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19 腐食の王を倒せ

 その後、俺たちはシビアな条件をクリアするために何日もかけて練習した。

 やはりレベルアップしなかったけれど。

 後にダンジョンコアを掌握して判明したことだけど、同じ魔物だけを繰り返して倒したことで経験値が得られない状態になっていた。

 他の魔物がいればリセットされるなんて初めて知ったよ。

 今までこんな偏った条件で戦ったことはないからね。

 俺たちは勇者スキルを保有しているからレベル10まで上げられたけど、普通はほとんどレベルアップできない環境ということだ。


 つまり、このフィールドダンジョンにゾンビしかいないのもレベルを上げさせないためということになる。

 このフィールドダンジョンを構築しているダンジョンコアはなかなか用心深い。


 いい加減ゾンビの密林から抜け出したいけれど、これが簡単ではないのだ。

 失敗するとダンジョンコアが対応する恐れがあるからね。

 チャンスは一度きりと思った方がいい。

 故にコーティング魔石は1週間以上かけて失敗を繰り返しながら準備した。

 ダメにした魔石もひとつやふたつじゃない。

 質の良い魔石が手に入る環境だったらもっと楽だったんだけどね。


 そんな訳で俺たちは腐食の王がいる場所から最も近い転移ポイントに来ていた。

 ここに来るために使用した転移魔法で英花が消耗したが、俺からの魔力供給で補充して万全の状態だ。

 一方で俺はかなりの魔力を消費してしまった。

 ただ、この作戦において英花のように魔力を大量消費することがないので問題はない。

 この場所を選んだのはダンジョンコアに転移魔法の使用を感知されないギリギリの距離で英花が魔法を使用した際に消耗を少しでも少なくするためだ。

 失敗は許されないからな。


「準備はいいか、涼成」


 英花が声をかけてきた。


「俺はいつでもいい。ミケはどうなんだ?」


 先程、英花とシンクロしてから敵のいる場所に向けて駆けていったので俺には確認しようがない。

 千里眼のスキルを使えば確認できなくはないが敵に察知されることも警戒して使わないようにしている。

 それとミケが霊体化してしまうと見えなくなるから作戦前だと見ても意味がないんだよな。


「スタンバイオーケーだ。いま腐食の王の背後に回り込んでいる」


「予定通りだな」


 腐食の王の後頭部付近に転送魔法の出口を展開してコーティング魔石を俺の投てきで叩き込む。

 手順としては複雑ではないがミスが許されない分、緊張感がハンパない。

 大丈夫だ。練習通りにやればいい。


「じゃあ始めるぞ」


「ああ」


 俺の返事を受けて英花が転送魔法の詠唱を始めた。

 いつもは無詠唱だが、あえての詠唱はタイミングを取りやすくするためだ。

 俺はコーティング魔石を手にセットポジションを取った。


 ゆっくりと呼吸しながら待ち構えるが思いのほか時間の経過が遅く感じる。

 まだかまだかと焦る心を抑え込むべく練習の時のことを思い出す。

 ようやく詠唱が半分終わった。


 練習の時などとは比べものにならないほど重圧が増していく。

 それでもやることは練習と同じだ。

 力むな、落ち着け。

 力めばタイミングもコントロールも狂う。


 英花の詠唱が終盤にさしかかった。

 英花が指差す先の宙空に極小の魔法陣が淡く発光しながら標的のように展開し始めていた。

 俺が投球を開始するまで残り5・4・3・2──


 今っ!

 クイックモーションで投てきを始める。

 練習と同じ歩幅で踏み込んで体重移動しつつコンパクトに腕を振るう。

 魔法陣の中心目掛けコーティング魔石を投げ込んだ。


 すぐに2投目をスタンバイし待機する。

 1投目は狙い違わずに転送魔法陣の中心に飛び込んだ。

 同時に千里眼のスキルを使う。

 このタイミングなら向こうに知られても問題ない。

 むしろしくじったときに備えて2投目を投げるためには少しでも早く向こうの状態を確認しなければならない。


 視線を飛ばすと、ほぼ闇の世界であった。

 転送魔法陣の微かな光を頼りに目をこらす。


 何かが揺れるように動いた。

 失敗したか。

 一瞬、そう思い心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じたが……


 揺れるように動いた何かは地面へと向けて倒れ込んでいった。

 それと同時に腐食空間が解除されたのか視界が徐々に明るくなっていく。


「どうだ」


 上手くいったと確認できたはずなのに、つい不安を感じてしまい問いかけていた。


「成功だ。ド真ん中を撃ち抜いた」


 英花が言ったとおりだった。

 頭部の上半分が原形をとどめていないそれは早くも全体の像がぼやけ始めていた。

 ダンジョン内で致命傷を負った魔物の特長と合致する。

 別の言い方をするなら、ライフはゼロだ。

 アンデッドにライフなど存在するのかなどと下らないことをつい考えてしまった。


「消えていくみたいだな」


「ああ」


「ドロップはやはり魔石だけかな」


 そんな軽口まで出てくる。


「たぶんな。だが、油断するなよ。ダンジョンコアが残っている」


「そうだな」


 あれに魔力を放射して掌握するまでがダンジョン攻略ですってね。


「英花、魔力の消耗具合は?」


「大丈夫だ。いつもの転移より少ないくらいだ」


 そう返事をした割には疲れた顔をしている。

 魔力の消耗が少ないのはミケと同化していたからだ。

 が、そのぶん同調と魔法の制御で極限まで集中する必要があったため疲労が濃い。

 練習の時よりも緊張感が高まっていたのも疲労を増したと思う。


「行くか」


 英花がうなずく。

 休んではいられない。

 守護者がリポップすれば元の木阿弥だ。

 魔力を大量消費した直後に転移魔法は使えない。

 俺たちは密集する木々の中を駆け出した。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「見えた! ミケだ」


 ミケは俺たちに背を向ける格好で少し開けた場所の方を見ていた。

 木々が邪魔をしてなかなか接近できない。

 あと少しという距離だけにもどかしいものがある。


「何か様子がおかしい」


 最初に気付いたのは英花だった。

 言われて見直してみれば、俺たちが近づいても振り向こうともしない。


「魔王様、涼成様、お急ぎくださいニャ!」


 訝しく思っていると向こうを向いたままのミケが警鐘を鳴らすかのような呼びかけをしてきた。


「どうした!?」


 英花が問うも──


「異変ですニャ!」


 返されたのは要領を得ない返答である。

 その異変とやらがなんなのかを知りたいのだ。

 もはや闇は取り払われてはいたが木々が邪魔をして向こうの状況までは見通せない。

 俺は少しでも速く走るために千里眼を解除していたし英花もミケとの視覚共有をカットしていたから何が起きているかは見える場所まで移動するしかなかった。


「ええい! 冗談ではない」


 何処かで聞いたような台詞で苛立ちながらも加速する英花。

 まともに直進できない密林の中でそんな真似をすれば木にぶつかってしまうのがオチだ。

 しかし、ぶつかりそうになったところで英花は腕を伸ばした。

 木をなぎ払うように押して反動で横移動しながら勢いは緩めずに前に進む。

 俺は俺で木の幹を蹴りながらミケのいる場所を目指す。

 そうして辿り着いたところで目にした光景は確かに異変であった。


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