表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/380

173 世の中の流れは止められない

 程なくして魔力モーター搭載の車と魔力チャージャーの開発は一定の目途がついた。

 実用レベルに達したということだな。

 各メーカーではさっそく量産を開始するという。

 魔力チャージャーのスタンドは政府主導で設置が進められる予定である。

 販売店の方でも設置されるそうだ。


 熱の入りようは並々ならぬものがあると計画を知った時に思ったのだけど、さらに上回っている気がする。

 新しい技術が公開されたことが刺激になっているのだろうか。

 開発に携わった側からすると「そんなに?」と言いたくなるくらいなんだけどね。

 戸惑いは感じるけど評価されているのだと思えば嬉しくもある。


 問題があるとすれば普及スピードだろうか。

 車はそうそう買い換えるものでもないからね。

 タイミングが合ったとしても保守的な考えの人には選択肢に入れてもらえないし。

 そんな訳で仕事で使用する場合に魔力モーター搭載車を採用した場合は優遇措置が実施されることとなった。


 後は従来の車を改造するキットの販売も各メーカーが改造作業込みで開始している。

 こちらは新車の販売より売れているようだ。

 格安に値段設定されているのが大きいのかもしれない。

 後はガソリンの価格が上がってきているのも要因か。

 テレビのニュースでは、まだ値上がりすると言っていたしなぁ。


「そんな訳で発電施設ならぬ発魔施設を作ろうということになった」


 遠藤大尉はもはや政府のメッセンジャーだな。


「必要ありませんよ」


「なに言ってる!? 原油価格はこれからも高騰していくんだぞ」


「そうらしいですね」


「だったらわかるだろう。魔力を供給できる体制を強固なものにして家電を電気ではなく魔力で動くものに切り替えていく必要があることを」


 最初からそういう流れに持っていくつもりだったのだろう。

 このシナリオを書いた人物は先の先まで見据えていたようだ。

 ただし、手堅さはなくハイリスクハイリターンの危うい賭けをしているようにも思える。


「魔道具への切り替えが性急すぎますね。経済的負担は自動車ほどではないかもしれませんが、そう簡単にできるものでもないでしょう」


「それはわかっちゃいるが、だからこそだな」


「焦りすぎなんですよ。そもそも発魔施設と言いますが問題は山積しているでしょう」


「それはそうなんだが、計画のスタートが早ければ──」


「そんな計画、無意味ですよ」


 聞くに値しない意見だったので上から被せて切り捨てた。


「なっ!? それは言い過ぎだろう」


「そちらが不要な案を語ろうとするからでしょう。解決策ならすでに準備済みだというのに」


「「「「なんだって──────────っ!?」」」」


 遠藤大尉だけでなく彼のチームメンバー全員が驚きハモっていた。


「いつの間に……」


 呆然とした面持ちで大川曹長が呟いている。


「そういうことは先に言っといてほしいもんだな」


 氷室准尉は頭をボリボリかきながらボヤく。


「ホンマ張井さんは底が見えんお人やで。何処まで見据えてるんやろうな」


 言いながら苦笑する堂島氏。

 別に何でもかんでも先々のことを考えているわけじゃない。

 魔力スタンドは車にチャージしないときは何もしていない無駄施設になってしまうから魔力チャージャーの開発中に有効活用する手立てを考えていただけだ。


「それでその解決策とは?」


 苦虫を噛み潰したような顔で遠藤大尉が聞いてくる。


「魔力スタンドですよ。あれの魔力チャージャーを常時稼働させれば発魔施設なんて大仰なものは必要ありませんね」


 遠藤大尉以下3名が固まってしまった。

 盲点を突かれたといったところか。

 彼らのうち誰かは魔力スタンドの無駄に気付いていると思ったんだけどな。


「ですが、それは魔道具の普及が進んでいない現状だから言えることではありませんか」


 そう言ってきたのは大川曹長だ。

 いずれ魔力不足になるであろうことを懸念しているのだろう。


「魔道具の普及が進んでも、それに合わせて魔力スタンドを増やせばいいだけです」


 天変地異のおかげと言ってはなんだけど土地は余っているところが多い。

 それを考慮しての発魔施設の提案だったんだろうけど、魔力を送る際に無駄が出てしまうことが考慮されていない。

 送る距離が長くなればロスも出てくるし、送るための配線を敷設するのも資源が必要だから距離に応じてコストがかかってしまうのは言うまでもない。

 その点、魔力スタンドなら街中にあるのでロスもコストも抑えられるというわけだ。


 そのあたりを説明すると──


「確かにそうですなぁ」


 堂島氏がしきりにうなずいて感心していた。


「同時に魔力モーターの車も普及していくこと考えたら理にかなってるんとちゃいますか」


「そうかもしれませんが、もし魔道具の普及が想定より急に進んだ場合は魔力不足になりませんか」


「あー、魔力スタンド不足になるっちゅうことですか」


「それについては魔力チャージャーも改良を進めていますから対応は可能ですよ。現状ですでに2割増しの新型チャージャーができています」


「抜かりないですやん」


「そうですね」


 誰も反論してこないようだ。


「これは持ち帰った方がいいだろうな」


「通りますかね。頭の固い連中が頑なに自分たちの計画を押し通そうとするかもしれませんぜ」


 氷室准尉は持ち帰った後のことを懸念しているな。

 ありがちな話なので、まさかとは言うまい。

 どうなるかにまで干渉するつもりはないので頑張ってもらおう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 氷室准尉の懸念は杞憂に終わった。

 むしろ遠藤大尉を通じて感謝の言葉をもらったくらいだ。


「予算の捻出がネックになっていたそうだからな」


 皮肉な笑みを浮かべる遠藤大尉。


「という訳で総理からは大変助かった。今後ともよろしくという伝言を預かってきている」


「隠れ里の民が不当な扱いを受けない限りはよろしくと返事をしてもらえれば」


 遠藤大尉が苦笑する。


「危ういバランスの上に成り立ったWin-Winの関係というのは端から見ているとハラハラするんだがな」


「知りませんよ。そちらがバカな真似をしなければ、こじれることはありませんから」


「そうあってほしいものだ。せいぜい周りの連中を脅しておこうかね」


 どうやら、うちにとって好ましからぬ連中は多いようだ。

 警戒しておくに越したことはないな。


「あと、前に言いそびれたんですがね」


「何だよ?」


「魔力から電気に変換する魔道具も開発を進めてるので魔道具の普及は急がなくてもいいですよ」


「おいおい、そんなものができたら魔道具が普及しなくなるだろ」


 冷や水を浴びせられたかのように慌て始める遠藤大尉。


「変換効率は現状で20%です。30%を達成したら提出しますから使うかどうかはご自由に」


 俺がそう言うと大尉は落ち着きを取り戻した。


「100%は無理なんだな」


「そんなのができるなら苦労しませんよ。色々と無理しても60%がいいところですね」


「そういうものなのか」


「開発チームの話によれば魔力スタンドの規模で収めるなら50%までいくのが限界らしいですよ」


「効率は良くないな」


「そうですね。電気代にすれば今とさほど変わらないんじゃないですか」


「間に合わせには丁度いいかもしれないな」


 電気代はまだ値上がりする恐れがあることを考えればそういうことになるかな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