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203 大阪組、誘い込まれる

「英花が面白いと言っておったから、どれほどのものかと思ったが微妙じゃのう」


 眷属の烏天狗を通して大阪組の様子を見聞きしていた青雲入道は肩に入っていた力を抜いた。


「鍛えれば面白くなるという話だったのでは?」


 かたわらにいた烏天狗がボソッと呟く。


「左様であったかな。であるならば見方も変わってくるか。お前はどう思う」


「涼成殿たちには遠く及ばぬかと。ただ、彼らが目をかけているだけのことはある程度には素養がありますな」


「うむ。下地はあるといったところか」


「それと──」


「なんだ?」


「英花殿があのような連絡を入れてきたことを考えると我らがあの者たちを鍛えることを望んでいるのではありませぬか」


「小癪なことを考えおるわ」


 台詞とは裏腹にフハハと愉快そうに笑う青雲入道。


「良かろう。ならば、あの小僧どもをしごいてやろうではないか」


 胡座をかいて座っていた青雲入道がガバッと勢いよく立ち上がる。


「頭領が直々にでありますか?」


 そばに控えていた烏天狗は驚きを隠せない様子で問いかける。


「英花が面白いと太鼓判を押したのだ。我が楽しまずしてどうする」


 返答を受けた烏天狗は浮かぬ顔となった。


「何を懸念する。やり過ぎるとでも思っておるか」


「それもないとは言いませんが、それ以前に彼らを鍛えるならばこちらに引き込む必要がありますが?」


「よそで吹聴するやもしれぬと言いたいわけか。それならば術を使って化かせば良かろう」


「夢の世界に誘い込むのですね」


「あれが最も後腐れがなかろう」


「わかりました。準備いたします」


「うむ」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 大阪組が休憩を終えて再び歩き始めようとしたその時。


