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149 堂島は何処にいるのか

 どう行動するかは俺たちの自由という条件で依頼を引き受けた。

 大川曹長が電話で確認して了承を得たけど、許可を求める相手が遠藤大尉だと聞くまでもなかったと思う。

 とはいえ大川曹長がなあなあでは済ませられないか。


「涼成、まずは何をするつもりだ?」


 大川曹長を見送り、どうしようかと考え始めたところで英花に問われてしまった。


「情報の整理はしておいた方がいいだろうな」


 堂島氏の居場所を特定できるような状態なら何も考えずに行動しても良いのかもしれないが、現状は手がかりも限られている。

 推測できることはあるものの、それは確信を持って言えるほどのものではない。


「そうは言うが、現場を見ておいた方が良いのではないか?」


「そっちは遠藤大尉たちに任せておけばいい」


「向こうはお手上げだと言っていただろう。そんなことで大丈夫なのか?」


「堂島氏が消える瞬間の映像は確認できたんだ。現場で何か起きれば気付くだろうさ」


 俺の返事に英花は怪訝な表情を見せる。


「どうした? 何か変なことを言ったっけ、俺」


「そうじゃない。どうして気付かなかったのかと思っただけだ」


「何にさ?」


「消えた場所が今もつながっているとは限らないということだ。失踪場所が移動している恐れもある」


 俺の言葉の後半部分に引っ掛かったのか。


「その可能性も考慮しないといけないよなぁ」


 八方ふさがりになるまで捜索したにもかかわらず堂島氏の発見につながらないからね。


「涼成は移動の可能性は低いと見ているのか」


「さあ、どうだろう。今のところ、それを判断するような段階にないと思う」


「どういうことだ?」


「涼ちゃんはね、手がかりが少ない状態で先入観を持って見ちゃいけないって言ってるんだよ」


「そういうことか」


 英花も一応の納得を見せた。


「だが、どうやって手がかりを増やす?」


「そこだよねー」


 闇雲に動いてもダメなのは遠藤大尉たちが証明しているようなものだ。

 ならば手持ちの情報である程度の仮説を立ててそれを実際に成り立つかどうか検証していくことで絞り込みをしていくのも手だと考えている。

 色々とやっている間に新しい情報が得られることもあるかもしれないし。


「堂島氏が行方不明のままということは普通に遠くへ飛ばされたという線は消えるよな」


「秘境とかだったら?」


 嫌なツッコミを入れてくれるな。


「考えたくないが高速移動中にそんな場所に飛ばされたらヤバいだろ」


「あー、エアバッグがあっても厳しいかな」


「まずは生きているという前提で考えろということだな」


「そういうこと」


「だが、連絡がつけられない状態ということは考えられるだろう」


「だとしてもGPSで居場所を確認できないのは説明がつけられるか」


「む、それは……」


 大川曹長によれば堂島氏は衛星回線を使う軍用のGPS発信器を持たされているという話だった。

 つまり閉鎖空間にいない限りは地上の何処にいても捕捉されるのだ。


「そもそも俺たちの知らない転移系の魔法で行方知れずになったということを忘れているぞ」


「っ、そうだったな」


「それじゃあ、人為的な誘拐ではないってこと?」


「絶対にそうじゃないとは言わないが、少なくとも俺たち以外の人間でそれができると思うか?」


「無理かなー。高速を走っている車を転移させるなんて制御が大変だよ」


「ふむ、それに合わせて魔力の消費も跳ね上がるだろうな」


 せめて大川曹長と同等の魔力を持っていないと難しいだろう。

 俺たちや隠れ里の民たち以外で、そこまでレベルを上げられている冒険者が日本にいるとは考えにくい。

 もちろん、そんなことをする理由のない俺の身内が犯人であるはずがない。


「だとすると厄介だな。いきなり手がかりが途切れたようなものだ」


「そうでもない」


「なにっ?」


「堂島氏は亜空間にいる可能性が高いということはわかっただろ」


