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17 一筋縄ではいかない

「正直言って、危なかったですニャ」


「敵に見つかったのか?」


 英花が問うがミケは首を横に振る。


「そんなヘマしませんニャ。危なかったのはボスの能力のせいですニャ」


「ボス? 守護者がいたのか」


 英花が気になるのはミケのことよりもそちらのようだ。


「いましたニャ。でも今のままじゃ手を出すのはオススメしないニャン」


「どういうことだ?」


「ボスの能力というのが関係しているんだろう」


「その通りですニャン」


「どんな能力なんだ」


 もどかしげに英花が問うた。


「奴を中心に直径数十メートルは常に危険領域ですニャ」


「範囲系の能力があるのか」


 それは厄介だ。

 俺と英花が連携して倒そうとしても、お構いなしで対応可能ってことだろうからな。


「そんな生易しいもんじゃないですニャン」


「意味がわからんぞ」


 英花が抗議する。

 俺もサッパリわからないので口にこそ出さなかったが同感だ。


「アレは腐食の王ですニャ」


「「腐食の王?」」


 俺も異世界では遭遇したことがないし英花も同様であるようだ。

 魔物についてはそれなりに勉強しているつもりだったが、まだまだ知らない魔物はいるな。


「見た目はゾンビですニャ」


 それだけで警戒して張り詰めていた空気がゆるんでしまった。


「甘いですニャ。仮にも王と呼ばれるようになったアンデッドですニャよ」


「そんなにスゴいのか」


「特殊能力だけですがニャン」


「範囲攻撃なんだろう? そんな凄まじい攻撃なんてあったっけ?」


 英花が首をかしげながら聞いているように俺も心当たりがない。

 それだけ強力な攻撃ができるなら魔物の存在自体を知っていてもおかしくないと思ったのだが。


「攻撃じゃないですニャ。常に発動していますニャ」


「おいおい。防御能力だって言うのか?」


 あり得ないとばかりに英花がツッコミを入れたが、その気持ちもわからなくはない。

 半径数十メートルで常時発動する防御の能力なんてゾンビの親玉のような奴が持っているとは思い難いからね。


「攻防一体なんですニャ。動かずして相手を全滅させても不思議はないですニャン」


「「なんだって!?」」


 思っていた以上の能力があるみたいだ。

 ちょっと想像がつかないけどな。


「腐食の王は自分を中心に半径数十メートルを何でも腐食してしまう空間にする特殊能力があるニャ」


「何でも? けどそいつが守護者ならダンジョンコアが側にあるはずだ。無事では済まないんじゃないか」


 しかしながらダンジョンコアが腐食で破壊されるなら、俺たちはダンジョンに何日も閉じ込められたりはしないだろう。


「腐食の王とコアは自身と守護対象だから腐食しないですニャ」


 腐食するものは任意で変えられるってことか。

 その上でほぼ無差別ということはダンジョンコアを守ることに専念させているみたいだな。

 おそらくはこちらがヒット&アウェイで襲撃を仕掛けても追って来ないだろう。


「あと、コアは地中にあるようですニャ」


「よくそんなのを確認できたわね。近づかないとコアの位置を特定するなんて無理だろうに」


 英花が感心しているが同感だ。

 どんなトリックを使ったんだか。


「ニャーは霊体化できますニャ」


「そういうことか」


 実体のないものなら腐りようがないもんな。


「おかげで油断しましたニャ」


「実体がなくてもダメだったのか」


「魔力でガードしてなかったらヤバかったですニャ。近づくほどに浸食スピードが上がって焦ったですニャ」


「それほどか」


 瞠目しながら英花がうなっている。


「厄介だな。ミケが手を出すべきじゃないと言うのも納得だ」


 まず無傷では接近できない。

 できても、どれだけ持たせられるかという話になってくるので自殺行為と変わらない。


 そうなると遠隔攻撃一択となってしまうが、これも手詰まりと言わざるを得ない。

 飛び道具での攻撃は接近するのと同様に腐食の王とやらには届かないものと思われる。

 魔石アタックなどは奴の腐食空間に入った瞬間に爆散するだろうから論外だ。

 飛び散った破片もすぐに消失するかもな。


 残るは魔法だけど望み薄である。

 ミケが魔力で守りながら接近を試みて失敗しているからね。

 ただ、有益な情報も持ち帰っているし敵には発見されていないから単に失敗と言うのは酷な気がする。


