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196 思った以上に脆い

 大阪組の魔法の習得は1日で終了してしまった。

 もちろん使えるようになっただけで魔力操作や制御などはまだまだこれからなんだけど。


「こんな簡単に魔法が使えるようになるなんてなぁ」


「今まで魔法とか普通の冒険者に使えるもんやないて思てたんが何やったんやてなるわ」


「ホンマそれな。イメージを明確にしただけで使えるとか思わんかったで」


「かというて何か考えただけで魔法が勝手に発動する訳でもないしな」


「そこは安心したわ。考えるだけでポンポン魔法が発動しとったらシャレんならん」


「魔力を練り込まなアカンかった訳や」


「そこが問題やけどな」


「何処がや?」


「魔力の練り込みや」


「何の問題があるねん」


「遅すぎるやろ。指先に炎灯すんに1分もかかってるんやで。これから攻撃魔法の練習するにしても話にならん」


「確かにそれは言えとるわ。動かん的やったら鈍くさいで済むけど、実戦やったら何もできひん間にボコボコにされてまうで」


「どないせえっちゅうねん」


「そこは魔力操作の練習しかないやろ」


「せやけど、何べんも魔法使たら魔力があっちゅう間に無くなってまうで。そない練習できへんがな」


「できるだけ消費の少ない魔法で練習するしかないやろな」


「うへえ~、ずっと灯火ばっかりかいな。ショボいわぁ」


「しょうがないやろ。千里の行も足下に始まるだ」


「国語教師がなんか知らんことわざ使てるで」


「あー、それの意味は千里の道も一歩からと同じはずや」


「わざわざ難しい言い方すな」


「俺にとっちゃ、こっちの方が馴染んどるんや」


「面倒くさいやっちゃなぁ」


「そんなことより魔法の練習や」


「いや、お客さんやで」


「ホンマや。気付くん遅れてしもたがな」


「あんま強そうやないな。オークか?」


「やとしても数はそれなりにおりそうや。気ぃつけや」


「わかってるがな」


 休憩の間中こんな具合でずっと喋り続けていたが、気配を察知すると即座に臨戦態勢を取る。

 無駄口は多いけど、これが彼らにとってのスタンダードなので口出しはしない。


「あー、来た来た」


「やっぱり豚顔やんな。数は6か」


 豚顔とはオークのことである。

 隠語だからよそで通じるかは不明だ。


「いや、8や」


「1人1体で始末して後は早いもん勝ちでええか」


「ええんちゃう? それより突進してきたで」


「いつまでもお前らの突進で吹っ飛ばされたりせえへんぞ」


 宣言通りオークの突進を正面から受け止めて一刀両断の勢いで倒す大阪組。

 各自が1体ずつ斬り伏せて残った2体のオークは数秒後には八方から切り刻まれて終わっていた。

 危なげない勝ちっぷりは完勝と言って良いだろう。


「せやけど、はよ魔法で倒したいなぁ」


 ドロップアイテムを回収しながら大阪組の1人がボヤく。


「無茶言うな。今のままやったらこっちが一方的にやられてまうで」


「そんなもん、わかっとるがな。せやから練習あるのみやて言いたかったんや」


「さよけ。せやったら、はよ拾え」


「へいへい」


 脱線していた大阪組は再びドロップアイテムの回収を始めた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「集中しろ! 雑念が手に取るようにわかるぞ」