「しかしな」


「そして俺たちはその専門家を知っている」


「あっ、ジェイドさん!」


「ジェイドだけではないが、そういうことだな」


「だから涼成はドライブレコーダーの映像をコピーしたのか」


「もう少し詳しく調べてみたいとか言ってたけどジェイドさんに見せるためだったんだね」


「大川曹長と話をしている時にはすでに目星をつけていたか」


「まあね。けど、彼女の前でそれを言う訳にはいかないだろ」


「ジェイドたちは事故で飛ばされてきたことになっているからな」


 亜空間の専門家ということが知られてしまうと余計な騒動になる恐れがある。

 身内がそんなことに巻き込まれるのは、真っ平ごめんだ。


「とにかく見てもらおうよ」


 という訳で俺たちは隠れ里の民たちの居住区へ向かった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「これは……」


 そう言葉を発したきりジェイドは重苦しい表情で黙り込んでしまった。


「知っているのか、ジェイド」


 英花がうながすことで、ようやくジェイドは思い口を開いた。


「風の揺りかごじゃよ」


「「「風の揺りかご?」」」


 思わず3人でハモってしまった。


「涼成も知らないのか」


「ああ、初耳だ。隠れ里に近いものだとは思うがどうなんだ?」


 英花に答えつつジェイドに問いかけると、うなずかれた。


「どちらかと言えば妖精郷に近いんじゃがの」


 まあ、妖精郷も隠れ里の一種だ。

 妖精の住み処であるかどうかが違いか。


「ただしのう……」


 ジェイドが言葉を濁す。


「そんなにヤバいのか?」


「うむ。風の揺りかごにおるのは人間のことなど何とも思っとらん主なんじゃ」


「主だと? 妖精とは違うのか」


 人間のことを何とも思っていないというのが引っ掛かったのか俺より先に反応した英花が確認するように問う。


「妖精じゃよ。しかし妖精郷におる妖精と違って、風の揺りかごの主は自分本位な中立の妖精か人間に敵対的な邪妖精しかおらんと言われておる」


 思った以上にヤバいかもしれんな。

 堂島氏が行方不明であることを知った上で映像を見たジェイドが黙り込んでしまったのもうなずける。


「じゃあ、今回の主が邪妖精だったら堂島さんは……」


 不吉なことを口にしそうになって言い淀む真利。


「いや、生きてはおるじゃろう。死ねば外に放り出されるらしいからの」


「良かったー」


 真利はホッと胸をなで下ろす。


「良くはないぞ」


「え?」


「さらわれた者は眠り続けるという。故に風の揺りかごと言われておる」


「眠るだけなら命の危険はないんじゃない?」


「邪妖精はそれを利用して魔力を搾取するそうじゃ」


 眠り続けるから搾取と回復のループになるってことか。


「そんなの続けたら徐々に衰弱していくよな」


「うむ、そう言われておる」


「どどどどうしよう」


 真利が泡を食い始めた。


「レベルを上げている堂島氏なら、そう簡単には死なないさ」


「でもでもっ」


「慌てれば救助できるならそうするけど、何の助けにもならないだろ」


「あ、うん」


「しかし涼成、急いだ方がいいのは事実だ。堂島氏がさらわれた具体的な場所がわからない現状はマズいぞ」


「たぶん、わかる」


「ええっ!? そうなのぉ?」


「どうやって探るんだ?」


「探るというよりは教えてもらう感じだな」


「ジェイドにか?」


 英花が振り向くがジェイドは頭を振った。


「無理じゃ。隠れ里のことならわかるが風の揺りかごのこととなるとワシらではどうにもならん」


 その言葉を受けて英花が本当にわかるのかと言わんばかりの目でこちらを見てきた。


「風の揺りかごは妖精郷に近しいものなんだろう?」


「うむ。そう言われておる」


「だったら、ミケが詳しいはずだよな」


読んでくれてありがとう。

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