「そうは言うが涼成、ダンジョンコアを掌握しないとジリ貧だぞ」


 まったくもって英花の言う通りである。

 レベルを上げるのも時間がかかるようになってきたし現状維持を続けていれば、いずれ食糧が尽きて破綻する。

 ただ、焦りは禁物。


「攻略法を考える時間くらいはあるだろう」


 無策で突撃しても全滅するのがオチだ。


「そのためには敵の具体的な情報が必要だぞ」


「それな。わかっているのは特殊能力だけだし」


 最低でも回避能力や耐久力なんかは知っておきたい。

 腐食の王に届く遠隔攻撃ができても回避されては意味がないし、減衰した攻撃では微々たるダメージにしかならないかもしれない。


「見た目はゾンビだということだし特殊能力だけが突出しているのなら助かるんだがな」


 それは俺も同感なんだけど希望と現実が一致するとは限らない。

 むしろ最悪を想定しておくべきなのは言うまでもないことだ。


「魔法でひと当てしてみるか?」


「いや、それはミケの報告から推測できるだろう」


「お任せくださいニャン。魔法の減衰予測ならば正確にできることを保証いたしますニャ」


 胸を張ってミケが言ったのでシミュレートはできそうだ。


「そこから物理でも何処まで届くか計算できるか」


「ゾンビの魔石も放り込んできたので、そちらもバッチリですニャン」


 ドヤ顔でパチンとウィンクするミケである。

 守護者の場所に行き着くまでにゾンビを仕留めていたらしい。

 普通の猫よりデカいとはいえミケにゾンビと格闘戦ができるとは思えないので魔法を使ったのだろう。


「それでよく気付かれなかったな」


 ゾンビにだって攻撃されれば反応するくらいの目はある。

 不思議と目は腐ってないのでね。


「正面からなんてやってないですニャ」


「なるほど」


 そんな訳で腐食の王を攻略するためのシミュレーションを行うことになった。

 もちろん、それにだけ専念してしまうのはリスキーなので探索と並行しての話だ。

 案の定と言うべきか数日程度では腐食の王攻略法も外界との境界も見つからなかった。


「ゾンビの魔石はホント脆いなぁ」


 魔石に魔力を過充填させなければ即座に爆発なんてしないので魔石アタックは諦めたが。

 腐食の王のテリトリーは一筋縄ではいかないようだ。


「5個を合成しても半分しか進まないのか」


 ミケのいる場所まで合成魔石を投てきする格好でシミュレーションしているのだけど、ピンポイントで当てられた風に押し戻され地面に落ちていた。


「だが、今までで最も近くに届いたぞ」


「そうは言うけどさ。これ以上は密度を高められないぞ」


「だったら同じ密度で大きくするのはどうだろう」


「無茶言うなよ。そんな簡単じゃないんだぞ。今のだってようやく完成したんだからな」


「そうかぁ。悪くないアイデアだと思ったんだが」


「どのみち届かないよ。テリトリー内は中心に近づくにつれ腐食の強度が強くなっていくというのを忘れたのか?」


 強度が同じなら大きくすることで中央まで届く可能性もあったかもしれないが。


「少しでも近づければと思ったんだがなぁ」


「投げられる大きさじゃ少し奥までしか届かないと思うぞ」


「それもあったな」


「何処まで大きくするつもりだったんだよ。それ以前に合成途中で失敗するって」


 言うほど簡単ではないのだ。


「そっか。せめて形が自在にできればな」


「どういうことだ?」


 英花には何かアイデアがあるようだ。


「コーティングするように覆い被せていければと思ったんだが密度を上げれば合成も難しいんだよな」


「密度を上げるのはな。密度が決まってしまえば形を変えるのはそんなに難しくはない」


 面白い提案だったので試しに何重にも皮膜を形成する格好で合成魔石を大きくした。

 ソフトボール大にまでサイズアップして今までより1メートル先に届かせるのがやっとという結果に終わったけれど。


「これ以上は大きくすると空気抵抗で遅くなるだけだな」


 それは腐食される時間を長くすることに他ならず結果は言わずもがなであろう。

 他の方法も考えてみたが……


「魔法で真空にするとか」


「魔法で維持するなら同じだろ?」


「あ」


 アプローチを変えないといけないのかもしれないな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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