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165 NCNCチャレンジに挑戦

 自作コースを完走したことで自然とNCNCチャレンジに挑戦という雰囲気になってしまった。


「色々と研究してみます!」


 張り切って撤収していったよ。

 その後、しばらくして同じチームから新型ミニ全駆マシンの試走実験に招待された。


「これが新型の風雅狼ZEROです」


 そう言って見せてくれたミニ全駆は奇妙な形をしていた。

 NCNCチャレンジでは軽量化のためにシャーシがむき出しのものが多いのだけど、これは奇妙な形をしたボディがある。

 車体の中央やや前寄りにタイヤ径と変わらぬ直径の筒状のパーツが横たわっており、これが空気抵抗にならないようにしているようだ。

 ただ、空気を取り入れる吸気口や排出口があるあたり何がしたいのか想像がつかない。

 何かしらの意味はあると思うんだけど、それが何なのかは不明である。


「究極のマシンじゃなくなったんだねー」


 真利が気になったのはそっちのようだ。


「お恥ずかしい。最速の記録をマークするまでは究極などとは言えませんよ」


 照れ笑いで誤魔化しているところを見ると無事に黒歴史化したらしい。


「それよりも、この筒が気になるな。シャーシの上につけられているということは駆動輪ではないのだろう?」


 英花は俺と同じことを思っていたらしく質問している。


「ええ。それは架空のレースアニメを見て参考にしてみました」


「アニメが参考になるのか? リアリティはあってもリアルではないだろう」


「意外とそうでもないんです。面白い機構を取り入れていたので調べてみたら負のマグヌス効果というものに行き当たりまして」


「負のマグヌス効果?」


 件のアニメを知らない英花は知らないようだ。


「回転体に風を当てると揚力が発生するってやつか」


 正転していると上方向に逆転していると下方向に働く。

 負のマグヌス効果と言っていることから下方向、すなわちダウンフォースを発生させる機構なんだろう。

 吸気口はより速い風を当てるために形状を工夫した結果らしい。

 排気口は乱れた気流を整えるだけでなく推進の補助にするために装着されたみたいだ。


「そうです。よく御存じでしたね」


「そのアニメの設定資料集を読んだことがあるからね」


「他にはホイールがシャフト直付けになったのが大きな違いだな」


 気になっていたのか英花が指摘する。


「風雅狼ZEROにはDFCをつけたので邪魔になると判断しました」


「DFCとはあの特徴的な円筒形のパーツのことか?]


 英花が聞いているが元ネタになったアニメでもその名称だったので間違いないだろう。


「ダウンフォースシリンダーの略称ですよ」


 問題はそこまで強力なダウンフォースは発生するだろうかということだ。

 ちょっと疑問である。


 なんにせよ走らせてみないことにはわからない。

 奇抜なアイデアは実際に有益であるということを証明してみせないとね。


 今回のコースは前回より短めのロングコースとNCNCチャレンジ用の認定サーキットの両方が用意されている。

 まずはロングコースで走らせて問題点の洗い出しをするそうだ。

 想定通りの走りを見せるなら、いざNCNCチャレンジに挑戦という流れになる。


「では、行きます」


 ロングコースでの最初の試走だ。

 ミニ全駆のスイッチが入るとホイールとDFCが勢いよく回り出す。


「動画で見たときの音とは違うな。静かというのも変だが大人しい感じがするのは気のせいか」


 英花が音の違いに気付いて首をかしげている。


「気のせいではないな。ホイールをじかに回すからギアとかの音がしないんだよ」


 走り出した風雅狼から視線を外さず説明する。


「なるほど。そういうことか」


 風雅狼が最初の起伏にさしかかった。

 ここで疑問を感じていたDFCの真価が問われる。

 ミニ全駆のサイズで果たしてダウンフォースは発生しているのだろうか。


 起伏の頂点に来た。

 ほんの一瞬のことのはずなのに長く感じてしまう。

 ダウンフォースが発生していなければコースアウト間違いなしのスピードが出ている。

 固唾をのんで見守るというのはこういう時に言うのだと実感させられましたよ。


 頂点を越える。

 その瞬間、コースアウトはないと確信した。

 排気口の角度がフロントを押し下げるのと推進力とのバランスが取れており絶妙なのだ。

 この時になって初めて気付かされたが排気の勢いが考えていたよりずっと強い。

 どうやら強制的に排気しているようだ。

 内部構造までは確認していなかったから気付かなかったよ。


 風雅狼はほとんどジャンプすることなく起伏を駆け抜けていく。

 職人たちはガッツポーズをしていたが、すぐに風雅狼へと視線を戻した。

 コースアウトの要因は他にもあるからね。

 たとえコースから飛び出さなくても急なコーナーやシケインで減速することは充分に考えられるし。


 まずはシケインが来た。

 スルリと抜けるような走りを見せる風雅狼。


「いま妙な動きをしなかったか」


 怪訝な表情を見せる英花。

 今日までの間に色々とミニ全駆の動画を見てきているので逆に違和感を感じたようだ。


「だよねー」


 見るだけ専門だったとは言え元から知っている真利は言うまでもない。


「DFC以外にも何かギミックがあるんじゃないか」


「よくお気づきになりましたね、御屋形様。さすがです」


 職人の1人が嬉しそうに言った。


「そうでないと説明がつかないからってだけだ。確信を持ってる訳じゃないよ」


「なんか面白そうだね」


「どんなギミックなのか考えてみるのも面白いかもしれん」


 なんだか真利と英花はクイズ感覚で考え込み始めたな。

 これでは、どういうギミックかを職人から聞くのは気が引ける。


「そんな感じだから解説はちょっと待ってくれないか」


「いいですよ」


 にこやかに応じてくれた。


「よーし、当てるぞー」


「そこまで気合いを入れるようなものでもあるまい」


「んもう。ノリが悪いなぁ、英花ちゃんは」


「そうか? それはスマンな」


「で、何だと思う?」


「さてな。この間の浮いているホイールのような特殊構造のローラーを使っているとか」


「そこは市販のミニ全駆のパーツだったよ。私は圧縮空気を壁面に当ててるんじゃないかと思うんだけど」


「それなら音がするだろう」


 噴射口もないしな。


「あ、そっかー」


「車体が蛇腹状になっている訳でもないしな」


「それは面白い発想ですね。今度試してみます」


 真利と英花の会話を聞き入っているだけだったエルフの職人も我慢できないアイデアだったようだ。

 普通に作ったとしても速くは走れないだろうが、魔道具として調整するなら話は別である。

 コーナーでは無類の速さを見せる可能性は充分にあると思う。

 直進安定性は損なわれやすそうなので、そこをどう解決するかが鍵になりそうだ。


「涼ちゃんは考えないの?」


 真利が聞いてきたが俺がこのクイズに参加することはない。


「ああ。答えがわかっているからな」


「えーっ、そうなのぉ?」


 真利は驚いているがコーナリングの様子を観察していれば普通に気がつくんだけどな。


「考えることに夢中で観察を怠っているから答えにたどり着けないんだよ」


「え?」


「ふむ、一理あるな」


 そこから2人は目を皿にして風雅狼の走りを見始めた。


「む、車輪が傾くのか」


 先に気付いたのは英花だった。


「ホントだ。道理でタイヤがバイクみたいな形してると思ったよー」


「ローリングホイールと名付けました」


 待ってましたとばかりに職人エルフが解説を始めた。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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