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151 風の揺りかごへ

 遅い時間に出発する。

 軽自動車に乗り込んだのは俺たち3人とミケといういつもの面子だ。

 ただし、ミケは最初から霊体モードである。

 現場近くで遠藤大尉たちと出くわす恐れがあるからね。


 で、ヘッドライトを点灯させて走り続けることしばし。

 目的地が近づいてきた。


「そろそろだよー」


 ナビ担当の真利の合図で全員が魔力を高めていく。

 俺はついでに魔法も使い車を覆うように結界を構築した。

 もし風の揺りかごの中で衝突するようなことがあったとしても被害が軽微なものになるようにね。


 即興ではなく事前に決めていたことだ。

 中の主を刺激するんじゃないかという懸念もあったけど、攻撃性がないなら大丈夫だろうという結論になった。


 結界は風で構築している。

 障壁ではないので防御面では見劣りがすることは承知の上でこれにした。


 風を使う理由は空気抵抗を軽減させるのと横風を避けるためだ。

 軽自動車で3人乗ると加速とか運動性がガクッと落ちてしまうのでね。

 特にこの車はノンターボだから非力さが露呈しやすいのだ。

 風の揺りかごへの流れに乗れなかったら一からやり直しとか嫌すぎるだろ?


「普段使いの買い物車にターボはいらんと言ったが、あれはウソだ」


「涼ちゃんが、またおかしなことを言い出したよ」


「NAとは違うのだよ、NAとは」


「真面目にやれ、涼成」


「はい」


 誰もネタを理解してくれないのはギャグの不発で滑った芸人のように寒々しく悲しいものがある。


「あそこですニャ!」


 落ち込む間もなくミケが風の揺りかごの入り口を見つけたようだ。


「行くぞ!」


 さらにアクセルを踏み込む訳ではないが気合いを込めて声を発した。


「ああ」


「いいよ」


「いつでもオッケーですニャン」


 まさか返事があるとは思っていなかったが気合いが入った。

 その瞬間にフワリとした浮遊感を感じる。

 高速道路で走行していると、少し先にあると思えた場所もあっという間に到達してしまう。

 本来ならそのまま通過していただろう。

 だが、そうはならない。


 徐々に景色がにじむようにぼやけ始める。

 ボンヤリした状態で色が変わり時を巻き戻すようにぼやけたものが形を取り戻していく。

 しかしながら、形は元通りではなく明らかに異なる様相を呈していた。


「っ!」


 風景が輪郭を取り戻す前に思い切りブレーキを踏んだ。

 車がズルズルと滑って向きを変え始めたところでブレーキを緩めスピンを回避。

 タイヤがグリップを取り戻したところで再びブレーキを強く踏んだ。

 後は緩めるのと踏み込むことの繰り返しだ。


 どうにか止まった時には目の前に巨木があった。

 ハンドルを切ってかわしていたとしても大きな意味はない。

 巨木はその1本だけではなかったからだ。


「やはり誘い込まれるのとは違うよな」


「ここはもう敵地なんだ。呑気なことを言っている場合じゃないぞ」


 英花から油断するなとばかりに注意されてしまった。


「だよな。降りようか」


「ここから先は徒歩の方がいいのかな」


「当然だな。真利は攻撃されたらどうかわすのだ」


「あ、そっか」


 俺以上に呑気な人がいましたよ。

 いや、天然なのか。

 ちょっと和んだのは内緒だ。

 こういうところが油断していると英花にツッコミを入れられそうだし。


 軽自動車から降りて周囲の様子を改めて確認する。

 周囲に敵対的な気配はない。


『ミケ、どうだ?』


 霊体化しているミケに念話で問う。

 相手が邪妖精なら念話でもミケの存在に気付かれる恐れはあるが声に出すよりはマシだろう。

 風の揺りかごの中ではミケが切り札になり得る。

 可能な限り察知されない方がいい。


『近場にいるのは自我のない精霊ばかりですニャー』


 だからといって安心はできない。

 そういう精霊をセンサー代わりに使う奴がいるからね。

