167 予想外の依頼
NCNCチャレンジ動画の反響は魔道具の問い合わせでも確実にあった。
魔道具販売の問い合わせフォームから送られてくるメッセージには今までになかったものが増えていた。
[動画のミニ全駆と同じモーターを売ってください]
[加工した魔石の販売をお願いします]
[動画で走っていたミニ全駆と同じものは売らないのですか]
従来とは異なる問い合わせの大半がこんな感じだった。
しばらくは様子見ということになったけどね。
販売中の魔道具の方も注文が増えていたから要望に応えるのが難しいからだ。
ただ、これも世の中に魔道具職人が増えていけば解決できるだろう。
ところが、それから程なくしてじかに話を持ち込まれる事態となったのである。
予想外もいいところだけど相手はあの遠藤大尉だった。
最初は堂島氏が復帰したので礼を言いに来たという体ではあったんだけど。
「大きな怪我がなくて良かったですね」
「ホンマおおきに。助けてもらわんかったら衰弱死してたて聞いて血の気が引きましたわ」
「生きているんだからあまり気にしないのがいいですよ」
「ホンマですわ。生きてるだけで目っけもん言いますしなぁ」
アハハと笑う堂島氏に引きずっているような素振りは見られないのでトラウマになったりはしていないようだ。
まあ、ずっと眠らされていたんだから自分がどれだけ危険な目にあっていたかは実感しようがないというのが真相だとは思うのだが。
「いや、ホンマびっくりですわ。車運転してたはずやのに目ぇ覚めたら病院のベッドの上とか何事かと思いますやん」
普段は饒舌な方ではない堂島氏だったが、よほど衝撃的に感じたのか聞いてもいないことを語る。
「思わず言うてしまいましたわ。知らない天井だってね」
例の台詞だからか標準語で言ったらしい。
わかってるな。
まあ、Dunチューバーとしてオリジナルの特撮ヒーローに扮していたくらいだから、そういうのにこだわりがあるのだろう。
俺たちとしては苦笑して流すしかない。
「冗談はこれくらいにして、おわびもせなあきませんのや」
「「「おわび?」」」
俺たちは3人で顔を見合わせたが思い当たる節がない。
「いや、張井さんとこの車が行方不明やて聞いてますがな」
「あー、あのレッドキャップとかいう奴の隠れ里みたいな場所に置き去りにしてきましたね」
「それ回収できませんやろ」
「たぶん」
おわびとはそういうことか。
「そうは言っても軽自動車で不便も感じていましたからね。もう廃車手続きしましたよ」
この言葉に堂島氏はオーバーアクションで「うわぁ」と言いたげな顔をした。
「気にすることはないですよ。新しい車がうちには丁度良かったので」
ますます嘆くような感じになっていく堂島氏。
「アカンて。もったいないがな」
そんなこと言われてもなぁ。
その後も若干の押し問答のようなことになったため大川曹長が間に入ってなあなあになった。
堂島氏はとても納得しているとは言えない顔を見せていたが。
「張井たちはすでに車を購入しているんだ。弁償のしようもないだろう」
遠藤大尉が苦笑しながら言った。
この流れからすると堂島氏をなだめようとしてくれているようにも見えるのだが。
どうにも違和感があった。
どことなく芝居くささを感じたというか。
そのせいか自然と真利や英花と視線を交わしていた。
アイコンタクトで胡散臭くないかと問えば、真利は小さくうなずき、英花は視線を鋭くさせて警戒しろと返してきた。
もちろんだとも。
「そこでだ」
ほら、おいでなすったと心の中で警報音が鳴り響く。
「そちらの用意した車と交換とか言わないでくださいよ、大尉」
向こうの方が高級車だったり性能が良かったりするのかもしれないが、何をしかけられているかわかったものじゃない。
順当に考えればGPS発信器や盗聴器あたりだろう。
盗聴器はないかな。
GPS発信器なら手違いで装着されていたと誤魔化すこともできるが、盗聴器だと無理があるし俺たちへの敵対的意思と見なされかねないからね。
「なんで、わかった!?」
「何ででしょうね」
向こうが気付かないなら、それに越したことはない。
おそらく呆れ気味の視線を遠藤大尉に送っている大川曹長が後で指摘するとは思うけど。
わざわざ俺たちが感じた違和感を教える義理はないだろう。
「じゃあ、しょうがねえか。無理強いもできないしな」
ずいぶんとあっさり引いたものだ。
きっと、アレだな。
上官からの指示だったのだろう。
それとなくバレるように芝居くさくして俺たちに断らせて、どこにも角が立たないようにしたつもりか?
タヌキだな。
「それはそうと面白い動画を上げていたな。ミニ全駆だっけ?」
切り替えが早い。
どうやら嫌われている上司のようだ。
「上げたのは俺たちじゃありませんよ」
「張井、御屋形様と呼ばれている君が代表者みたいなものだろう」
「くっ」
「あの魔力モーターは玩具ではなく実用サイズにすることは可能なのか?」
「車でということですか」
「他に何がある?」
「電動工具とかモーターを使う家電ですかね」
前者は電動ドリルやインパクトドライバーなどが代表格か。
後者は扇風機やエアコン、掃除機に洗濯機などだろう。
「あとは電動アシスト自転車なんかもありだとは思いますが、法律の上では自転車も車でしたか」
一瞬、呆気にとられた表情を見せた遠藤大尉だったが、すぐに破顔した。
「君らは最初からそこまで見越していたんだな」
そういう訳ではない。
魔力モーターは職人エルフたちがNCNCチャレンジのためだけに独自で開発したものだからね。
いま挙げた例は魔力モーターを見てから実用化できないか検討した結果なのでタイミングが違うのだ。
わざわざ訂正するようなことでもないので何も言わなかったけどね。
「それで自動車にその技術を使うことは可能だろうか」
「可能ですけど実用性があるかと言われると首をかしげてしまいますね」
「そうなのか?」
「出力を上げると航続距離が短くなりますよ」
「そこは魔石を多く積めばいけるんじゃないか」
「積載スペースが減りますが?」
バッテリーほど重くはないので重量増によるデメリットはないと考えていいとは思うが問題は他にもある。
「それに魔力のチャージはどうするつもりです?」
「あ」
言われて初めて気がついたようだ。
魔石に魔力をチャージする方法は現状では人力である。
魔力を発生させたり増幅させたりする魔道具が存在しないことになっているのでね。
自動車を動かすほどの魔力を供給するのは人類では難しい。
魔力スタンドなんかを用意しても何人雇わなくちゃいけないなんて話になってしまう訳だ。
しかも車1台でそれだから採算が取れるはずもない。
「何とかならないか」
「職人たちが研究中ですから、いずれ結果を出すと思いますけどね」
「本当かっ?」
前のめりになって聞いてくる遠藤大尉。
「そんなすぐに結果は出ないですよ」
「構わない。何か進展があったらすぐに連絡してくれないか」
「何をそんなに慌てているんです?」
「魔石の買い取りに反対しているバカがいるんだ」
「あー、なるほど。有用性を実証することで黙らせたいと」
「そういうことだ」
面倒な話を持ち込んでくれるなぁ。
とはいえ放置することはおろか先延ばしもできやしないのが厄介なところだ。
読んでくれてありがとう。
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