202 大阪組、高尾山へ
「明日は別のダンジョンに行かへんか」
晩飯代わりのハンバーガーを頬張りながら元高校教師の高山国弘が提案した。
「なんでやねん。別にお台場でかまへんやないか」
「どうやろ。疲労の蓄積を考えたら休んだ方がええんとちゃうか?」
元小学校教師の岩田一郎と小倉孝の2人は異なる意見ではあるが反対派のようだ。
「休むには中途半端な感じとちゃうか?」
「せやな。せやったら難易度の低いダンジョンに行くのも手やろ」
一方で、元中学校教師である国中祐介と外堀健二は賛成派に回った。
「そうは言うけど、知らんダンジョンにいきなり行くのは結構負担かかるで」
そして元高校教師の菅谷光男は反対派に加わった。
「半々か。多数決やと決まりそうにないな」
「俺は休んでお台場に行く方がええと思うけどな。ある程度、勝手がわかってきたとこの方がええやろ」
「魔王様と異世界人の人らがおるんも安心できるわな」
小倉の意見に菅谷が乗っかる。
「けど、魔王様たちも休むかもしれへんぞ」
「せやな。魔王様たちありきで考えるのは危険やで」
「ワイらだけで考えた場合、お台場はまだ危険度が高いダンジョンやと思う」
懸念を口にした高山に国中と外堀が賛同した。
「いま無理に決めてまうこともないんちゃうか? とりあえず今日は免許皆伝で特訓は卒業したんやし明日は休みにするんもありやろ。明後日のことは明日の晩に決めてもええと思うけどな」
「ほな、休みにするか」
「休んだらアカンいう決まりはないし、ええかもしれんな」
菅谷が先延ばしを提案すると議論は止まった。
「で、明日は何する?」
「それが問題やで」
「ディズリーキングダムはどうや?」
「平日でもめっちゃ混むて聞くで。疲れに行くようなもんやろ」
「せやけど、あそこ東京ちゃうのに正式名称に東京が入るのはどうなんやろな」
「どうでもええわ、そんなん」
「言うたかて東京からめっちゃ離れてるわけとちゃうやん」
「ほぼ隣やな」
「それやったら、だいたい東京ディズリーキングダムちゅうことで問題にならんやろ」
「ごっつう、ええ加減やな」
「大人の都合なんやし適当なくらいで妥協しとくんがええんや」
「そんなことより何するかやで」
「体力使わんのやったら東京競馬場はどうや?」
「金使ってまうやろ」
「ギャンブルは性に合わんな」
「それにあそこダンジョンがあったやろ。つい行ってしまいそうにならんか?」
「ありそうで嫌やな。却下や」
「ほな、よみうりワールドはどうや。ディズリーよりは混まんやろ」
「混まんかもしれんけど、ひとつ大きな問題があるで」
「なんや?」
「アラサーのオッサン6人で行ったら、めっちゃ目立ってまうやろ」
「「「「「あー……」」」」」
「奇異の目で見られるんはキッツいで」
「見られるだけやったら、まだええわ。キモいとか言われたら立ち直られへんがな」
「ホンマ怖いな。若い女の子やったら尚更や」
「それは俺も嫌やわ」
「こういう時のキモいはグサッとくる一言やな」
「そう考えたら遊園地系はアカンな。心が安まらんどころか致命傷になってまうで」
「修学旅行の引率やったら、まだセーフなんやけどなぁ」
「あれでも言われるときは言われるで」
「仕事と遊びやったらダメージの差が天と地ほどもちゃうがな」
「それはあるか」
「遊園地がアカンのはわかったけど、他もアカンの多ないか? 動物園とか水族館とか」
「俺、前に1人で水族館行ったけどカップルに可哀想なもん見る目で見られたで」
「うっわ、それもキツいなぁ」
「だいぶ削られてしもたで。行くとこないんちゃうか?」
「デパートとか?」
「何しに行くねん。オッサンのウィンドウショッピングとかキモいだけやで」
「買うもんないしなぁ」
「それやったら家電量販店の方がマシやで」
