜ったお台場だと日帰りの範囲ではマッピングもする必要がないからね。
舎人公園ダンジョンにしたって地図はあるけど、完璧なものじゃない。
あそこはお台場とは比べるべくもないけど一般的なダンジョンからすると広い方だ。
奥に行けばマッピングは必須となるだろう。
「それにしても見てほしいと言い出すなんて大した自信だよな。卒業の時に不安そうにしていたのは何だったんだろう?」
「つい先日のことなのにねー」
「高尾山に行ったからだろう」
ニヤニヤと笑みを浮かべる英花。
「あー、青雲入道に特訓を依頼したのか」
「そうなのー?」
「ああ。私も涼成も誰かを鍛えるのは専門ではないだろう」
最初は教わる側だったし勇者としての活動で誰かを教えたり導いたりということはなかったからね。
「勇者スキルに頼りすぎて見落としがないとは言い切れないな」
「えー? じゃあ、私はどうなるのー」
真利が不服そうにプウッと頬を膨らませるが一般人と同じではないという自覚がないのか?
「同じパーティにいたから大阪組と同じではないぞ。それに英雄スキル持ちが何を言ってるんだか」
「そんなに差があったっけ?」
やはり無自覚だな。
「あるに決まってるだろ」
「そうだな。それこそ天と地ほどの差があると言っても過言ではない」
「だから大阪組の人たちを青雲さんに任せたんだー」
「向こうは眷属の烏天狗たちを日々鍛えているからな。言わば、専門家だ」
「なるほどねー」
英花の言葉に真利も納得の顔でうなずいた。
「じゃあ、何かつかんだってことになるのかな?」
「でなきゃ見てくれとは言わないだろうさ」
「何をつかんだのか楽しみだ」
怖いほど不敵な笑みを浮かべる英花。
「あんまり追い込んでやるなよ」
「何を言うか、涼成。今回は見るだけで口出しなどはしないぞ」
心外だとばかりに抗議してくる英花。
だといいけどね。
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翌日、現地集合ということで舎人公園ダンジョンに来た。
ここは2層までと言われているもののボス部屋は発見されていないので隠し階段はきっとあるだろう。
難易度的には1層なら初級レベルだが2層はそれなりに危険だと言われている。
そのせいか幅広い層の冒険者が集うらしい。
施設内に入ると毎度のごとく注目を浴びた。
背の高い美女2人にチビ1人だからね。
おまけに英花は染めたのとは輝きが違うブロンドヘアだし。
お台場の時と違って不躾な視線もあるようだ。
この調子だと変にからんでくる輩もいないとは言えないだろう。
「少し早く来すぎたか」
英花が視線をさまよわせるが大阪組の姿がない。
そりゃ、そうだろう。
約束の1時間前はさすがに気が早いと言わざるを得ないと思う。
「そんなに楽しみだったか?」
「当然だろう。涼成は奴らの実力がどれだけ底上げされたか気にならないか?」
「気にはなるけど、そこまでの熱はないかな」
そんな話をしていると人が近づいてくる気配がした。
あー、やっぱり変なのが来るんだ。
「よおよお、アンタらどっから来たのさ」
声をかけてきたのはゴリゴリにマッチョな3人組だ。
千里眼のスキルで確認してみたけど、遠巻きに見ている連中は顔をしかめている者が多いね。
この連中のことは知っているけど苦々しく思っているのだろう。
地元で有名な鼻摘まみ者ってところか。
一方でニヤついている不届きな輩は当の3人組以外では見受けられない。
「入れ込みすぎなのはわかるんだがな」
英花はすぐそばに立った3人組など気にもとめず普通に話を続ける。
「メインで鍛えていたからだろ。俺はどっちかというとフォローしてた口だからなぁ」
英花の意図するところは容易に読めたので俺もそれに合わせた。
「そうかもしれんな」
英花が苦笑する。
「その調子で今日も口出ししてしまうんじゃないか」
「くっ、気をつけよう」
3人組を無視して少し会話を続けてみたが、たったそれだけで頭に血が上っているらしく顔を真っ赤にさせていた。
沸点の低い連中だが、それだけに中身の程度も知れるというものだ。
「てめえっ、俺たちを無視するとはいい度胸じゃないか!」
会話が途切れたタイミングで割り込むように怒鳴ってきたマッチョ1号。
「調子に乗ってんじゃねえぞ!」
顔から激怒が吹き出すかのような勢いで怒鳴る2号。
「こっちを見やがれ、よそ者がっ!」
3号も似たようなものだ。
罵る言葉がテンプレ過ぎて失笑ものである。
3人そろって凄んできてこれか。
本人たちは殺気を放っているつもりのようだが、そよ風ほどの圧も感じない。
この連中が発している殺気は子供のケンカレベルだな。
どう贔屓目に見ても死線をくぐり抜けて戦ってきた者のそれではない。
見た目に反して初級冒険者か?
なんにせよ鬱陶しいので早急に追い払うのが良いか。
そう考えたところで──
「うるさい、黙れ」
英花がチラリと一瞥して一瞬だけ殺気を叩き込んだ。
あと、真利は凄んだ顔をして睨んでいる。
こっちは人見知りモードが発動しているだけなんだけどね。
こういう時は寄るな触るなというプレッシャーを放っているので素人には怖く見えるようだ。
3人組はドサドサと尻餅をついた。
えっ!? たったこれだけで?
デカい形してずいぶんと臆病なんだな。
身につけた筋肉は見てくれだけの虚仮おどしらしい。
ガタガタ震えているせいか腰を抜かしたままで動く気配がない。
まあ、失禁しなかっただけでもマシな方か。
とはいえ、このままなのも鬱陶しいことこの上ない。
「失せろ」
俺からのダメ押しで殺気を叩き込んでやると、3人組は泡を吹いて失神した。
「ちょっ、マジか!?」
読んでくれてありがとう。
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