 英花が座禅を組む大阪組を叱咤する。


「無茶苦茶や」


「無理やて。ここダンジョンの中やで」


「無防備な状態で瞑想なんてできる訳あらへん」


 大阪組がボソボソと呟くようにボヤく。

 目を閉じているが、こんな調子では瞑想しているとは到底言えない。

 そんな大阪組の体たらくを見てまなじりを釣り上げた英花だったが。


「やらないと帰れない」


 真利がボソッと呟いた言葉に反応して開きかけていた口を閉じた。

 その口がニヤリとした笑みへと形を変える。


「そういうことだ。夜中でも付き合うから頑張ってもらおうか」


 さすがに目を閉じていられなくなった大阪組がいっせいに英花の方へ振り返った。


「魔王様、いくらなんでも横暴や」


「せやで。こんなん危険すぎる」


 他の大阪組が激しく首肯した。


「何を言っているんだ? 我々がいるのに危険などある訳ないだろう」


「でなければ、こんな過激な特訓はしない」


 英花の言葉に真利が付け足すようにボソッと呟いた。

 いつもと口調が違うのは真利なりに突き放した感じを出したいがためと思われる。


「そりゃあ魔王様たちのことは信用してまっせ」


「せやけど、万が一ちゅうこともありますやん」


「それは信用していないと言っているのも同然だ」


「いや、だって、ここワーウルフとかサーベルウルフも出まっせ」


「どっちもミノタウロスより厄介やないですか」


「何を寝ぼけたことを言っているのだ。厄介のやの字も感じないぞ」


「いや、アイツらめっちゃ素早いやないですか」


「大阪組は見事に翻弄されていたな」


 英花の言う通りワーウルフやサーベルウルフと戦った際には奴らのスピードに対応できず最初はガチガチに守りを固めるので精一杯の状態だった。

 正直、フォローしていなかったら危なかったと思う。


「助けたのは誰だっけ?」


 俺がそう言うと、ようやく思い出したようだ。


「魔王様たちですけど……」


「そんなに余裕がなく見えたのか?」


 英花がジロッと睨むように目を向けて言った。


「そないなことなかったです」


「正直、何がなにやらわからんうちに終わってました」


「そんな状態で我々が信用できんと言われてもな」


「いや、あの……、すんません」


 1人が謝罪すると他の大阪組も詫びてくる。


「頭を下げている暇があったら集中!」


「「「「「はいぃっ!」」」」」


 そこから先は瞑想に集中できたようだ。

 こんなことで魔法が上手く使えるようになるのかと言われそうだけど、大阪組の場合に限って言えば答えはイエスだ。


 いつものパターンで戦えている間は余裕があるが、それを崩されると軽くパニックになる。

 それがワーウルフなどのスピードのある相手だった。

 狼狽せず冷静さを失わずに防戦していれば立て直すこともできたかもしれないが、それができなかった。

 ひとえに胆力がないせいである。

 そんなものが一朝一夕で得られるものではないことくらいはわかっている。


 ビビるのは構わない。

 むしろ怖いのに怖くないと強がりうそぶく方が問題である。

 そんな奴は信用できないし肝心なときに何もできずに終わってしまうのがオチだ。

 当人が勝手に人生の幕を閉じるのであれば自己責任で片付けられるが、この手の輩は他人を巻き添えにするから厄介極まりない。


 幸いにして大阪組は軽々しく見栄を張ったりはしないので問題とはならない。

 後は正しく恐れることができるかどうかだ。

 過剰に恐怖を感じてしまえば何もできなくなってしまう。

 あるいはパニックを起こして正解には程遠い行動をしてしまうか。

 大阪組は後者よりだったと言えるだろう。

 かろうじて最悪の事態に陥るような真似はしなかったけれど。


 では、正しく恐れるとはどういうことか。

 危機感を感じ、それに連動して集中力を高めることだと俺は考える。

 大阪組ができていなかったことだ。

 ワーウルフとの戦闘に限った話ではない。

 お台場ダンジョンが高難易度ということで無意識のうちに恐れすぎてしまっていた。

 そのせいで魔力制御でも手間取っていたのである。


 故にこのままダンジョンの外に出て魔法の練習をすれば、まるで違う結果になるはずだ。

 だが、それでは意味がない。

 ピンチの時こそ普段と同じように動ける、あるいは魔法が使えるようにならなければならない。


 だから、ここで瞑想をしてもらってるんだけどね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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