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155 騙し合い

 ひたすら斧で攻め続けるレッドキャップと挑発を繰り返し回避するだけの俺という状況が続いていた。

 ある意味、千日手の状態だ。

 将棋なら指し直しになるところだが、これは生き死にのかかった戦いだ。

 途中で止めることはできない。

 少なくとも向こうにそのつもりはないだろう。


「いい加減に死にやがれえええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 斧を振るうごとに何かしら叫んでいたが、物騒になってきたな。


「死ねと言われて死ぬ奴はいないよ。そんなこともわからないのか?」


 レッドキャップには冷静さを取り戻されると厄介なので挑発を続けている。


「貴様っ、死にたいらしいなあっ!」


 いい加減、踊らされていることに気付けよと言いたくなる。

 もちろん俺には何の得にもならないので言わないが。


「さっきから同じようなことをずっと言っているが結果は御覧の通りピンピンしているぞ」


「ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 レッドキャップは血走った目をつり上げて咆哮した。

 もはや妖精というよりも飢えた獣である。

 少しやり過ぎたかもしれん。

 こうなると見境がなくなってしまう恐れがあるからね。


「おっと」


 レッドキャップが思った以上に深く速く踏み込んできた。

 その上で今までよりも大きく斧を振りかぶって振り回してくる。

 もはや回避も防御も頭にない。

 まるで棒きれを振り回すかのように無茶苦茶なスイングだ。


 これまでと違って読みづらくなったことで回避に本腰を入れざるを得なくなった。

 フェイントはないが、それでも厳しいものがある。

 こういう相手にはカウンターが面白いほど決まるんだが透過能力を持つ相手に迂闊な真似はできない。


 かといって回避するだけでは、いずれスタミナ切れで攻撃を食らいかねない状況だ。

 奴を疲れさせるつもりが逆の立場になってしまった。

 このままでは危険だ。

 何が手を打たねばならない。


 ミケに援護させる?

 ダメだ。ターゲットが変わってしまう恐れがある愚行は犯せない。

 この危険な相手に不意打ちをするなら一撃必殺が絶対条件だ。

 せめて致命傷を負わせねば次で詰む。


 上手く考えがまとまらない。

 せめてレッドキャップの手数が減れば……

 そう考えたところで突如として閃いた。

 これなら奴の手数を減らせそうだと。

 問題はその先が上手くつながっていくかなんだが迷っている暇はない。


 魔法を使う。

 対象の重量を変化させる重量変換だ。

 生き物が相手だったり動きがあるものに対してだと魔力消費が桁違いになるのであまり使いどころがない魔法である。

 だから一工夫ってね。


 斬撃を斧の腹や柄を掌で払いのけるようにかわす。

 触れた瞬間にだけ重量変換の魔法をかけていく。

 斧の腹を叩いたときは軽く、柄の時は重く。


 斧は遠心力で威力を出す武器だ。

 重心のバランスを崩されると満足に振るうことができなくなる。

 当然、どんな馬鹿力でも威力は大幅に減じスイングスピードも下がってしまう。


 そうは言っても、目論見通りにするのは簡単ではない。

 振り回される斧に触れず魔法を使うと魔力を消耗してしまうし、触れた瞬間だけだと魔力の消耗は避けられるが大した効果を出せないのが難点だ。

 故に少しずつ重量の変化を積み重ねるしかないのだが、回避するだけよりも難易度が跳ね上がってしまう訳で。

 魔力のかわりに体力が削られていく。


 ザラタンとの戦闘で大幅にレベルアップしていなかったらヤバかった。

 災難だと思ったことが後になって役に立ったり命拾いしたりするというのも皮肉な話だ。

 世の中、何が幸いするかわからないね。


 とはいうもののレッドキャップの一撃をもらえば致命傷になるので余裕がある訳じゃない。

 そろそろ決めにかかろう。


 レッドキャップが鬼の形相で振るう斧の勢いが明らかに鈍ってきた。

 袈裟切りからなぎ払いに転じるところが狙い目だ。

 様々なパターンの中でもっとも隙ができる。


 袈裟切りが来た!

 逆袈裟に切り返す角度ではない。

 これは横なぎに来ると見切った瞬間にレッドキャップの懐深く踏み込んでいく。

 狙いは殴ると見せかけて至近距離からの魔法攻撃。


「かかったな、青二才が!」


「なにっ!?」


 俺が間合いに踏み込まんとする刹那、レッドキャップが後ろに下がって間合いを外してきた。

 鈍っていたはずのスイングが風を切り裂かんばかりの鋭い音とともに勢いを取り戻している。

 それは胴をなぐ軌道を一瞬にして通過した。


 ボトリと上半身が地面に落ち下半身が倒れる。

 勝利を確信したレッドキャップが醜悪な笑みを満面にたたえ、そして勝ちどきを上げるかのように咆哮した。

 その様はとても妖精種とは思えない。


「ザマア見ろ! 調子に乗るからだ」


 上半身と下半身が泣き別れとなった体を見てレッドキャップは呵々大笑する。

 それが本当に俺の体なら奴の勝利なんだが生憎と俺は生きているし斧で斬られてもいない。


「ハァ───ッハッハッハッハッハッ!」


 レッドキャップは俺が生きていることに気付かぬまま笑うのを一向にやめようとしない。

 そんなに面白いのかね?

 何が面白いのかは俺にはサッパリわからないが、俺は俺で笑いたいところだ。

 レッドキャップが無防備に笑ってくれるおかげで狙い通り以上に時間が稼げたからね。

 もっとシビアになるかと思っていたんだけど背後で奴を仕留めるための準備を進めていても気付く様子がまるで見られないし。

 おまけに初手と同じ手を使われたことに気付かない観察力のなさも滑稽だ。


 異変を感じ取って対応したところまでは見事だったんだけどね。

 奴が斧を振る速度を一瞬で元に戻したのは俺がかけた重量変換の魔法を破ったからに他ならない。

 俺が何度も同じ魔法を使ったことにより途中で気付いたのだろう。

 あるいは俺が挑発を続けられていれば気付かなかったのかもしれないが。


 いずれにせよ奴が俺の仕掛けに気付いたように俺も奴が気付いたことに気付いていた。

 そしてレッドキャップが即応せず単調に攻撃をするだけだったので俺を罠にはめようとしているのだと読んだ訳だ。

 後は身代わりとなる木材に幻影を被せて俺は光学迷彩で背後に回ることで身代わりの術の完成である。

 初手の時は身代わりなしの幻影だけだったけどね。


 だからこそ手応えを感じて勝利を確信したのだろう。

 切った際、伝わってくる感触に違和感を感じなかったのが運の尽き。

 俺の手を読んで一芝居打ったつもりが騙されていたのはレッドキャップの方だった訳だ。


 仮面の赤い人も言っていた。

 戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだと、ね。

 奴はそれを怠ったために致命的なミスを犯してしまったのだ。

 奴の弱点を用意する時間を俺に与えるというミスを。


 レッドキャップの弱点、それは十字架である。

 突き付けられると透過能力を失うだけでなく魔法への耐性も失ってしまう。

 煮るのも焼くのも好きにできるという訳だ。


 という訳で、ザラタンの骨を錬成スキルで大きな十字架に変形させた。


「悦に入っているところ悪いんだが俺は生きているぞ」


「なあっ!?」


 飛び上がらんばかりに驚いたレッドキャップがギギギと音のしそうなぎこちない動きで振り返る。


「何故だっ!?」


 坊やだからさ。

 内心でその台詞を呟きながら俺は不敵に笑みを浮かべた。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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