 俺たちが侵入したことは端からバレているという前提で動かないと痛い目を見るのは間違いない。


 ここは主の縄張りである。

 踏み入ったせいで怒らせている恐れだってあるのだ。

 少なくとも機嫌を損ねていることだけは想像に難くない。

 今は攻撃されていないが主に近づけば問答無用で攻撃されるだろう。


『ミケ、偵察だ』


 当然のように英花が念話で指示を出す。


『了解ですニャン』


 霊体モードのままビシッと敬礼したミケがいつものごとくシュバッと消えようとしたところで──


『ストップだ!』


 俺が待ったをかけた。

 するとミケは一瞬であそこまで行っていたのかと思うくらい離れた場所から戻ってくる。


『何かありましたかニャー?」


『敵地のド真ん中で切り札のお前を行かせる訳にはいかないな』


『そうは言うが涼成、何の情報もなく動き回るのは危険だぞ』


 英花が反論してきた。


『動かなきゃいいんだよ』


『なんだって!? どういうことだ?』


 語気を強めて聞いてくる英花だが声に出さなかったのは冷静さを残していた証拠だろう。


『向こうは自我のない精霊を使ってモニターしてるのに切り札のミケを単独行動させるのは危険だぞ。相手も妖精だと言うことを忘れていないか』


 返事はなかったが英花が言葉に詰まっているところを見ると状況判断をミスったことに気付いたみたいだな。

 敵が邪妖精なら妖精のミケが単独で近づけばたとえ霊体モードでも気付かれてしまうだろう。

 そうなった場合、相手の力量次第ではかなりマズいことになる。

 今回の場合はミケを斥候として使うよりは支援職として俺たちのそばに置く方がいい。


『だけど偵察は必要だよね。どうするの?』


 真利が当然の疑問を抱いて聞いてきた。


『千里眼を飛ばす』


『そっか、涼ちゃんのスキルがあったね』


『だが邪精霊が攻撃してくる恐れがあるぞ。それも向こうの姿を視認できない状態でだ』


 敵は俺たちが見えているが俺たちは邪精霊の姿を捕捉できていない。

 一方的に狙撃される恐れがある。


『だから先に向こうの目を潰す』


『精霊に攻撃するの!?』


 真利が拒絶的な反応を見せたが、どうにか声に出すことだけは回避できたようだ。


『そんなことする訳ないだろ』


『じゃあ、どうするつもりなの?』


『向こうは精霊と強引につながっているだけだ』


 異世界でもそういう敵はいたんだよな。

 その時の敵はアンデッドだったけど無理やり精霊を捕らえて使役していたという点については同じだ。

 監視カメラのように精霊を使うという手口も同じである。

 そして、精霊たちがすごく嫌がっていたのも。

 そんな精霊を攻撃するなどあり得ない話だ。


『なるほど。邪妖精とのつながりを断つ訳か』


『あっ、そうだね。それなら向こうもこっちを見られなくなる』


 現状の精霊たちは魔力で覆われ力業で操り人形にされている。

 精霊たちが拒否しているため使役契約は成立していない。

 ここがつけ込む隙だ。

 樹海で使った時と同じように魔力を遮断する結界を使う。

 邪妖精が伸ばした魔力の糸をカットしつながりを断つことで精霊たちも解放されるだろう。


 という訳でさっそく行動に移る。


『結界は英花が頼む』


『涼成はどうするんだ』


『俺は魔力の糸をたどって邪妖精の居場所を突き止める』


『逆探知か。気取られるなよ』


『ああ』


『涼ちゃん、私は?』


『精霊を保護してくれ』


『わかったー』


『ニャーはどうしますかニャ』


『ミケは待機だ。存在を気取られるとアドバンテージを失うからな』


『了解でありますニャン』


 ビシッと敬礼するミケだ。


『準備はいいか?』


『もちろんだ』


『いつでもいいよー』


『待ってますニャン』


 さあ、覚悟しろ邪妖精。

 まずは泡を食わせてやろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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