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152 主の目を奪え

 英花が結界を構築した瞬間、精霊たちにつなげられていた魔力の糸が切れた。

 切断後の先端が大きく跳ね回る様は生きたヘビが痛みにのたうっているかのようだ。

 先端を激しく結界に叩きつけてくるが、それが魔力である限り弾かれてしまう。

 それでも諦めるということを知らぬかのように何度も何度も打ち据える。


 何も知らぬ者が結界のそばで見ていたなら、その執念を感じて恐怖したことだろう。

 邪妖精の支配から逃れた精霊たちはまだ自我を持ち得ていないが故に本能の感覚が強く、殺気にも似たむき出しの感情を受けて恐れおののいているに違いない。


 真利に保護を頼んで正解だった。

 することは単純だ。

 弱めの治癒魔法を四方八方へ広げるように放出して結界内を満たすだけである。

 邪妖精のように精霊を無理に囲ったりはしない。

 そんなことをすれば怯えて逃げられるのがオチだ。


 結界内で保護しているので逃げると言うのも変ではあるが、嫌われることだけは間違いない。

 そうなってしまうと風の揺りかごから脱出する際に連れて行けなくなるだろう。

 結果、待ち受けるのは主を失った風の揺りかごと共に消滅する運命だ。

 そうさせたくないから今は我慢。

 読み通りに事が進めば精霊たちの方から勝手について来てくれるはずだ。


 現時点ですでに真利の方へ精霊が集まりつつある。

 俺は安心して自分の仕事ができるというものだ。

 魔力の糸の暴れていない部分から邪妖精の方へ向けてたどっていく。


 俺がこの仕事を担当した理由は簡単だ。

 千里眼を使って確認できるからである。

 そこへ至るまでの道筋を確認しておかないと道中何があるかわからない。

 断崖絶壁で移動困難な場所とかあると厄介だし。


 後は途中で堂島氏を発見できればラッキーなんだが、さすがにそれは無理か。

 邪妖精にとって人間の魔力はごちそうなんだから己の手元に置いておくはず。


『皆様、お気をつけくださいニャン。他の場所から精霊が集まってきますニャ』


 ミケからの注意喚起だ。

 邪妖精が精霊をこちらに差し向けてくるのは状況の確認ができなくなることを嫌った証しである。


『好都合だ。集まってきた精霊を保護するぞ』


『そうは言うがどうするんだ、涼成?』


『まずはうるさいのを黙らせる』


 英花と同じ要領で魔力の糸を断ち切る。

 位置的には俺たちのいる所と邪妖精の拠点の中間地点くらいの場所だ。


『魔力の糸が消えた?』


『途中で切ってやったのさ』


『そんなことをして大丈夫なのか?』


『ここはな』


 結界は切断直後に解除したので魔力の糸は周囲の木々をなぎ倒す勢いで暴れている。

 だが、ただ暴れるだけで周囲を探るような動きは見られない。

 邪妖精には見えていない証拠だ。

 これでこの近辺に精霊を向かわせるなら伸ばした魔力の糸の距離感を把握できていることになるのだが、果たしてどうかな?


『そうじゃない。敵の居場所を突き止めるんじゃなかったのか』


『それなら、もう発見してるから大丈夫だ。今は監視中だよ』


『そういうことなら構わないが、この後はどうするんだ?』


『結界を一旦解除して精霊を誘い込む』


『無理じゃないか? 精霊が我々の周りに集まっている状態を見れば敵も警戒するだろう』


 英花が言うように解放された精霊たちは俺たちの周りをフワフワと漂っていた。

 真利の治癒魔法の放出が呼び込む結果となったのは明白だ。

 が、精霊たちは自我がないのでこちらの指示に従えるようなものではない。

 敵から見られないように隠れろと言っても何もしないだろう。

 ならば、俺たちがどうにかするより他にあるまい。


『真利、治癒魔法の放出カットだ』


『うん、わかった』


『ミケ、その状態で精霊たちを離れた所に誘導して隠れてくれ』


『アイアイサーにゃん』


 指示通りに動き始めると解放された精霊たちに動きがあった。

 真利が治癒魔法をやめても精霊たちは俺たちの周りから離れなかったが、ミケが魔力を放出しながら誘導するとそちらに集まっていく。


 その状態で離れた場所へ移動するとミケが結界魔法を使った。

 魔力の流れをかく乱させるだけの簡単なものだ。

 魔法を跳ね返すなどはできないし目視も可能。


 そんなものに意味があるのかと言われそうだけど大丈夫だ。

 自我のない精霊が見ているのは光ではなく魔力である。

 イメージで言えばサーモグラフィの映像なんかが近いだろうか。

 もちろん熱源ではなく魔力を見ている訳なんだが、かく乱されているので解放された精霊たちの姿はまともに見ることができない。


 このタイミングで邪妖精が送り込んできた精霊たちが集まってくる。

 ちょっと際どいタイミングで焦ったけど解放した精霊たちは見つからなかったようだ。


 俺たち自身は囮になるべく姿を隠していなかったものの向こうは警戒しているのか多少の距離を取っている。

 だが、向こうがこちらを見ている時は俺たちもそちらを見ているのだ。

 少しばかり離れたくらいで魔法の射程から逃れられると思っているなら大間違いということを思い知るがいい。


『英花』


『大丈夫だ。任せろ、涼成』


 俺が呼びかけると頼もしい念話が返ってきた。

 俺たちは周囲を警戒しているふりで監視に気付かないように見せかけて英花が魔法を使うのを待つ。

 タイミングは精霊たちが集まりきってからだ。


 後から追いついてきた精霊たちに囲まれた状態になったところで英花が魔法を使った。


 結果は言わずもがな。

 切断された魔力の糸が結界を乱暴に叩く光景は先程と何も変わらない。

 当然のように結界の中で真利が軽めの治癒魔法を放出して精霊たちを癒やす。

 これもその後の展開もすべて同じだった。

 後は俺が離れた場所で魔力の糸を切断すれば結界を叩かれることもない。


『滑稽としか言い様がないな』


『ここの主はものぐさなのかなー』


『用心深いだけかもしれないぞ』


 ハッキリ言って失笑ものの状況だ。

 向こうにしてみれば監視カメラを潰されたからドローンを送り込んだら何故か同じような結果になってしまったというところか。


『どちらかは判断しかねるな』


『油断は厳禁だね』


『当然だろう。ここは主の縄張りだ。どんな罠があるかもわからん』


『こればっかりは千里眼では見抜けないからなぁ』


 観察力しだいでは可能かもしれないけど、この広い風の揺りかご内をくまなく見て回るなんて正気の沙汰ではない。

 主の居場所は判明しているので、そこまでの直線上だけを見ればいいという話もあるとは思う。

 だが、それは向こうが闇雲に攻撃を放った場合にまともに当たる恐れがある。

 今は距離があるので避けるなり防御するなりの手段を執る余裕はあると思うが、向こうの懐近くまで接近した状態で不意打ちをくらうのは嫌なものだ。


 故に迂回するつもりなんだが、ふたつ問題がある。


 ひとつは堂島氏を未だ発見できていないこと。

 これは主のそばにいることが考えられるが、迂闊に千里眼を近づけて察知されると面倒なことになりかねないので意図的に避けている。


 もうひとつは主の姿を確認できていないことだ。

 魔力の糸が集まっている場所を発見しただけなので邪精霊の正体もわかっていない。

 おどろおどろしい雰囲気を漂わせる館の中にいる時点で質が悪いことだけは想像がつくのだけど。

 それを確認するのは奴の目を奪いきってからだ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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