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191 冒険者になる前は

「ちょっと待て」


 英花がワイワイと話す大阪組にストップをかけた。


「何ですのん、魔王様?」


「今、引率するのがどうとか言わなかったか?」


「言いましたけど、それがどないかしましたか?」


「修学旅行の引率なんて冒険者がするはずがないと思わないのか」


「あー、そのことですかいな」


 大阪組がそろって苦笑する。


「俺ら元教師なんですわ」


「む、そうなのか? 全員?」


「そうですわ。俺は高校の国語教師で」


「ワイは小学校」


「コイツとは別の学校やったけど俺も元小学校教師ですねん」


「俺は中学の国語ですわ」


「同じ中学で英語、教えてました」


「高校で数学を」


 ものの見事に全員が教師である。

 しかも同じ学校だったのは2人のみ。

 こんな偶然ってあるか?


「よく元教師というだけで組めたな」


 英花も同じ疑問を持っていたようで、そのままストレートで疑問を口にしていた。

 が、それに対する反応は苦笑交じりの照れ笑い。


「俺ら、大学の同期なんですよ」


「それどころか小学校からずっと一緒でしてね」


「なるほど。そういうことか」


 英花も合点がいったようだ。

 確かに幼馴染みならバラバラの学校でも連むのは不思議じゃないな。

 全員の進路が教師だったのは、できすぎな気がしないでもないけどね。


「だが、それで教師を辞めて全員で冒険者とは思い切ったことをしたものだな」


 英花がそう言うと空気がガラリと変わった。


「む、すまん。何か触れてはいけないことだったようだな」


「あー、ええんです。後悔はありますけど、ワイら今の生活に満足してるんで」


「ホンマホンマ。学校勤めの時は自由時間なんてろくになかったし」


「今こうして旅行ができるんも冒険者になったからやもんな」


「せやせや」


「なんも問題ありませんて」


 彼らが取り繕うのを見ていると何があったのかわからないながらも痛々しく感じてしまう。

 同じように感じたのは俺だけではない。

 英花も真利も痛々しげな目を向けていた。


「ホンマ大丈夫です。俺がいじめの問題で辞めることになったら皆がなんやかんや言うて冒険者になるの付き合ってくれたんですわ」


 いじめの問題って……

 簡単に大丈夫とは言えないだろうに。

 現に重苦しい雰囲気は変わらないままだ。


「いや、コイツは悪ぅないんです」


「せや。問題解決に奔走してたのに学校が揉み消しに動いて……」


「そのせいで、いじめられた生徒が自殺してしもたんですわ」


「幸い死んだりせえへんかったんですけど、それで世間の知るところとなってしもたんです」


「コイツが責任取る形で辞めさせられましてな」


 これ以上ないくらい酷い話だ。


「俺らはそれに抗議して辞めましてん」


「まあ、その後で校長が揉み消し工作してたんが暴露されたんでコイツは責められることものうなったんですけど」


「そん頃にはもう冒険者として稼げるようになってたんで教師に戻るんも今更やてなったんですわ」


「なに言うてるねん。俺らが勝手に辞めたから復職できへんの知って自分だけ戻れやん言うてたやないか」


「せやったか?」


「「「「「そうや」」」」」


 そのツッコミで大阪組が声に出して笑った。

 ちょっと彼らのノリについていけない。

 最後はツッコミで終わらせるのが関西人のスタンダードなのだろうか。


 まあ、一時的に暗くなっても締めを明るく終わらせるのは見習うべきところかもしれない。

 とても真似できるものではないけどね。


「ひとつ聞きたいんだけど」


「おっ、勇者様は何が聞きたいんでっか」


「口座の暗証番号は勘弁してや」


「俺は詐欺師じゃないぞ」


 つい、ツッコミを入れてしまったらハハハと笑われてしまった。

 関西人は笑いを提供する側へと誘導するのもお手の物なのか。

 俺自身は自分のツッコミをそんなに面白いとは思えなかったけど釣られて笑ってしまったさ。

 勢いって大事なんだな。


