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18 腐食の王攻略法

 そんなこんなで模索すること1週間以上。

 俺たちは煮詰まっていた。


「ダメだ。どうしても届かない」


 ポジティブだと思っていた英花が弱音を吐くとはね。

 驚きに値するとまでは言わないが追い詰められているとは感じる。


「ゾンビが王様になっただけで、ここまで強敵になるとは予想外だよ」


「コーティングもダメだったし」


 魔石に魔石の皮膜を被せる方式で厚みを増す方式は少し奥に届かせるのが精一杯。

 魔石を魔力でガードしても浸食されて結果は同じだった。


「スリップストリームもダメ。風で押し退けるのもダメ」


 車のレースで先行車の真後ろについて空気抵抗を減らすスリップストリーム方式を思いついた時は悪くないアイデアだと思ったのだが。


「風は最初からダメだってわかってたじゃないか」


 腐食の王が展開する腐食空間は内部の空気を変質させたものではなく空間を変異させていた。

 もちろんスリップストリーム方式は完敗したし風で空間が押し退けられる訳もない。


「念のための確認だし確証が得られたじゃないか」


「そうだな」


 風ではなく魔力で押し退けようともしたけど、これも奥に行くほど減衰させられて届かず。

 英花が押し退け俺が魔力ガードしたコーティング魔石を投てきしても爪の先ほどの欠片を当てるのが精一杯だとミケに判定されてしまった。

 それとて本当に当てるだけでダメージを与えるほどのものではないと言うし。


「地道にレベルアップして魔法の強度を上げるしかないのか」


 ステータスを上げてゴリ押しすることができるなら勝ちの目もあるだろう。

 上げられるならだけど。


「俺たち未だにレベル10のままだぞ。あれから結構ゾンビは倒したはずだろう?」


「うっ」


 2桁レベルになった途端、頭打ちになったかのようにレベルアップから遠のいているからなぁ。

 経験値稼ぎに専念できていないのもあるけどさ。

 仮に方針転換して1日の大半をゾンビ狩りに費やしたところでレベルアップできるのがいつになるかはわからない。

 たとえ明日レベルアップしたとしても、ひとつ上がったくらいで脳筋パワープレイができるようになるとは思えないし。


「それと思うんだが別のアプローチをしてみた方がいいかもしれない」


「別の?」


「ああ。そのためにひとつ確認しておかなきゃならないことがある」


 距離を取っていたミケを呼び寄せる。


「どうしましたニャン?」


「腐食の王のことで聞きそびれたことがあるんだよ」


 偵察は完全に任せっきりにしていたから千里眼のスキルを使ってリンクするとかはしていなかったので不明なことがあるのだ。


「何なりとお聞きくださいニャン」


「腐食の王は立っていたのか」


「はいですニャ。仁王立ちしてましたニャ」


「ゾンビのくせに偉そうね」


「そうか? 王と呼ばれる割には玉座もないみたいだけど」


「ありませんニャ。そんなこと聞いてどうするんですニャ?」


 おっと、話がそれた。


「地面が腐食していないかどうかが知りたかったんだよ」


「なるほど。沼のようにグズグズになってしまうと沈んで──」


 感心したように頷きながら喋っていた英花がハッとした顔をして途中で言葉を切った。


「そうか! 地面の中を進めば腐食しないじゃないか」


「そう。奴の真下まで接近してコーティング魔石を撃ち込む」


 それならば腐食の王にダメージも与えられるだろう。


「まずは足の裏に当てて脚を使い物にならなくさせて転倒させる」


 ゼロ距離射撃なら魔石が腐食して小さくなることもないはずだ。


「なるほど。頭が地面についたところで2発目を撃ち込めばジ・エンドか」


「そういうこと」


「これならいけそうだな」


 英花も嬉しそうに笑う。

 が、そうは問屋が卸さなかった。


「無理ですニャ」


 ミケからにべも無く水を差されてしまった。


「どう無理なんだ?」


 英花の笑顔も消えている。


「言ったはずですニャ。地下にはダンジョンコアがいるようだと」


「地下を掘り進めば間違いなく感づかれるか」


 表情を渋らせながらも納得する英花。


「後は守護者に通報されて妨害されてしまいますニャン」


「掘り進めるのと腐食が地下にまで到達するのとで、どっちが早いかなんて考えるまでもないよなぁ」


 良いアイデアだと思ったのだが大事なことを失念していたことで御破算である。


「いや、発想自体は悪くない」


 英花は評価してくれたが俺は見落としが情けなさ過ぎてそうは思えない。


「そうか? 察知されるよりも前に奴の真下に潜り込めるなら話は別だけどさ」


「真下でなくていいんじゃないか。真後ろでもいい」


「は? 意味がわからん」


「転移魔法だよ、転移魔法」


 大事なことなので2回言いました的な言い方をする英花。


「奴の懐に飛び込んでぶん殴るって?」


 腐臭ではながひん曲がるリスクを考えると絶対と言っていいくらいやりたくない作戦だ。


「違う違う」


 大きく頭を振って英花が否定する。


「涼成が転移魔法陣に向けてコーティング魔石を全力投球するんだ」


「おおっ」


 英花の言いたいことがようやく理解できた。

 投てきした魔石を至近距離に転移させようってことだ。

 ただ、問題がある。


「照準はどうするんだよ」


 腐食の王が微動だにしないとはいえ、相手が見えていない状態で攻撃したんじゃ当てられるはずもない。

 パッと見は投げる俺が狙うように思えるかもしれないが、そうではない。

 転移魔法を使う英花が位置取りや角度を調整する必要があるのだ。

 故に俺の千里眼スキルは役に立たない。


「ニャーとシンクロすればいいですニャ」


 ここでミケが手を挙げた。


「ニャーが霊体化して奴に近づきますニャ」


「実態がなくても浸食されてヤバかったと言ってたのは何処のどいつ様だろうね」


「最接近する必要はないですニャ」


 英花の皮肉交じりの言葉を堂々と否定してみせるミケ。


「ほどほどの距離から見えれば照準はつけられますニャ」


「具体的にはどの程度まで離れても大丈夫なんだ?」


 英花が問うたように気になるのは、そこである。

 俺たちがマーキングした転移ポイントでさえ結構な暗さだったからなぁ。

 濃密な瘴気によって視界が遮られているせいなので現地は真っ暗なんてこともあり得るのだ。


 霊体化するのはコストがかからないとしても防御のために魔力でガードした状態では魔力を消費するはずだ。

 状況によっては消耗が激しくなる恐れもある。

 その状態を維持しながら遠隔で英花と視覚を同調させるとなると精神的にも疲弊するだろう。

 たとえミケが比較的安全な場所からそれができると豪語してもノーリスクとは言い難い。


「ニャーの視力なら腐食空間の外でも大丈夫ですニャ」


 ノーリスクだった。


「本当か?」


「そんなに心配なら先に何もない場所でテストしておけばいいですニャ」


 もちろん、そうさせてもらいましたとも。

 ゾンビ狩りで経験値を稼ぎながらね。

 やはりレベルアップはしなかったけれど俺たちの連携は高められたので良しとしよう。

 あと失念していた問題点も浮き彫りになった。


「やっぱ転移魔法はコスト高いなぁ」


 レベル10になっても長時間は展開できないし連続して使うことも難しい。


「腐食空間内では魔法が減衰するから展開できる時間が短い。対抗して強度を高めようとすると範囲も狭くなるのが痛いな」


 英花が渋い顔でボヤいた。

 面で制圧するように魔石を大量に投げ込むという手が使えなくなったからね。

 できるとすれば……


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