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205 戻ってきた大阪組

「あれっ!? どないなっとるんや?」


 岩田が驚きの声を上げキョロキョロと周囲を見渡す。

 気がつけば周りの景色が変化していた。

 まるで青雲入道に呼び出されたときのように。

 霧に包まれることなく急に場所が切り替わったので、まったく同じ状況とは言えないのだが。


 ただ、場所が変わる瞬間に覚えがない。

 気がつけば、いつの間にか移動させられていたのだ。

 そのせいで移動した場所が自分たちが最後に休憩した登山道だとわかったはずなのに動転して場所の確認をしてしまった。


「元の場所に戻ったみたいやな」


 高山がそう告げると岩田も落ち着きを取り戻す。


「まるで夢でも見とったみたいな気分や」


 小倉がボンヤリした意識を吹き飛ばすかのようにブルブルと激しく頭を振った。


「夢ではないやろ。青雲入道のこと覚えとらんか?」


 岩田が諭すように問う。


「覚えてるけど、そういうことやないねん。こう頭の中に靄がかかったみたいな感じ、わからんか?」


「そういうのは確かにあるな」


 問いかけに同意したのは高山だった。


「未だにボンヤリはしてるけど天狗の特訓が鮮烈すぎて、もひとつやなぁ」


 微妙に感じるのか岩田は首をかしげ、それを見た小倉は歯がゆそうに眉間にシワを寄せた。

 今にもつかみかかりそうになっているのは疲労が影響しているのかもしれない。


「小倉、頭に血が上ってる。感じ方に個人差があるのは仕方ないだろう」


 なだめるように高山が言うと小倉も我に返ったようで引き下がった。


「個人差がある、か」


 呟くように言ったのは菅谷だ。


「アレはホンマに事実やったんやろか?」


「おいおい、話を蒸し返さないでくれ」


 ウンザリした表情を見せる高山。


「そうやない。全員で幻覚を見ていただけちゅう可能性はないのかと言いたいんや」


「恐ろしことを言うやっちゃなぁ。集団で同じ幻覚を見るとかあるんか?」


 岩田が嫌そうな顔をしながら問いかける。


「そういうのは詳しくないんやが、向こうに飛ばされた時の霧の出方が不自然やったやろ。多少は疑うべきじゃないか思っただけや」


「天狗が俺らを化かしたちゅうんかい。そういうのはタヌキか狐がするこっちゃで」


「いや、それもおとぎ話の口やろ」


 岩田の反論に小倉がツッコミを入れる。


「そんなん実際に特訓の成果を確かめてみたらええこっちゃろ」


 黙って聞いていた国中が呆れたと言わんばかりに嘆息した。


「そうやな。魔力を全身に巡らせて──」


「待て待て。ちょう待てや」


 国中の意見に賛同した外堀が実践しようとしたところで高山が止めに入る。


「なんやねん。白黒ハッキリさせた方がスッキリするやろ」


「お前、ここでジャンプするつもりか?」


「そうや」


「いくら人が少ないちゅうたかて誰かに見られるかもしれんのやぞ」


「あ……」


 外堀は高山に指摘されて初めてその事実に気付いたようだ。


「確かめるんはダンジョンの中にしといた方がええやろ。でないと騒ぎになりかねんて」


「もどかしなぁ」


 ぼやきながらも外堀は魔力を込めたジャンプを諦めたようで体から力を抜いた。


「せやけど不思議なこともあるもんや。魔力を全身に満たすだけで身体能力が上がるなんてな」


「ホンマやなぁ。おまけに魔法やないから魔力が減る感じもせんかった」


 しみじみした様子で語る小倉に岩田が同意する。


「俺は天狗とか烏天狗がおったことの方が不思議や」


 国中が2人とは別の感想を漏らす。


「そうか? ダンジョンとか魔物とかあるんや。別におかしゅうないやろ」


 外堀が疑問を呈した。


