197 魔法が使えるようになっただけでは……
瞑想を数時間やっただけで大阪組はスムーズに魔法が使えるようになった。
「ウソやん。なんでこない簡単に魔法が使えるねん」
火球を放った大阪組の1人が半ば呆然としている。
「瞑想ってスゴいんやなぁ」
「そんなわけあるかいっ」
半ば呆然とした呟きにすかさずツッコミが入った。
さすがは大阪組だ。
こういう会話術というか脊髄反射的なコミュニケーションは俺には無理だと思う。
ここのところダンジョン攻略中はずっと一緒だったが、それを痛感している。
とっさに出てしまうこともあるかもしれないけど四六時中あのテンションではいられない。
「どう考えても普通はこんな短時間で悟りを開くような成果は得られんやろ」
これについては俺たち3人の指導スキルが影響しているみたいなんだよなぁ。
スキルを得て間もないから大した成果も出せないだろうと思っていたら3人がかりの特訓により相乗効果を発揮したみたい。
なんにせよ、何故こうなったかについては大阪組といえども教えることはできない。
何かおかしいということに気付いてはいるようだけど感覚的なものに過ぎないし誤魔化しようはあるだろう。
侮れはしないが確証を得ている訳でもないからね。
「悟りは言い過ぎや。単に魔力の経路を把握できたっちゅうだけのことや」
「せやけど、それかて無茶振りやったで」
「それな。血流を読めとか神経をすべて把握しろとか」
その発言は真利だな。
俺も無茶振りだとは思ったが、そういうのも大阪組の集中力を高める要因になるのかとスルーしていた。
たぶん英花も同じだろう。
一方で真利は、これがマンガだったら「ガーン!」とか描き文字が入りそうなくらいショックを受けている。
どうやら無茶振りしているつもりはさらさらなかったようだ。
アレを本気でやれと言っていたのか……
「どないせえっちゅうんやって思たもんな」
「途方に暮れてもうたがな」
「ホンマホンマ」
大阪組は軽口を叩いているだけのつもりらしいが、真利は隅っこでドーンと暗くなっている。
「やってみたら、なんとなく感覚でわかったんが怖いとこや」
それは指導の効果だろう。
それしか考えられない。
感覚的な言葉でもスキルのアシストがあれば理解できてしまうというのが怖いよな。
天才肌の人間が指導者になるときは絶対にほしいスキルだと思う。
「全員、魔法もバッチリ使えるようになったな」
「そうは言いますけど、魔王様」
「どうした?」
「実戦で使えてこその魔法やと思うんですけど」
「せや。何も無いとこでぶっ放してもバッチリとは言えませんて」
ウンウンとうなずく大阪組一同。
よほどワーウルフやサーベルウルフとの戦闘での失態が響いているのだろう。
何度か戦っているのでトラウマにはなっていないみたいだけどね。
とはいえ、辛勝した程度では雪辱を果たした気になれないのだろう。
今のままだといつまでも引きずりそうだ。
「言っておくが、魔法は実戦で使えるようになったというだけだぞ。活かすも殺すもこれからしだいだからな」
英花が指摘すると大阪組は「うぐっ」と短くうなって凹んでしまった。
「わかってたことやけど千里の道も一歩からやな」
「おっ、今日は千里の行もどうたらとは言わんのかいな」
「それを言うんやったら千里の行も足下に始まる、や。あと、俺かて評判が悪かったらアップデートするっちゅうねん」
「さよけ」
「それより、魔法や。ホンマに実戦で使えるようになっとかんとアカンわ」
「せやな。ワーウルフとか来たら防戦ばっかりでなかなか攻撃できんからなぁ」
「今みたいに長引くんは避けたいとこやで」
「せやけど、アイツらに当てられるか? ゲームみたいに自動で当たってくれへんで」
「引きつけて鍔迫り合いの状態に持っていくしかないやろ。超至近距離でドカンや」
「アホウ! そないな真似したらワイらまで真っ黒焦げやないかい」
「それ以前に火球はドカンとはいかんのとちゃうか。確か燃えるだけやったやろ」
「似たようなもんや。ワイらにまで飛び火するんが目に見えるようやで」
「せやったら、どないするっちゅうねん」
白熱した議論には少しばかり遠い気もするけど真剣に考えているのは間違いない。
煮詰まっているようで結果がともないそうにないけどね。
「いくらでも方法があるだろう」
呆れたように溜め息をつく英花。
「例えば風刃で接近される前に脚を潰せば速攻を仕掛けられずにすむ」
説明しながら英花はダンジョンの壁面に向かって風刃を放った。
岩肌に当たると、その部分が裂けるように割れた。
「「「「「おおっ」」」」」
「今の何や? 何も見えんかったで」
「これが風刃か」
「見えへんねやったら接近中に当てられそうやな」
「かわされへんのは大きいで」
大阪組が盛り上がり即座に風刃の練習が始まった。
だが、英花が見せた手本のようにはいかない。
バシバシと音はすれども岩の壁は傷ひとつつかなかった。
英花の手本とて大阪組に合わせて加減したものだったのだけどコツがあるからね。
大阪組は何度も繰り返すが一度も上手くいかなかった。
やがて壁を打つ音も聞こえなくなる。
魔力切れで魔法が使えなくなったのだ。
「なんでなんやろうな」
休みながらも反省会を始める大阪組。
「もっと薄せなアカンのやろか」
「やってみたけど音もスカスカした感じで威力なさそうやったで」
「ほな魔力が足らんとか」
「いや、火球より多めにやってたけどアカンかったで。これ以上は現実的やないて」
「「「「「うーん」」」」」
すぐに行き詰まってしまった。
そこから先は新たな意見も出てこなくなり体力が回復したところで探索を切り上げて引き上げることとなった。
ポーションを使えば回復させられるけど今回は提供しない。
常態化してしまうと特訓が終わった後の大阪組が痛い目を見かねないからね。
ダンジョンの外に出たら受付で帰還の報告を済ませて解散。
晩ご飯に誘ってみたけど今日のところは遠慮されてしまった。
「大丈夫かなぁ」
意気消沈した様子で帰って行く大阪組を見送りながら真利が言った。
「問題ないだろう。あれは魔力切れの影響だ」
「まあ、気力は湧かないだろうな」
おそらく食欲もないはずだ。
「明日の朝が大変だぞ」
英花が苦笑している。
「えーっ、どうして?」
理由がわからない真利が疑問を口にした。
「奴らは今日の晩は抜きで寝てしまうだろうからさ」
「あ、空腹で目が覚めるとか?」
「その通り。それが早朝の時間帯だとどうなる?」
「そんな時間に開いているお店なんてないよね。大変だぁ」
とは言っているが他人事のようにノホホンとしている真利。
「教えてやらないのか」
「えっ、魔力の残量管理を身につけるための指導じゃないの?」
「わかっているならいいさ」
後で気付いて連絡を入れたりしたら準備することも考えられるからね。
今回はちょっと痛い目を見て魔力の残量を気にする習慣をつけてもらうつもりだ。
翌朝、大阪組はコンビニに駆け込んでお菓子やインスタント食品を買いあさったという。
なかなか狙い通りにはいかないものだ。
それでも腹に穴が開きそうになるほどの空腹を味わったらしく魔力は余裕を持って管理するようになったんだけどね。
結果オーライと言っていいとは思う。
そもそも、こんな短期間でここまでの成果が出る方がどうかしているのだ。
部外者に知られたくはないね。
読んでくれてありがとう。
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