143 つくってつくってつくった結果
「誰だよ、魔道具のネット注文を受け付けるとか言ったのは」
「涼成だな」
「涼ちゃんだよ」
「涼成様ですニャー」
ヘロヘロの状態でつい口をついて出たぼやきに英花と真利からだけでなくミケからもツッコミが入った。
「注文枠を絞れば良かったのにー」
「先着何名様というやつか。道理よな」
「抽選にするという手もありますニャン」
おまけに追撃までされる始末だ。
それでも手は止めない。
隠れ里の民たちが真利の屋敷の倉庫に持ち込んでくる魔道具を錬成スキルで複製していく。
なまじ魔力を使わないので体力の限界が来るまで続けられるのが裏目に出ているような状況だ。
もう何日この作業を繰り返しているのかわからなくなってきた。
朝から晩までご飯を食べている時でさえスキルを使い続けていたもんな。
工場の生産ラインで稼働する産業ロボットみたいだと思ったのは作業を始めて1週間くらいしてからだったか。
それでも現状は納期が1ヶ月待ちである。
皆に手伝ってもらってこれだもんな。
複製ができるのは今のところ俺だけだけど錬成スキル持ちとシンクロすることで複製の効果を高めることができるのだ。
交代でシンクロしつつ複製品を増やしていくことで納期を2週間縮めることができたのは幸いと言えるのだろうか。
「初期の注文分はなんとしてもはけさせるぞ」
魔道具をひとつでも多く世間に行き渡らせれば隠れ里の民の安全が確保されるはず。
今は我慢のしどころだ。
そのうち類似品や廉価版のような魔道具がよそでも作られるようになるだろう。
そうすればこちらも製造ペースを落とせるようになる、はず……たぶん。
「魔力電気変換器は予想以上に売れているな」
「スマホのバッテリーチャージャーとして使えるからじゃないかな」
魔力電気変換器はその名の通り魔力を電気に変換する魔道具である。
魔力は誰にでもあるので、この変換器を使えば真利の言った使い方もできる。
充電が必要なモバイルバッテリーと違って自前の魔力を自動で吸い出してくれるので、あらかじめ充電しておく必要がない。
利便性は圧倒的にこちらが上だろう。
安全面にもちゃんと配慮してある。
魔力切れを起こす前に警告表示が出て変換されなくなるので使用中にぶっ倒れることもない。
自前の魔力だけでなく魔石からも変換できるので魔力残量が乏しい場合にも対応できる。
これの優れているところは出力される電圧を自動で調節できる点にある。
故に一般家電も動作させることが可能だ。
一般人が自前の魔力だけでどうにかしようとした場合、実用に耐えるものではないけどね。
まあ、本来は魔石で運用するものだから問題ない。
低品質な魔石でもノートパソコンを1日稼働させるくらいはできるのだ。
需要はあって当然と言えるだろう。
魔石の供給不足を心配する必要もあまりないと感じている。
冒険者組合では買い取りをしているものの実際は持て余しているという話を遠藤大尉から聞いたのでね。
とにかく魔道具を普及させてくれと頼まれて、これを作ったのだ。
ここまで反響があるとは思ってなかったので注文が殺到した時は驚かされたけど。
なお、電気から魔力に変換して魔石にチャージする機能もある。
その場合は充填が過剰にならないようリミッターが働くようになっているので事故も起こらない。
問題があるとすれば、これを真似した類似品が出回ることだ。
それについては安全基準などの法律が早期に制定されるという。
制定前にさかのぼって罰する項目も盛り込まれるそうなので駆け込みで粗悪品を売りさばくような者も少しは抑え込めるのではないだろうか。
「それだけではないだろう。使い道は多岐にわたるんだからな」
それを考慮して設計してあるので変換器は形状が自在に変形するようになっている。
各種コネクターやコンセントに対応するためなんだけど、こういうのは魔道具でないとできないことだ。
こういう仕様にすると高度な術式を使うことになるので完全な模倣品がよそから出てくるのは、かなり先のことになると思う。
頑張ったおかげでネット販売を開始してからしばらくしてお礼のメールが届いたりもした。
それは工務店に勤務して現場で働く人からのものだった。
外で電動工具を使用するのだがバッテリーが重くて疲れやすいと感じていたところに魔力電気変換器を知って購入したという。
軽いだけでなく値段の安い魔石を使ってもバッテリーより長時間の使用ができるためとてもありがたいと書かれていた。
こういうのもあるから頑張れるというのはあるかもね。
……発想が社畜っぽいな。
言っておくが隠れ里の民にも英花や真利にも無理はさせていないよ。
俺だけ複製のために長時間労働をしているだけだから。
言い訳じみたことを考えないとやっていられないとは俺も相当追い込まれているな。
睡眠時間を確保していなかったら、どうなったことやら。
まあ、注文はさばけていないので過去形にしちゃいかんか。
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あれから数ヶ月でどうにか俺の複製なしで注文がさばけるようになってきた。
「長い戦いだった」
「涼ちゃんだけね」
「そうだな。それにダンジョンでは戦っていないぞ。きっと鈍っているだろうな」
「う……」
戦闘の勘は常に実戦に身を置いてこそだとは俺も思う。
ずっと模擬戦すらサボっていたからリハビリしないといけないか。
だが、朗報もある。
「言っただろう。長い戦いだったと」
「意味がわからんぞ、涼成」
「2回も同じことを言うなんて、そんなに大事なことなの?」
英花には苦笑され、真利には勘違いされてしまった。
「そういうことではないのだよ、諸君。なんと実戦をしなくてもレベルアップしましたー!」
「はあっ?」
「ウソだぁ」
「ウソだと思うなら自分のステータスを確認してみろ」
パーティを組んでいるのだから経験値は英花や真利にも入っているはずだ。
「あっ、本当にレベルアップしてたよ」
「信じられん」
真利は普通に驚くだけだが英花は半ば呆然としている。
そこまで驚くことだろうか。
俺も同じ立場だったら驚くか。
「それだけ厳しい戦いをくぐり抜けたということだ。言っただろう。長い戦いだったと」
「3回も同じこと言わなくてもわかったよー」
「言っておくがジェイドたちもレベルアップしてるんだぞ」
「なにっ!?」
驚愕をあらわにする英花。
まあ、俺もジェイドから呼び出されて報告を受けた時は原因がわからず同じ感じだったけど。
後になって気付いたんだけどパワーレベリングのためにクランを組んだことが影響しているみたいだ。
パーティでなくても影響を及ぼせるとかは知らなかったよ。
異世界ではクランを組んだことはなかったし、向こうの書物ではそういう影響についてまでは記載がなかったからね。
特にデメリットはないようなので今もそのままにしてある。
俺たちが魔物と戦えば隠れ里の民にも経験値が入る訳だし。
さすがに丸まる入るって訳じゃないみたいだけど。
俺たちがレベル51から53に上がったんだけどジェイドたちの平均がだいたいレベル30で5レベル上がっている。
同じ経験値が得られるなら、もう少し上がるはずなんだよね。
とはいえ棚ぼた的にゲットできたんだし損をしたという感じはあまりない。
むしろラッキーだと思うし彼らが職人として仕事に専念しやすくなるのもありがたい。
頑張った甲斐はあるかな。
読んでくれてありがとう。
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