144 冒険者になろう
「隠れ里の民に冒険者免許を取らせる、ですか」
その話を持ってきたのは、もはや毎度のごとくと言えるようになってしまった遠藤大尉である。
もはや政府の連絡員扱いされているんじゃないかとすら思えるほど俺たちの元に来ていた。
大川曹長を秘書か助手がわりにしているので1人ではないんだけど。
今回は氷室准尉や堂島氏も同行している。
統合自衛軍が注文していた魔道具の荷運び要員としてだけど。
「今度、制定される法律で魔道具職人は冒険者免許の所持が必須となるんだと」
「魔法の時と同じですね」
「こうでもしないと潜りが横行するからな」
「免許制にしても潜りは出てくるでしょう」
「そういうのは、ほとんどがモノホンの犯罪者だよ」
要するに法律は思いつきでやらかすバカを威嚇して先に排除しておくために制定される訳か。
「隠れ里の民を犯罪者にされちゃたまんないですね」
「そういう訳だから頼むわ」
「わかりました。それで試験は何処で実施するんです?」
もうちょっと魔道具を普及させてからでないと今ジェイドたちを部外者と接触させるのは問題があるんだよな。
マスコミからの取材の依頼は未だにメールで届き続けているけど、すべて断っている。
危険が少なければ、もう少し早めに外に出られるようにしたんだけど。
爆破や殺害予告なんてものまで出されたことがあるので、こればかりはどうしようもない。
雑魚敵の代表格とも言えるような魔物を引き連れて襲撃するとかいう荒唐無稽な予告もあったな。
通報すると犯人はすぐ警察に逮捕されたけどね。
ストレスを溜め込んでいた三浪の浪人生だってさ。
「統合自衛軍の基地で行うと言いたいところだが人数が人数だからな」
試験会場がパンクすることをまずは心配していたんだけど、その点については色々と考えてくれていたようだ。
「こちらから出向くしかないだろう」
こんなのは今回限りの特別措置だとは思うけど、ありがたいことである。
「助かります。移動が一番のネックですからね」
年齢制限があるので子供が除外されるとしても結構な人数になるので移動中に誰とも接触せず試験会場に着くことが難しい。
マスコミに嗅ぎつけられるとシャットアウトすることは困難になるだろう。
面倒なことだ。
「油断はするなよ。しつこいのが嗅ぎ回っているようだからな」
「御忠告どうもありがとうございます」
言ってるそばからその日の晩に真利の屋敷に侵入してきたマスコミ関係者がいましたよ。
昼間に訪れた遠藤大尉たちを尾行していたみたいだね。
もちろん警備主任である紬に捕まっていたさ。
マスコミ関係者にしては怪しいところがあったんで警察には通報せず身柄は統合自衛軍に引き渡しておいた。
そしたらスパイであることが判明したと連絡があったんだけど大丈夫なんかな。
遠藤大尉は問題ないと言っていたけど。
捕まったスパイは本国へ送還され二度と戻ってくることはないそうだ。
まあ、面が割れているんじゃそんなものだろう。
代わりの人員が送られてくるだけとも言えるけど。
そんな訳で警備体制は街全体に広げることにした。
監視のために急遽カラスや野良猫に偽装したゴーレムを用意したよ。
街全体をカバーする数を用意するのは大変かと思ったけど通販のために魔道具を複製し続けた経験のおかげか少し拍子抜けするくらいサクッと終わらせることができた。
でもって動物型ゴーレムによる監視網を構築した訳だ。
不審者を発見した際には魔力波による通信でゴーレムを統轄する監視システムに通報しつつマークするので許可なく街に入った者は確実に捕捉される。
これくらいしないと統合自衛軍に張り付いているマスコミやスパイなどが、どんな情報を持ち帰るかわかったもんじゃないからね。
ただ、露骨に妨害はしない。
そんなことをすれば、この街に何かありますよと宣伝しているようなものである。
故に見せないように立ち回って収穫なしで帰ってもらうのが基本方針だ。
統合自衛軍の方でも気を遣ってくれているようで当日はフィールドダンジョンで演習を行うという前提で人員が送られてくるそうだ。
実際にダンジョンへ入る訳じゃないけど欺瞞工作としては有効だと思う。
ダンジョンのそばに集結しても怪しまれないし極秘演習ということにすればマスコミもシャットアウトできる。
野次馬は言わずもがな。
そういうのに紛れて接近を試みることもできなくなるのでスパイも排除しやすくなるだろう。
同時に臨時試験会場となる訳だ。
考えたものだね。
どうせなら統合自衛軍が監視をシャットアウトするという体で部外者の妨害をしてみようか。
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試験当日となった。
うちのフィールドダンジョンのそばにある空き地で統合自衛軍が仮説陣地を構築していく。
塹壕を掘ったりはしない本当に簡易なものだ。
テキパキとした動作であっという間に完了した。
「こういうのは日頃の訓練の賜物なんだろうなぁ」
「だねー。タープとかあんなにパパッと組めないよ?」
「あれだけ大がかりなものは我々には不要だろう。遠征で野営をすることになってもキャンピングカーがあるんだから」
俺たちがそんな風に話をしていると遠藤大尉たちがやって来た。
「よーう。君らだけなのか?」
挨拶を返す間も与えてくれることなく隠れ里の民たちのことを聞かれてしまった。
「どうも。そこで待機していますよ」
「は!? 何処だよ?」
俺の指差す先を遠藤大尉たちがキョロキョロと見渡すが誰もいないし何もない。
「張井、冗談はよしてくれ」
ちょっと不機嫌そうになった遠藤大尉のことはスルーしてハンドサインで合図した。
「おい」
当然のごとく抗議されるのだが。
次の瞬間には驚きと同時に動揺する声があちこちから聞こえてきた。
光学迷彩の結界を抜けてきたジェイドたちが続々と姿を現したからだ。
「おいおい、マジかよ。光学迷彩とか本当にできるんだな」
「こうでもしないと変なのが監視してたりしますよね?」
「変なのとは手厳しいな」
苦笑する遠藤大尉。
「だが、姿を現したら向こうに何をしたのかバレるぞ」
「心配は無用じゃ」
遠藤大尉の指摘に応じたのはジェイドだった。
「広範囲に幻影の結界を展開しておる。部外者には何がなにやらわからんよ」
「幻影の結界? どういうことだい、爺さん」
「こういうものじゃ」
そう言ってジェイドは手にした斧を幻影の結界で包み込んだ。
すると斧は、ぼかしとモザイクが同時にかかった状態でしか見られなくなる。
「うおっ、何だこれ」
「けったいなことになってもうたで」
氷室准尉や堂島氏が驚きの声を上げた。
大川曹長も言葉は発しないながら頬を引きつらせている。
無理もない。
見ようによってはグロテスクな感じに見えてしまうからね。
「これは確かに何がなにやらだな」
クックックと喉を鳴らして笑う遠藤大尉である。
この人は平気なんだな。
「ということはこの辺り一帯が外からはこんな感じに見えてしまうのか」
「左様じゃ」
返事をしたところでジェイドが斧を覆っていた幻影を解除した。
「それは上からもかな?」
「当然じゃな。空の彼方から地上を覗き見することもできるのじゃろ」
「よく御存じで」
「そんなことよりライセンスの試験とやらを始めんのか?」
「そうだな。いつまでも油を売っている訳にはいかない」
ジェイドにうながされる格好で試験が始まることとなった。
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