166 NCNCチャレンジの結果は
ロングコースで周回を重ねていく風雅狼。
最初の1周だけでなく何周しても危なげない走りを見せている。
気になる点があるとすればスピードがやや物足りないことだろうか。
何周かしたところで魔石の魔力を使い切り風雅狼が停車した。
電池で走るミニ全駆と違って徐々に遅くなることもなく魔力切れを起こすとガクッとスピードが落ち、後は惰性で走って止まる感じだ。
職人エルフたちが風雅狼を回収し魔石の交換作業に入る。
そう思ったのだが、何を思ったのか風雅狼を運んできたボックスに収納してしまう。
「おいおい、試走して終わりか?」
思わずツッコミを入れてしまった。
「思ったよりスピードに乗らなかったから中止するんじゃないか」
英花がそんな風に言ったが、確かにそれはあるか。
「えー、でもでもとりあえずタイム計測して基準にするのはありなんじゃない?」
真利の言うことにもうなずける。
「御心配なく」
職人エルフのリーダーが、にこやかに言うところを見ると予定の行動ということか。
どうなってる?
「風雅狼ZEROはあくまで安定性重視の試作0号機です」
だから名前の後ろにZEROがついていたのか。
「試作0号……、データ取りのためのプロトタイプってこと?」
「はい、その通りです。0号で問題が発生するなら中止も考えられましたが試走は続けますよ」
「ということは初号機も存在するんだな」
「ええ、もちろん。と言っても、ZEROをピーキーな状態にしただけなので実験機の域は出ませんが」
リーダーは苦笑する。
「そこは試作機なんだからいいんじゃない」
真利がそう言ったところで初号機の準備が完了した。
「では、次の試走行きます」
初号機のスイッチを入れた職人エルフが緊張の面持ちを見せる。
「そんなにピーキーに仕上げたのか?」
「はい。限界まで軽量化しましたから結果の予測は不能です」
読めないが故に不安が出てきたということか。
とはいえ走り始めてしまったからには後は運を天に任せるほかあるまい。
それほど大袈裟なものでもないとは思うが、当人たちにしてみれば開発の苦労が水の泡となりかねない訳だから何とも言えないところだ。
それで初号機の走りはというと……
「ちょっと冷や冷やするね」
「それだけギリギリの調整をしたんだろう」
先程とは打って変わって真利と英花がそんな話をするくらい何度もコースアウトしそうになる風雅狼。
DFCやローリングホイールが無ければ、とっくに終わっていただろう。
「速いは速いが大丈夫か?」
「どうでしょうね」
苦笑するリーダー。
「でも、これで失敗するなら2号機で調整できますから」
予備機があるのか。
「別に1号機で調整すればすむ話だと思うけど」
「1号機はコースアウトすると壊れてしまうと思います」
「あー、そういうこと」
軽さは速さに直結するから脆弱性を抱えてでも軽量化した訳だ。
「あっ」
そういう話をした矢先に初号機が蛇行する起伏の頂点で挙動を乱して跳ねるようにコースアウトしてしまう。
室内で走行しているため、このままだと壁への激突はまぬがれない。
黙って見ていればだけどね。
英花が風属性の魔法で激突を回避させる。
そこに職人エルフが慌ててキャッチに向かい事なきを得た。
「危なかったねー」
「ああ、壊れるという話を聞いてなかったら魔法は使わなかった」
「助かりました。ありがとうございます」
リーダーが礼を言い頭を下げると他の職人エルフたちもいっせいに頭を下げた。
「よしてくれ。たまたま反応できて上手くいっただけだ」
「それでもです。覚悟はしていましたが作ったものが寿命を迎えず壊れるのは忍びないですから」
隠れ里の民たちは物を大事にするよな。
こういう姿勢は俺たちも見習わないといけない。
風の揺りかご事件の時は考えなしの行動で軽自動車を失ってしまったし次はそうならないようにしないとな。
そして試走は2号機に引き継がれることとなった。
走り始めた2号機はZEROと初号機の間くらいの性能のようだ。
とりあえずロングコースも周回できている。
そこから初号機寄りに調整していく訳だが、基本は軽量化だという。
本来であれば別のボディを用意したり削ったりするところだが。
職人エルフが魔力を込めた指先でフェンダー部分をなぞると、その部分が薄くはがれた。
どうやらボディは極薄のシートを重ね張りして構成されているみたいだな。
それを1枚ずつ剥がしていくことで軽量化する設計のようだ。
で、初号機はもっとも薄い状態だったと。
少しずつはがしてはギリギリのラインを探っていく。
はがしすぎると初号機の二の舞になってしまうので職人エルフたちも慎重だ。
調整するたびに試走を繰り返し最適なセッティングを探っていく。
最終的にはボディが破損しない程度に安全マージンを取った状態のものになったが、そこは彼らの精神性を考えると仕方のないところか。
なんにせよNCNCチャレンジに挑戦する時が来た。
まあ、すぐに終了するんだけど。
危うい挙動を見せることなくコースを走らせ終わって出たタイムは2秒後半台といったところで速いことは速いのだが最速には及ばない。
2秒を切る記録も目前と言われているからね。
「録画もしたけどアップロードしない方がいいかもしれないぞ」
「そうかなー?」
俺は懸念したけど真利は特に問題ないと思っているようだ。
「初挑戦でここまでの記録が出せたんだから上出来だと思うけど」
「そう思ってくれる視聴者もいるだろうけど魔道具を使ってこの程度かとアンチコメントをしてくる視聴者も出てきそうだからなぁ」
「注目されるのはいいことだよ」
俺は炎上を心配したのだけど真利はアグレッシブな考え方をしている。
いつもとは逆だな。
人見知りでもネット上なら人の視線を気にしなくてすむからかもね。
なんにせよ積極的になるのは悪いことじゃない。
問題が起きれば、その時に対処すればいいだけのことだ。
別に悪いことをしてネット上にさらすとかじゃないんだし堂々としていればいい。
「それじゃあ、とりあえず上げてみるか」
「あれ?」
真利が首をかしげて意外そうな視線を向けてくる。
「俺は懸念していただけで反対とは言ってないぞ」
という訳でNCNCチャレンジの動画をアップロードすることとなった。
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動画を世に送り出すと数日と待たずにかなりの反響を呼んだ。
何故かニュースでも取り上げられたほどである。
『──このように新しいエネルギー資源として魔石がさらなる注目を浴びています』
テレビから聞こえてくる音声には耳を疑いましたよ?
風雅狼の走りが注目された訳ではないけど、動画の中で魔石の加工と魔力モーターの解説も行った結果のため似たようなものだ。
「電池ではなく魔石で動くってだけで、こんなに騒がれるとはなぁ」
まさかここまでとは予想だにしていなかったさ。
最近は魔道具が浸透してきていると感じるようになってきていたし。
おかげでアンチコメントは湧きはしたものの他のコメントが圧倒的に多くて見事なまでにかすんでしまった。
「すぐに検証動画もアップされたのも影響しているだろう」
「順調に魔道具職人が育っているんだねー」
結果は予想外だったけど良い結果になったと言えるんじゃないかな。
読んでくれてありがとう。
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