「おいおい、なんか霧が出てきたで」


 その異変を真っ先に察知したのは高山だった。


「ああ。それも、やたら濃いんはなんでや?」


 岩田がその不自然さに疑問を抱くが、答えられる者はいない。

 どう考えても自然現象とは思えない速さであたりを白く染めていくからだ。


 瞬く間に視界が白で埋め尽くされてしまった。

 間近にいる互いの姿さえボンヤリした影のような状態でしか確認できない有様だ。

 誰かが故意にそうしているのではと錯覚してしまいそうになる。


「こら、下手に動くと遭難してまうな。みんな動くなよ」


「ハイキングレベルの山で遭難て大袈裟な」


 高山の言葉を菅谷が笑ったが──


「道を外れて自分の位置がわからんようになっても、そんなこと言えるんか?」


 この問いを耳にして笑えなくなってしまった。


「いや、すまん。考えなしが過ぎたな。軽率やった」


 菅谷が謝るが返事はない。


「高山?」


 呼びかけたところで菅谷は急に瞼が重くなるのを感じた。


「なん、や……」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 高山が気付いた時には霧は晴れていた。

 どれほどの時間が経過したかはわからないがフワフワとした感覚があって意識を失っていたという自覚はある。

 にもかかわらず倒れ伏すことなく立っているというのが、どうにも奇妙でならなかった。


 それでも自分のことばかり気にしてはいられない。

 即座に周りを確認すると少し離れた場所に仲間がいた。

 ボンヤリした様子で突っ立っていたが、じきにハッと気付いてキョロキョロとあたりを見渡す。

 少し前の自分を見る思いだった。


「高山! これは、どないなってるねん?」


 岩田が真っ先に声をかけてきた。

 動転しているのか声のトーンが強めである。


「落ち着け、言うても無理か」


 高山自身も動転している自覚がある。

 冒険者パーティではリーダーを務めているおかげか自分が動揺している姿を見せる訳にはいかないという一念だけで表面上は取り繕っているが。


「正直、俺も何がなにやらわからんのや」


「シャレんならんで。何処やここ?」


 小倉が愚痴るように問うが誰も答えを持っていない。

 霧がかかる前とは明らかに風景が違う。

 道がなく開けた野原といった具合の場所だ。


「ここか? ここは我の隠れ里よ」


 不意に渋く深みのある声がした。


「「「「「誰やっ!?」」」」」


 大阪組がいっせいに振り向く。

 いや、振り仰ぐと言うべきだろう。

 声は彼らの頭上より聞こえてきたのだから。

 そうして大阪組が目の当たりにしたのは修験者のような格好をして宙に浮かぶ真っ赤な顔の大男であった。


「てっ、天狗ぅ!?」


 驚きをあらわに叫んだのは国中だ。

 特徴的な鼻と背中の羽は誰が見てもそう思うだろう。

 それ以前に宙に浮いている時点で人ならざる者であるのは明らか。

 故に国中以外の他の面子は誰も否定しなかった。


「如何にも。我はこの高尾山を根城とする青雲入道なり」


「はあ、どうも。高山国弘です」


 呆気にとられたようになりながらも高山がどうにか名乗った。


「ちょう待てぇ!」


 高山にツッコミを入れる外堀。


「こんな異常事態にのほほんと自己紹介しとる場合かっ」


「いや、礼儀には礼儀で返さんとアカンやろ」


 頭に血が上った外堀に対し高山は平然とした様子で返事をした。

 それが歯がゆいのかダンダンと地団駄を踏む外堀。


「そこの苛立っておる者よ」


 青雲入道に声をかけられてギョッとした顔になった外堀がそちらを見上げる。


「急にこのような場所に連れ出されて動転しておるのだろうが、こういう時こそ冷静に対処すべきとは思わぬか」


「うっ」


 指摘を受けてぐうの音も出なくなる外堀。


「他の者たちとは違うようだから少しばかり鍛えてやろうと思うたが、我の買い被りであったかのう」


「な、鍛える?」


 小倉が疑問を口にする。


「お主ら戦士であろう。術も使えるようだが、まだまだ雛鳥の域を出ておらぬ。故に我が鍛えてやろうというのだ」


「いや、俺たち今日は武器を持ってないんですが」


 困惑の表情で高山が告げるも青雲入道はフンと鼻で笑う。


「戦うだけが鍛えることにはならぬのだということを思い知るのだ」


 そう言うと青雲入道は手にしたヤツデの葉を振るった。

 次の瞬間、轟々と風のうなる音がして暴風が大阪組に襲いかかる。


「うわあああぁぁぁぁぁっ!」


「待て待て待て──────っ!」


「シャレんならんて─────────っ!」


 などという諸々の悲鳴が遠ざかっていく。

 誰一人として踏ん張れずに吹っ飛ばされたからだ。


 数分後、烏天狗が大阪組をぶら下げるようにして飛んで戻ってきた。

 地面に下りていた青雲入道の前に連れてこられる。


「ううっ、酷い目にあった」


 菅谷がボヤくと青雲入道が呆れたように鼻息を荒く吐き出した。


「無防備に受けるからそうなるのだ」


「無茶言わんといてえな。あんな暴風、人間には耐えられんて」


 今度は小倉がボヤく。


「普通の人間ならばそうであろうよ。だが、お主らは術が使えるであろう」


「術てなんのことやの?」


「お主ら流に言えば魔法であったか」


「なんで、そないなこと知ってるん?」


「たぶん魔王様やで」


 小倉の疑問に答えたのは岩田であった。


「「「「「あー……」」」」」


 全員が納得してしまう。


「それはわかったけど、俺ら攻撃魔法しか教わってないやん。あんなん防げるもんとちゃうで」


「それや。あの暴風にワイらの魔法で風ぶつけても潰されるんがオチやし」


 小倉が再びボヤくと岩田も同調する。

 それを見ていた青雲入道が──


「気を練り全身に満たせ。それができれば、この程度の風などどうということはなくなる」


 そう助言した。


読んでくれてありがとう。

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