194 お台場ダンジョン攻略2日目
お台場ダンジョン攻略2日目は特に騒ぎになることもなく始めることができた。
「身構えていたけど拍子抜けだな」
「受付で注意喚起があったんですわ」
独り言を呟いただけのつもりだったのだけど大阪組からそんな情報を得ることができた。
「は? そうなのか?」
俺たちは何も聞いていないのだが。
「そうですけど、そない大した注意やありまへんでしたわ」
「異世界人の皆さんと勇者様たちには節度を持って応対するように言われただけですよってに」
「なるほど、そういうことか」
俺たちも隠れ里の民たちの関係者だとわかっていたから何も言われなかったのだろう。
「だが、それで大人しくなるとは聞き分けが良いものだな。暴走するような輩がいてもおかしくないと思うのだが」
英花は今の状況を歓迎はしつつも警戒しているようだ。
からまれた経験があると自然とそうなるものかもね。
「お台場が特殊なんとちゃいますか」
「どういうことだ?」
「ここは難易度高いよって程度の低い奴らは弾かれるみたいなんですわ」
実力者が集まると変なのは寄りつきにくいと言いたいらしい。
腕はあるのに他がよろしくない連中もいない訳ではないと思うんだけどね。
そういうのはダンジョンの難易度が上がれば上がるほど減っていく傾向でもあるのかもしれない。
知らんけど。
「レッドバイソンの連中みたいなんが最初からおらんのは正直うらやましいわ」
「たまたまだと思った方がいいかもしれないな」
英花はさらに警戒感を強めている。
「何かあったらすぐに報告するようジェイドたちには言ってあるから大丈夫だろう」
自分たちで何とかしようとしない限りは。
少なくとも今回の遠征に同行している面子にそういう危なっかしいのはいないはずだ。
「涼成、我々も注意しなければならないんだぞ」
英花には呆れた視線を向けられてしまった。
「え、そうなのか?」
「当然だろう。隠れ里の民たちを引率していたのを見られているんだから」
「あ、なんでか御屋形様って呼ばれてるのも知れ渡ってまっせ」
「マジかよ。勘弁してくれ」
嘆息したところで、ふと気付く。
「まさかとは思うが……」
そう言いながら大阪組の方へ疑いの視線を向けると、いっせいにブンブンと頭を振られた。
「いやいや、ワイらは言うてまへんで」
「せや。信用にかかわりますやん」
「誰も故意に漏らしたとは言ってない。外で飯食ってるときに自分たちだけのつもりで話をしていたのを聞かれたとか」
東京タワーでのことは魔法で遮断していたので余人に情報が漏れるはずがないのはわかっているが、そういうこともあり得る訳だ。
「それは無いとは言えませんわ」
「昨日の晩は酒が入ってましたから」
「おい、今日は大丈夫なんだろうな」
酒が残った状態で難易度の高いダンジョンに潜るのは自殺行為と言って良い。
場合によってはこのまま引き返す必要も出てきたぞ。
「泥酔するほどやないですて」
「こっちの冒険者チームと情報交換がてらの食事会になったんですわ」
「そういや魔王様たちのことを別の場所で見かけたて言うてましたで」
「なに?」
そう言いながら眉間にシワを寄せる英花。
「なんか山で子供が行方不明になったとかで捜索に加わったんでっしゃろ」
「あー、高尾山でたまたま居合わせたんだよ」
そっちから情報が漏れたか。
だったら、しょうがない。
「これは隠れ里の民たちにも言っておかないとな」
変装しているときに御屋形様呼ばわりはやめるようにね。
「せやけど無理ちゃいますか」
「何故だ?」
「なんでて、もう魔王様たちのこと知れ渡ってますやん」
確かに今更感はあるな。
冒険者たちの横のつながりを考えると情報の拡散はあって当然だろうし。
「それに魔王様が一番目だってますがな」
「ぐっ」
外人顔なのに日本語がペラペラだもんな。
しかも背が高いとくれば嫌でも人の視線を集めてしまう。
観光地であれば外国人観光客がいて、そこまで目立たないということもかつてはあったのだけど。
天変地異以降は多くの国が滅び世界の人口が激減したこともあって海外旅行は珍しいものになってしまった。
故に有名な観光地であっても海外からの旅行客を見かけることが少なくなっている。
「しょうがないよ。時間は巻き戻せないんだし以後は臨機応変に対応するしかないさ」
と言ったところで魔物が近づいてくる気配を感じた。
「お客さんだ」
そう声をかけただけで大阪組が配置につく。
昨日は割と大騒ぎしていたんだけど今日は修正できているな。
魔物の気配を感知するのは、まだ難しいみたいだけど。
これもそのうち身につくだろう。
今日の一発目はミノタウロスのようだ。
地元の冒険者だとハズレだと嘆くところだろうか。
それともドロップアイテムがおいしいカモだと思うのか。
ここの冒険者たちとはまだ接触がないので、そういう情報がない。
とりあえずは客人を丁重におもてなししてドロップアイテムになっていただこう。
まあ、おもてなしをするのは大阪組なんだけど。
「来たで! 牛が2体や」
「いきなりかいな。武器はなに持っとる?」
「どっちも棍棒みたいやな」
「うわ、おいしないんが来てしもたがな」
「せやけど躊躇なく捨てられるで。初っ端からデッカい斧とかやったら持ち帰るんが難儀や」
「距離が詰まった。仕掛けるで!」
「「「「「おう!」」」」」
ミノタウロスの突進攻撃対策として自分たちから前に出る。
もっとも、そのまま出会い頭にかち合う訳ではない。
奴らの突撃体制のタイミングをずらした上で脇に避ける。
ある意味、闘牛士の戦い方の応用だと言えるかもしれない。
肉弾戦で戦う大阪組の場合、敵を上手くあしらう必要があるから工夫は必要だ。
これは教えた訳ではなく彼らなりに考えて編み出した戦い方であった。
昨日、見た時に多少のアドバイスはしたけどね。
突っ込んで来るミノタウロスを避けた大阪組が、すれ違い様にミノタウロスの脚を切っていく。
教えたとおり撫でるように切ったな。
あんまり深手を負わせることを意識すると奴らの突進の勢いに引きずられてしまいかねないからね。
そんなことを気にしなくてもカウンターになるから浅いダメージにはならない。
さすがに一撃必殺とはいかないけれど、脚にダメージがあるなら踏ん張りがきかなくなる。
それは攻撃力にも直結する訳で。
数分後には危なげなくミノタウロスを仕留めきっていた。
「うっわ、めっちゃ楽に倒せたで」
「楽ではないやろ。油断したら一気にひっくり返されてたで」
「それな。連戦になったらヤバいわ」
「昨日、休憩の取り方も大事や言われたけどそういうことなんやな」
「調子に乗ってイケイケでいっとったら命がいくつあっても足りへんっちゅうことや」
「これぞ勝って兜の緒を締めよ、やな」
「それはちょっと違うと思うぞ。俺らは別に油断はしてないやん」
「ちょっとか?」
「国語教師の前でことわざは下手に使わん方がええぞ」
「別にこのくらいの誤用は誰でもわかるやろ」
「わかるかどうかやない。指摘するかせえへんかや。その点、国語教師はつい言ってしまいとうなるんやろうけどな」
「お前だって間違った英語使われたら言いたなるやろ」
「否定はしないぞ。それが教職を選んだ人間の性だからな」
そろそろかな。
「休憩は終わりだ」
「えっ、これ休憩やったん?」
「休めた気がせえへんがな」
「少なくとも体力は回復してるはずだ」
「それはわかるけど、なんか損した気分や」
知らん。自業自得だ。
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