「そんなとこは全国どこ行っても似たようなもんやないかい」
「ほな、高尾山はどうやろか。魔王様たちも行ったみたいやし」
「ええかもな。そんな高ないんやろ?」
「小学校の遠足で利用されるくらいやからヘトヘトにはならんはずや」
「おもろそうやな」
「賛成や」
そんな訳で翌日は高尾山に登ることになった大阪組一行であった。
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開けて翌日、大阪組一行は高尾山に来ていた。
前日のうちに英花に行くことを伝えて情報収集も怠っていない。
その結果、ルート選択は英花たちと同じものとなっていた。
人気のないコースに入って十数分もしたところで大阪組はそわそわし始める。
何か奇妙な気配を感じているのだ。
「なあ、なんか見られてへんか?」
小倉がキョロキョロと忙しなくあたりを見渡しながら皆に問いかける。
「確かに気になるなぁ。ちょっと背中がムズムズする感じで気持ち悪いわ」
真っ先に答えたのは外堀である。
「このコース、人がほとんどおらんから見られてたら一発でわかるはずやのに特定できへんで」
「このルートは魔王様に教えてもろたんやろ?」
岩田が聞きながら高山の方を見る。
「せやねん。今の俺らやったら楽勝やいうメッセージやったわ。他にも、もしかしたら何かあるかもしれんいう風にも書いてあったけど、これのことやろか」
聞き捨てならない話が付け加えられた一同はギョッとした顔で高山を見た。
視線を向けられた高山は何事かとキョトンとしている。
「そういう大事なことは早く言えっ」
真っ先にツッコミを入れたのは菅谷である。
「ホンマや。魔王様、絶対なんか知っとるで」
国中の言葉に全員がうなずくが何故なのかがわからない。
「俺ら、魔王様にはめられたんちゃうか」
「アホかいな。魔王様がワイらにそないなことする理由がないやろ」
小倉が思いつきで発した言葉を岩田が即座に否定する。
「ほな、どういうこっちゃねん?」
外堀が首をかしげるが誰もそれに対する答えを持っていない。
「わからんのやったら気にしてもしゃーないやろ」
「高山?」
「魔王様の仕込みがあったとしても今のとこ何もないやろ。単に見られてるいうだけや」
「まあ、そうかもしれへんな」
「それやったら、ここで立ち止まって言い合いしてるより先に進んで次の動きを待った方がええんとちゃうか?」
「一理あるな」
「ほなら引き返すんはどうや? 俺らのこと見てる奴からしたら仰天ものやないか?」
「それはズルやろ。真っ向から仕込みに対応してみせてこそ胸張って報告できると思うんやけどな」
「それもそうか。ワイはそれでええと思うけど皆はどうや?」
高山と話し込んでいた岩田が皆に話を振ると──
「おもろそうやし構へんで」
「俺もズルはしたないなぁ」
「右に同じや」
「反対する理由がないやろ。ただ山に登るよりおもろそうや」
そうして大阪組は山登りを再開することとなった。
さらに登ること十分あまり。
特に変化はなかった。
少なくとも大阪組が感知できる範囲では。
だが、それは監視が続いていることを意味する訳で。
「付かず離れずやのに姿が見えんちゅうのは気になってしゃーないな。何処から見てるんや」
ぼやくように言ったのは国中だった。
「ルート上ではないやろ。あっちの方やと思うんやけど」
高山が指差した方向にあるのは鬱蒼と茂った木々のみ。
「おいおい、まさか幽霊とちゃうやろな」
菅谷が落ち着きなく周囲を見渡す。
「そういう陰気な気配は感じへんから大丈夫やろ」
「……言われてみたら、そうか。仮に幽霊やとしてもヤバそうなんとは違てそうやな」
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