 ただ、感心しているだけだと話が進まない。

 割と真面目な話のつもりなので、すぐに表情を引き締める。

 それに気付いたようで大阪組も真顔に戻った。


「それで聞きたいことて何ですの?」


「地元を離れて教師をやってみる気はあるかってことなんだが」


 あまりにも意外な質問だったのだろう。

 大阪組は驚きと困惑が混じった顔で互いに顔を見合わせている。


「冗談やのうて?」


 おずおずと聞いてくる。


「冗談でこんな話は聞かないさ。開校予定の新設校で教員が不足してるんだよ」


「冒険者しながら学校経営ですか?」


「何してますのん」


 冗談と思ったのか大阪組はちょっと笑っている。

 そんなにツボにはまる話だっただろうか。


「冒険者を引退する訳やないですよね」


 こちらの事情を説明していないので、そういう風に考えたりもされる訳か。


「そんな気はさらさらないよ」


「せやけど、なんでまたこんな話を? 普通に募集かけたら希望者はいっぱいおるでしょ」


「それ、変なんがまぎれ込むで」


「面接とか何回もやって、それでもアカンことあるからなぁ」


「校長が正にそんな感じやったわ」


「「「「「あー」」」」」


 辟易した顔を見せる一同である。


「そういう人間がいた場合は即座に言ってくれ。対応する」


 英花がそう言うと意外だと言わんばかりの目を向けられた。


「それ、事実上の冒険者引退とちゃいますの?」


 大阪組の1人が妙なことを言い出した。

 ついさっき否定したのに、どうしてそういう話になるのだろうか。


「ホンマや。学校の運営てごっつう大変なんやから片手間なんかでやろう思たら痛い目見まっせ」


 どうやら俺たちが学校経営をするものと思ってしまったらしい。


「俺たちは基本的に運営には関わらないよ。ここぞという時には口出しするけどね」


 そう言うと、大阪組の周囲にクエスチョンマークが飛び交った。

 これは事情を説明しないと話にならないだろう。

 ただ、言葉だけでどれだけ伝わるものか不安がある。

 場合によっては信じてもらえないかもしれない。


 ここは最初に有無を言わせない一見があるべきだろう。

 誰でもいいから呼び寄せたいと周囲を見回してみるとナイスなタイミングでネモリーが近くを通りがかった。


「ちょうどいいところに来たな」


 手招きで呼び寄せる。


「何でしょうか、御屋形様」


 自分が呼ばれた理由が思い浮かばないネモリーが困惑している。


「「「「「御屋形様ぁ?」」」」」


 素っ頓狂な声を上げる大阪組にネモリーがギョッとしてそちらを見た。


「悪い。ちょっと変装を解いてくれないか」


「ええっ、ここでですか!?」


「他の客には見えないようにするから」


 現に大阪組の大きな声に反応した客は誰もいない。

 音声結界を使っていたからだ。

 今は幻影を被せて変装を解いても話し込んでいた俺たち以外にはバレないようにもしてある。

 ネモリーもそれに気付いてくれたようだ。


「こちらの方たちは大丈夫なんですか?」


「ちょっと騒ぐかもしれないが信用できる。大阪で世話になった冒険者たちだ」


「そういうことでしたら」


 ネモリーが指輪の機能をオフにして変装を解いた。


「なんやてっ!?」


「マジかいな!?」


「うわぁ、ホンマもんやー」


「エルフやで、どないなっとるねん」


「夢ちゃうわな」


「ちゅうことは、勇者様と一緒に来た外人さん全員エルフかいな」


「ドワーフもいるぞ」


 唖然とする大阪組。


(異世界人を保護したのて勇者様たちやったんですか)


 急にヒソヒソ声になったが今更だ。


「心配しなくても部外者に話を聞かれないようにしてあるから大丈夫だって」


 俺がそう言うと周りをキョロ見するが、誰もこちらのことなど気にとめていない。

 ホッと胸をなで下ろす大阪組だが、まだ話は終わってないんだよ?


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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