150 突入方法は
真利の屋敷に戻りミケにドライブレコーダーの映像を見せてみた。
「はー、典型的な神隠しですニャー」
見終わるなり嘆息したミケは呆れを隠そうともしなかった。
「風の揺りかごに捕らわれた訳じゃないのか」
「よく御存じですニャ。その通りですニャン」
「おい、ミケ。どういう意味だ? 訳がわからないぞ」
言いながらジロリと睨む英花である。
「失礼しましたニャ。風の揺りかごに捕らわれることをこの国では神隠しと呼んだことがあるんですニャー」
「おいおい」
こんなことが昔からあったとは初耳だ。
「まさか大昔の神隠しが事実だったとはな」
「全部がそうだとは言いませんニャー」
それもそうか。
科学捜査なんてものがない昔は行方不明は何でもかんでも神隠しで片付けられただろうし。
全体の何割が本物なのかなんてわかるはずもない。
だが、確実に本物が混じっている訳で。
堂島氏が消息を絶った今回の件も本物であることがミケによって証明されてしまった。
「で、今後もこの場所で同じことが起きる可能性はあるのか?」
「どうでしょうニャー」
「おい」
ミケの返答に英花が苛立ちを見せる。
「しょうがありませんニャ。今回、主が捕らえた相手が相手ですからニャ」
「どういうことだ?」
「ああいうのに引きこもる奴らには人間の魔力はごちそうですニャー。おまけに今回は量も多いですニャン」
「つまり、ごちそうが山盛りである状態で夢中になっているから外のことが気にならなくなっていると?」
「その通りですニャー」
だが、魔力量で言うなら同じチームの大川曹長の方が上だ。
遠藤大尉や氷室准尉も魔法は使えないが魔力量だけなら堂島氏に匹敵するはずである。
「そうは言っても、メンバーが捜索に来たなら反応しても良さそうなものだが」
「そこはきっと好みの問題ですニャン。好物でなければ手を出さなくても不思議ではないですニャ」
そういうことか。
だとすると、堂島氏を救出するためにわざと捕まるような真似をしてもスルーされる恐れがあるということだ。
「困ったな。だったら、どうやって堂島氏を助ける」
「正面から乗り込めばいいですニャー」
「それができないから頭を悩ませているんだ」
「意味がわかりませんニャ。普通に入れるのにできないとは、これ如何にですニャー」
「そっちこそ意味がわからんぞ」
「涼成の言う通りだ。わかるように話せ」
「これは失礼しましたニャン」
ぺこりと頭を下げるミケ。
「入り口はあそこで固定されていますニャ。向こうが誘い込まなくても侵入は可能ですニャー」
マジか。
「それはおかしくないか?」
疑問を呈したのは英花だ。
「何がですニャー?」
コテンと首をかしげるミケ。
「入り口が変わらぬままなのに誰も風の揺りかごに入っていかないのは何故だ。さらわれずとも入れるのだろう?」
確かにそうだ。
亜空間であるという認識はなくても堂島氏のいる所に行きたいという意思を持っていれば、つながりができて入っていけそうな気がするのだが。
特に遠藤大尉たちはチームメンバーとしてずっと活動し続けているから絆もあると思うのだ。
レベルも2桁なら漠然とした思念でも空間の隔たりを超えてつながれる。
天変地異の前であれば絵空事だと一笑に付されたかもしれないが、今は思念が魔法を発動させる世界となった。
魔法が使えなくてもつながりくらいはできるはず。
だからこそ英花も誰一人として堂島氏の元にたどり着くことがないということに違和感を感じたのだろう。
「閉じているからですニャ」
実にシンプルな理由だった。
「言ってみれば、あの入り口は水門のようなものですニャー」
「水門だと?」
英花が訝しげに問う。
「開けばそちらにも流れ込んでいきますニャ。閉じてしまうと本来の流れの方にだけ流れていきますニャン」
「それこそ何事もなかったように、か」
「その通りですニャー」
英花が表情を険しくさせる。
ミケの説明に納得がいかないという訳ではないと思うのだが。
「本当に入ることができるのか? そこまで厳重に封鎖されているなら、開くだけでも一苦労ではすまないだろう」
なるほど。新たに懸念材料ができたからか。
「一苦労どころか簡単ですニャー」
「なんだと?」
「ニャーは水門だと言いましたニャ」
「それがどうした」
「水門が止められるのは常識の範囲内の流れだけですニャ」
「おい、まさか……」
「そのまさかですニャー。氾濫させてしまえば水門など何の意味もなさないですニャン」
発想が過激なケットシーである。
さすがの英花もドン引きしていた。
「ミケちゃん、氾濫させるのは魔力でいいの?」
「ハイですニャー。魔力を高めれば後は何をしなくても風の揺りかごに乗り込むことができますニャ」
「それは好都合だな」
「涼成?」
英花が俺の意図を図りかねて問いかける目を向けてきた。
「魔力の高まりなんて記録しようがないだろ。偶然誘い込まれたということにできる」
「いまさら実力を隠そうとしても無駄じゃないか? 特級免許になってしまったんだし」
「少しでも低く過小評価されれば、それでいいんだよ」
手遅れの感は否めないがね。
「その心は?」
真利が聞いてきた。
「便利屋扱いされたくない。困った時の俺たち頼みなんて思われたら自由に活動できなくなるぞ」
居場所を常に把握したがる嫌な連中が湧いてくるのが目に見えているのだ。
「あー、それはあるかもねー」
「なるほど。一理あるな」
真利と英花も納得の顔を見せるが……
「だが、大尉には気付かれてしまうんじゃないか。いくら自由に捜索してもいいと許可を得ていても向こうが同行を希望すれば断れないだろう」
英花が懸念を伝えてきた。
「同じ車に乗っていると巻き添えの形で風の揺りかごに入ってしまいますニャー」
「それは巻き添えにならない方が怖いぞ」
俺たちは車と一緒に風の揺りかごに突入して大尉だけが高速道路に放り出される。
しかも時速百キロでだ。
いくらレベルを上げている大尉でも無傷ではすむまい。
「考えたくないねー」
「ならば同じ車に乗せなければ良いのだな」
「そういうこと。仮にスリップストリーム状態で追走してきたとしても向こうは入れないはずだ」
ミケの方を見て確認する。
「それなら巻き添えになったりしませんニャー」
「それはわかったが、あの男でもそこまではしないだろう。いくらなんでも危険すぎる」
「何とも言えないなぁ」
あの人、自分以外の人の命がかかると何するかわかんないからね。
「それなら実際に走って確認する体で現場に行けばいいんじゃない?」
「まずは確認、か」
「偶然を装うには丁度いいじゃないか」
「そうだな。とすると……」
「まだ何かあるのか、涼成?」
「キャンピングカーや軽自動車で行くのは厳しそうだと思ったんだよ」
風の揺りかごの中の状況はわからない。
どちらも運動性に難があるので事故になってしまう恐れがある。
「軽自動車で行くとしよう。新しい車を用意すると怪しまれるぞ」
「軽にする根拠はなんなのー?」
「キャンピングカーだと外の状況を確認できるのは運転席と助手席だけになるだろう」
「涼ちゃんがいるから何とかなるんじゃない?」
まあ、俺が後ろに乗って千里眼のスキルを使えば問題ないとは思うが。
「だとしても全損したら目も当てられないぞ」
「あー、もったいないよねー」
なんだかなぁ。
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