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148 堂島失踪事件

 その日は休養日ということで夜更かしして寝たのは明け方頃だった。

 にもかかわらず寝入ってすぐのタイミングで真利が寝室に突撃してきた。


「涼ちゃん、大変だよー」


 言うなり真利が何の予告もなく布団を引っぺがしてきた。


「何だよぉ。話なら後で聞くからさ、ゆっくり寝させてくれって。こっちは寝始めたばっかりだぞ」


 布団を取り戻すべく手を伸ばすも闘牛士のようにひらりとかわされてしまった。


「それどころじゃないよ。大川さんから連絡があって──」


 大川曹長の名前が出てきた時点で嫌な予感しかしない。

 耳をふさぎたいところだが、それをしたところで話を聞くまで真利は布団を返さないだろう。


「堂島さんが行方不明なんだって」


「うん、それは大変だ。そしてそれは俺たちには何もできない。警察案件だ」


 早口でそれだけ言い切ると布団を奪い返して丸まった。


「んもぉっ。話は最後まで聞いてよー」


「聞くまでもなく俺たちに捜査権はない」


「そうじゃないよ。私たちに協力してほしいって依頼が来てるのっ」


「やっぱり、そう来たか」


 嫌な予感的中だ。

 どうやら警察案件では終わらない事情があるらしい。

 となると起きるしかないよな。

 できれば遠慮したいが正式に依頼が来たのであれば、そうも言っていられない。

 少なくとも話は聞く必要があるだろう。


「詳細は聞いてないよな」


 布団から顔を出して問いかける。


「うん。堂島さんが1人で行動中に行方不明になったとしか聞いてないよ」


 つまり姿を消したのは堂島氏だけか。

 民間人とはいえ統合自衛軍のトップチームに所属している彼を捜索しない訳はないだろう。

 にもかかわらず俺たちに依頼してくるというのは事態が逼迫しているか手を尽くしても手がかりすらつかめない状況なのか。

 いずれにせよ堂島氏が厄介なことに巻き込まれたのだけは間違いなさそうだ。


「で、話は何処で聞けばいいんだ?」


「もうすぐ到着するって」


「あ、そう」


 話を聞いたが最後、絶対に依頼を受けさせるつもりだな。

 そんなにヤバい状況なんだろうか。

 ひょっとすると、もう何日も行方が分からない状態なのかもしれない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「すみません。御迷惑をおかけします」