「ダンジョンができたんは、ここ数年のことやちゅうのを忘れとらんか」


「せやったな。つい忘れてしまうけど、まだそんなもんやったわ」


「それに比べて天狗はどう見ても昔からおる感じやったやろ」


「高尾山の主感ハンパなくしてたで」


「下手したら千年くらい生きとるんちゃうか?」


 国中と外堀の会話に岩田が軽口で参戦する。


「ハハハ、ナンボ何でもそらないやろ」


 外堀が笑いながらツッコミを入れた。


「何にせよ、明日ダンジョンで天狗に鍛えられた成果を確認してみよやないか」


 高山の提案に全員がうなずいた。


「それはそうと今、何時や?」


「もうすぐ5時くらいになるで」


 岩田の疑問に腕時計を見た菅谷が答える。


「アカンやん。今から頂上へ行くんは無謀やろ」


「せやな。今日はもう帰ろ。頂上まで登るんは次の休みに取っとこやないか」


 岩田の意見を聞いて高山が判断を下す。


「ほんで次も天狗にしごかれたりしてな」


「ちょう待て。それはシャレにならへんわ」


 ニヤニヤしながら外堀が言うと国中がツッコミを入れた。


「そん時はそん時やろ。何でもええわ。とにかく帰るで」


 高山の号令で元来た道を引き返し始める大阪組。


「なあ、高山」


 道中で岩田が声をかける。


「なんや?」


「明日は完全休養日にした方がええんちゃうか? 今は興奮状態で気付かへんかもやけど、たぶん思った以上に疲労がたまってるで」


 岩田に指摘されて高山は自分が大事なことを失念していたことに気付かされた。

 思わず天を仰ぎたくなる衝動に駆られるが、奥歯を噛みしめて何とか堪える。


「岩田の言う通りやな」


 先頭を歩いていた高山が立ち止まり振り返った。


「ころころ方針を変えてすまんけど明日は何もせえへん休みの日にするで。ダンジョンで今日の成果を確かめたいとこやけど1日の我慢や」


 高山の方針変更に全員が特に文句を言うこともなく了承する。


「そのことやけど、練習にあてごうたら時間も潰せるし丁度ええんとちゃうか?」


 その上で国中が提案した。


「練習て何するんや?」


 外堀が疑問を口にする。


「そんなん魔力を全身に満たす練習に決まってるがな」


「それは明後日にしよいう話やないか」


「ちゃうちゃう。練習するんは満たすとこまでやて」


「なるほど。感覚を忘れんようにする必要もあるやろし、派手に動かんようにしたらええだけのことやな」


 高山も賛同する。


「ちなみに俺は今も練習中や」


 国中がニヤリと笑う。


「ズルいぞ」


 外堀がむくれるが国中はどこ吹く風と睨んでくる視線を受け流す。


「青雲のオッちゃんも言うてたやろ。いつ如何なる時も意識せんと使えるようになれて」


「言うてたけど、それがどないしてん?」


「あれは息するみたいに魔力を満たした状態を維持するちゅうことでもあると俺は思うんやけど、どう思う?」


「まあ、そういう解釈もできるんちゃうか」


「つまり練習は四六時中やっとかな意味ないんと思わんか?」


「む? そう、やろか」


「難しこと考えんでええ。とにかく練習せえちゅうことや」


「ええんかなぁ」


「普通に歩いとったやろ。別にペース落としたりとかしてへんで」


「そんなもんなんか。もっと違てくる思てたわ」


「走ったりしたらヤバいかもしれんけどな」


「そこは意識せんとアカンやろ」


 岩田がツッコミを入れると他の面子が笑う。


「なんにせよ練習はしておくに越したことはないやろ。まだまだ意識せんと魔力が外に放出されてまうよってに」


 高山がそう言うと全員が神妙な面持ちでうなずいた。


「ほな、練習しながら帰るで」


読んでくれてありがとう。

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