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175 冊子版と電子版

それから東京へ遠征する日まで俺や英花はすることが無くなってしまった。


「なあ、ホテルの予約なんだけど」


「それならもう終わったよ」


「は?」


 俺たちに相談もなく決めてくるとは暴走だろう。

 それを注意すると、さすがに謝ってくれたけどね。


 宿泊先が決まっているということは行動計画も立てられているということだ。

 真利が仕上げてきた[東京遠征のしおり]によれば観光と攻略の計画が綿密に記されていた。

 まあ、綿密なのは主に観光の方なんだけどね。


「初っ端が高尾山か」


 修学旅行っぽくないと感じたが、どう思うかは人それぞれなので黙っておくことにした。


「あそこはダンジョンがなかっただろう?」


 英花は黙っていられなかったようだ。

 ダンジョン攻略が真っ先に思い浮かんだのは俺とは違う点である。


「あそこは修学旅行の予定に入っていた場所だ」


「ああ、そういうことか」


 しおりを見て思い出したけど確かあの近辺の小学校では定番の遠足コースだとか。

 忠実にコースを再現しているようだ。

 俺が修学旅行でもっとも覚えているのは世界的にも有名な大規模遊戯施設かな。


 まあ、あそこは住所的には東京ではなく千葉なんだけど。

 地図で見るとギリギリで外れている感じかな。

 却下しようものなら真利が暴走しかねないので今回の遠征でも行くことが決まっている。

 ダンジョン攻略の合間の休日に行くことになっているので特に反対する理由もない。

 このあたりは大阪遠征での経験が生きているようだ。


「それにしても真利は綿密な計画を立てたものだな」


「そうか? ここまで細かいと少し予定が狂っただけで逆に抜かりが出てくるぞ」


「いや、しおりの次のページを見てみろ」


 言われるがままページをめくり内容を確認する。

 予定通りに行かなかった場合の原因とどう対処したかを記入する欄のようだ。

 こんなところまで修学旅行しているとはね。

 呆れる以上に感心させられてしまう。


「しおりがこんなに厚いのは、そういうことか」


「それだけじゃないぞ。背表紙を見てみろ」


 英花にうながされ今度はしおりをひっくり返す。

 すると小学生の頃には見ることのなかったものが印刷されていた。


「QRコード?」


「そのようだな。何処につながっているのかは不明だが」


 十中八九、東京遠征に関わることなのは間違いあるまい。


「大方、しおりの電子版ってところだろうさ」


 試しに読み込んでみる。


「思った通りだ」


 紙のしおりと同じ表紙が画面に現れページを送ると中身も同じであることが判明した。


「そのようだな」


 スマホを覗き込んだ英花もそれと認識したようだ。

 しかしながら、どこか納得しかねるものがあるようで眉間にシワがよっている。


「どうしたんだ?」


「いや、電子版があるなら紙の冊子は不要だろう」


「そうか?」


 言いたいことはわからんでもないが、そこまで強く主張するほどのことでもない気がする。


「少なくとも、ここまでかさばるしおりは必要なかったんじゃないのか」


 英花はそれを無駄と感じるのか。


「記入欄は手書きよりスマホで入力した方が楽だし修正もしやすいからな」


 そこだけを見れば確かにそうかもしれないが、それは真利のこだわりを理解していない証拠だと言える。


「大事なことを忘れているぞ」


「何? 大事なことだと?」


「真利はこの東京遠征を修学旅行のリベンジだと言っただろう」


「それと何の関係があるのだ?」


「俺たちの小学校では修学旅行はこういう手間をかけていたんだよ。準備の時から修学旅行は始まっているってことでね」


 こういう部分は各学校によって方針が違ってくるので一般的なのかはわからないけれど。


「そういうことか」


 英花も多少は腑に落ちないところが、はがれ落ちたようだ。

 表情を見る限りでは納得しきれていないようではあるけれど。


「それに紙の冊子の方が可読性は上がるだろ?」


「ふむ」


 しばし考え込む英花。


「つまり冊子の方で確認をしつつ記入するときはスマホを使うという訳か」


「もしかすると真利の意図するところは違うかもしれないけどね」


「どういうことだ?」


 そこまで説明しておいて、それはないだろうという無言の抗議を受けてしまう。


「いや、真利のことだから冊子をほぼ完成させてから電子版の方が便利そうだと追加で作ったとかあり得そうだからな」


「それなら便利そうな電子版だけ残せばいい話ではないか」


「その場合はもったいないって言うと思うぞ」


「む、それは言いそうだな」


 そこで本人に確かめてみたところ基本的に前者ではあるが、もったいないという考えも含まれているとのことだった。

 ならば無くてもいいじゃないかと英花が言うと返事はもったいないであり、話が平行線をたどったのは言うまでもない。


 結局、英花は電子版だけを使うということで決着した。

 俺は紙の方も持っていくけど、予備があれば紛失しても大丈夫かなという感覚である。

 真利が妙にこだわったから付き合ったというのもあるかな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 東京へ遠征する当日となった。


「今回はSUVで行くんだな」


「こういう時でないと魔改造したレプリカを使う機会がないからね」


「なんだかキャンピングカーの時とはワクワク感が違うね」


 真利が妙なことを言い出したぞ。

 英花と2人でまじまじと見てしまうのも無理からぬことだろう。


「えっ、えっ、何か変なこと言った?」


 しかも本人は無自覚と。


「ワクワク感が違うって何だよ」


「んーと、キャンピングカーだとこれからキャンプに行くぞーって感じで、SUVはハイキングに行こうよって感じかな」


 英花と顔を見合わせる。

 アイコンタクトで「わかる?」と問いかけると「いや、わからん」と返された。

 向こうからも同じように問われたが俺の返答も同じである。


「ニュアンスが違うのは理解したが、どう違うかは俺にはわからん」


「すまないが私も右に同じだ」


「うーん、そうかなぁ。結構、的を射た例えだと思ったんだけどー」


 真利は首をひねっている。


「真利、あくまでも遠征だからな。遠足とは違うんだぞ」


「うん。そうなんだけど遠足じゃなくてハイキングだよ」


「……違いがわからん。そもそも修学旅行のリベンジなんだろう?」


 謎のこだわりを見せる真利に英花はお手上げ状態だ。


「そうだけどハイキング的なノリになる修学旅行もあるよね」


 どういうことかと俺の方へ助けを求める視線を向けてくる英花。

 こういう時はサラッと流すのが一番だ。


「それじゃあ、出発しようか」


「そっ、そうだな」


 珍しく動揺している英花も賛同する。

 強引にでも切り上げないと謎の真利ワールドに引き込まれることを本能的に察知したのだろう。


「ミケがいないけど?」


 言われてみれば、さっきまで間近にいたミケの姿がない。


「もう乗ってますニャ」


 そう言いながら車の窓から顔を出すミケ。

 雲行きが怪しくなったのを早々に察知して逃げたな。

 勘のいい奴だ。


 とにかく、いつものダンジョン攻略メンバーがそろったら後は出発するのみである。


「リア、紬、留守は任せる」


 車に乗り込んで見送りに出てきた2人に声をかける。


「はい、お気をつけて」


「ん」


「ちょっと待ってくれ」


 リアと紬が返事をしたところで待ったがかかった。

 誰かと思ったらジェイドだ。

 全力で走ってきたのか息が上がっている。

 何事だ?


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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