 応接間に案内してすぐに大川曹長が深々と頭を下げた。

 ちなみに本日は彼女1人だけである。

 氷室准尉はともかく、こういう時には必ず来るであろう遠藤大尉がいないのは違和感を感じてしまう。

 まあ、それだけ状況が思わしくないので現場付近で捜索に加わっているとかなんだろう。

 仲間の生存には強くこだわる人だからね。


「堂島さんが行方不明になったとは聞きましたが?」


「はい。我々だけではすでに八方ふさがりなのです」


 そうでなきゃ外部の民間人に頼ろうとはならないよな。


「ということは遠藤大尉が依頼の指示を出したと」


「そうです」


 大川曹長が目を丸くさせて驚いている。


「あの人、身内の命がかかると形振り構わないじゃないですか」


「よく御存じですね」


「樹海の時に無茶してたでしょう」


「ああ、そういうこともありましたね」


 ちょっと口を滑らせて冷やっとしたけど何とか誤魔化せたようだ。


「それで詳しい話を聞かせてもらえますか」


「はい」


 ということで大川曹長から堂島氏が行方不明になった経緯から話を聞いた。

 堂島氏が行方不明になったのが明らかになったのは親族から連絡があったからだという。

 法事のために地元へ帰省することになったのだが結局来なかったと苦情が入ったのだそうだ。

 大事な用事をドタキャンさせてまで扱き使っているのかと。


 しかしながら事前に法事があることを聞かされていたので遠藤大尉が日程を調整して帰省できるようにしていたので、そのような事実はない。

 しかも堂島氏が車で出発するのをチーム全員で見送っている。

 そうなると事故が疑われて警察に問い合わせたものの該当する事故は無かった。

 自動車のナンバーで追跡もしてもらったが高速道路上でこつ然と姿を消したそうだ。


「現代の神隠しだな」


 英花がそんな感想を漏らした。


「えー、途中で一般道に下りたんじゃないのー?」


 真利は現実的なものの見方をしているな。


「彼が姿を消したのは静岡のあたりです。地元から遠く離れているのに高速から下りてしまうのは合理的に考えてあり得ないと思うのですが」


「お土産を買い忘れたから途中で買いに行ったとか」


 現実的かと思ったら急にこじつけたことを言い出す真利。


「──は、ないよねえ」


 さすがに自分でも荒唐だと思ったらしく、すぐに否定したけど。


「なにより他の車両のドライブレコーダーに消える瞬間が映っていました」


「おいおい」


 思わず声が出ていた。


「そういう情報は先に聞かせてもらいたかったな」


「そうだよー」


 英花や真利も同じ心境のようだな。


「すみません。話す順番を間違えましたね」


「その映像、見ることはできますか」


「はい」


 大川曹長が差し出したタブレットの映像を見ると確かに動画の途中で車が1台消えている。

 この車が堂島氏のものなのだろう。

 急にパッと消えるのではなく徐々にぼやけて周囲の景色に同化するような消え方をしていたのが気になった。


 普通なら動画を加工していることを疑うところなんだが、そういう代物ではないと断言できる。

 映像からでも魔力の流れが見えたからだ。

 空間魔法で別の場所に送られているのは間違いない。


 ただ、徐々に姿が消えるというのは普通の転移魔法ではないことだ。

 少なくとも俺たちが転移する時は瞬間移動するようにその場から一瞬で消える。

 そのことから考えると人の魔法で転移させられたのとは違うだろう。


 とはいえ俺たちが転移魔法を使えると知られたくはないので気付いたことを大川曹長には伝えられない。


「こんなものが提出されているのに近くを走っている車に乗っていた人は誰も気付かなかったんですか」


「そうですね。不思議なことに誰も」


「えーっ、こんな映像が残っているのにー?」


 普通なら真利の言う通りだと思うことだろう。

 これを提出した運転手が気付いていないのはおかしいとなるはずだからね。


「それが、この記録は堂島さんと同時刻に走っていた車両を特定して提出をお願いしたものなんです」


「それはつまり運転手は気付いていなかったと?」


「そうですね。それどころか映像を見ても車が消えたことに気付きませんでしたよ」


「何かしらの魔法が作用している訳ですか」


「そうですね。警察関係者も何人かは気付かなかったくらいですから」


 認識阻害がかかっているのは間違いないことが確認できた。

 記録映像に残るほど強力な魔法じゃ走行時に誰も気付かなくて当然である。

 さすがに映像では効力が落ちているようだけど。


「遠藤大尉はなんと?」


「現実でもこんな魔法があるんだなと」


「大尉も消えるところを確認できた訳ですね」


「ええ。気付く人と気付かない人の差がよくわかりません」


 レベルを上げていることで魔法に対する抵抗力が身についているからだろう。


「大尉は魔法が使えませんから、その線ではないと思いますが」


 惜しいね。もう一捻り考えていれば、どういう差なのかわかっただろうに。


「気付いた警察官に確認は?」


「しました。魔法が使えないということだけですが」


「冒険者免許の所持については聞いてないんですね」


「はい。今からでも確認は可能ですが」


「冒険者活動が長いかどうかを確認できれば、おそらく答えが出ますよ」


「それってどういうことですか」


「ゲームと同じですよ」


「え?」


「魔物を倒せば倒すほどレベルが上がって魔法に抵抗しやすくなるってことです」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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