195 思った以上に伸びた
大阪組を鍛え始めて1週間。
休養日を2日ばかりはさんでいるので初日から数えて9日目なんだけど。
「いやぁ、見違えたね。まさかここまで伸びるとは」
同じパーティに組み込んだ訳でもないし大阪組が勇者や英雄スキルに目覚めた訳でもないのに急成長した。
「驚くんは俺たちの方ですがな」
「ホンマや。ミノタウロスが難敵やと思えんようになってもた」
「ビックリや」
「今やったらオークキングが普通に倒せるんちゃうやろか」
「どやろ? さすがに苦戦はまぬがれんのちゃうか?」
「苦戦ですむんかい。普通はボコボコにされて終わりやで」
「せや、フレイムマンみたいなことになりかねん」
「アイツ、アホやんな。オークとオークキングの越えられん壁があるのも理解せんと調子乗って突撃してまうし」
「けど運だけはむっちゃええで。骨折しただけで助かっとるし」
「そういや最近は見かけへんな」
「さすがに懲りて冒険者引退したんとちゃうか?」
「引退はしていないぞ」
大阪組の話に英花が口を挟んだ。
「えっ、アイツのこと知ってはるんでっか?」
「堂島だろう」
「あ、中の人のことまで知ってるやないですか」
「そりゃそうだ。あの時、俺たちも現場にいたからな」
「「「「「ええーっ、ホンマにぃ─────っ!?」」」」」
「ウソついてどうするんだよ。見栄張っても何のメリットもないだろ」
「そらそうか」
「勇者様が見栄張るようなことてあるんかいな」
「そんなん俺が知るかいな。それにや」
「なんやねん」
「勇者様の逆鱗に触れたいんか?」
「おおぅ、それは勘弁してほしいわ」
なんか物騒なことを言ってるな。
誰がマジギレするって?
変なことを噂されたりするのは嫌だけど、そんなことくらいでキレたりは……
しない、と思う。たぶんメイビー。
「そんなことより堂島のことが知りたいんじゃないのか?」
「そうですそうです。最近は地元にも顔見せんようになってもて」
一度は帰ろうとしてたみたいなんだけどね。
レッドキャップによって風の揺りかごにさらわれたおかげで帰省し損ねたんだよな。
それ以降はなんやかやと忙しくしているようで帰ることができていないらしい。
「奴なら今は自衛軍のチームに組み込まれている」
「「「「「はあっ!?」」」」」
「ホンマでっか?」
「アイツ、いつの間に軍人になったんや」
「違う違う。ダンジョンのことに詳しいから民間のアドバイザリースタッフとして参加しているだけだ」
実質、戦力として組み込まれているんだけどね。
「いやいや、それはナンボ何でもおかしいんとちゃいますか?」
「何がおかしい」
ムッとして英花が問い返す。
「だって、アイツそない強ないのに、そんな大役務まるはずありませんやん」
一体、いつの話をしているのだろう。
初遭遇の時でも単独でオークを倒すことができるくらいの実力はあった。
オークキングは格が違うので話にならなかったけどね。
おそらく大阪組はフレイムマンの初期の頃の動画しか見ていないのだろう。
「今の奴はソロでオークキングも倒せるはずだ」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「いやいやいや、それこそあり得ませんて」
「そうですわ。今のワイらでもソロでは自信ないのに堂島がオークキング倒せるやなんて」
「アイツは悪い奴やないですけど、そのことと実力は比例しませんわ」
大阪組は堂島氏が強いということを頑なに信じようとはしないものの馬鹿にする感じではなかった。
でなければ英花がキレていたことだろう。
「今の堂島はかなり鍛えられているからな。自衛軍の訓練メニューもこなしているそうだぞ」
英花の言葉に大阪組は唖然呆然といった様子で絶句する。
「ウソだと思うなら奴と模擬戦でもやってみるがいい。今のお前たちでは勝ち目はほぼないぞ」
「それについては俺もそう思う」
「魔法なしでも厳しいよね」
大阪組が頑なに信じなかったことにムッとしていたらしい真利までもが英花の援護に乗り出してきた。
この1週間で多少は慣れたというのもあるとは思うけど。
「ちょっ、ちょっと待ってえな」
大阪組の1人が慌てだした。
いや、他の面々も目を白黒させて驚いている。
「どうした?」
怪訝な顔をして英花が問う。
「魔法て何ですの?」
「魔法は魔法だ。この世界でも魔法が使えるようになったのは今や世界の常識だろう」
「そういうことちゃいますがな」
「では、どういうことなのだ」
「堂島が魔法を使えるて、どういうことでっか?」
「動画を見て特訓したみたいだぞ」
「あの初級魔法講座とかいう動画ですかいな」
「そこまでは知らん」
「アレ眉唾やいう話と違たんか」
「それとは限らんやろ」
「そんなん、どうでもええ。堂島が魔法を使えるようになったかどうかや」
「にわかには信じ難いわな」
ウンウンとうなずく大阪組。
「自衛軍でも魔法が使える人が何人か出てきてるゆう話やったら聞いたことあるけどなぁ」
「それに魔王様や魔神様がウソつく訳あらへんし」
そこで大阪組が意気消沈してしまった。
「アイツ、ホンマに強なったんやな」
1人がボソッと呟く。
「負けてる訳にはいかんなぁ」
「せや。ワイらかてもっと強ならなあかん」
「魔法も使えるようにならんとな」
「ホンマやで。俺ら周回遅れもええとこやんか」
そこまでの差はないと思うがモチベーションが下がりかねないから黙っておこう。
「そんな訳なんで自分らに魔法教えてくれませんか」
大阪組が深々と頭を下げてきた。
必要とわかれば年下が相手でも躊躇なくそれができるのはスゴいことだと思う。
まあ、1週間しごいてきたから抵抗感がなくなっていたとも考えられるんだけど。
「どうして我々が魔法を使えると思うんだ。使えないかもしれないだろう」
「異世界人の皆さんが一緒におるのにそれはないですわ」
「いやいや、それ以前に魔法が使えてたと思うで」
「せやな。そうやなかったら難易度の高いダンジョンの深い層へホイホイ行けるもんとちゃうで」
英花の言葉を即座に否定する大阪組。
なかなか鋭い見方をしてくれるものだ。
こういう観察眼のあるタイプは伸びるんだよね。
もちろん、現状に満足せずに努力を続ければの話だけど。
現に今の彼らは俺たちの予想を超えて成長している。
この調子なら魔法の習得も1週間くらいでできるかもしれない。
「とにかく、お願いしますわ」
1人が口火を切ると口々にお願いしますと連呼してくる大阪組。
「ええい、わかった。魔法の特訓もするから鬱陶しい真似をするな」
「「「「「おおきに!」」」」」
根負けした英花に対し満面の笑みで礼を言う大阪組であった。
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その日の攻略を終えホテルの部屋に戻ったところで真利が話があると言ってきた。
「改まって何だよ?」
皆目見当がつかない。
「涼ちゃん、スキルの確認した?」
「は? 俺たち、ここのところスキルを得るようなことをしていないだろ」
もしくはレベルアップすればだが、残念ながらこの遠征ではまだだ。
「涼成、つべこべ言わずに確認してみろ」
驚きの表情を見せながら英花がそんなことを言ってきた。
「確認すればいいのか?」
なんら代わり映えしないだろうにと思いながらも言われたとおりにすると……
「なんだこれ?」
見覚えのない指導というスキルが増えていた。
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