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141 知らせてみた

「マジかよ……」


 ジェイドとネモリーを紹介したあと遠藤大尉の第一声がそれであった。


「ホンマにドワーフとかエルフとかいてるんやなぁ」


 言葉を失った遠藤大尉と入れ替わるように堂島氏が感心して声を漏らす。


「俺はドッキリだと思いたいね」


 氷室准尉が苦笑する。


「冗談で我々を呼びつける訳がないでしょう」


 大川曹長がツッコミを入れた。


「それくらい言わなきゃやってらんねえつうの。異世界だぞ、異世界」


「アニメとかラノベの世界の話やと思てましたわ」


「俺はそういうのは疎いからわからんが、大尉なら詳しいんじゃないですかね」


「リアルであるとは思わないじゃないか」


「そうでっか? ダンジョンと魔物なんて定番のネタですやん」


「それを言われるとツラいものがあるな」


「そんなことより我々はどう対処するかを考えるべきではないですか」


 遠藤大尉だけでなくチームを組む残りの3人も一緒に呼んだのは失敗だったかもしれない。

 話がなかなか進まないからだ。

 ジェイドたちのことを説明する上で遠藤大尉だけを呼んだ方がマシだったかもね。

 証言者は多い方がいいと思ったけど裏目に出たか。


「そんなこと言われてもなぁ。上に報告して終わりだろ?」


「そんな訳ないじゃないですか。2人だけでも騒ぎになるのが目に見えているのに2百世帯超で千人以上の異世界人なんですよ」


「大騒ぎになるだろうな」


「それで済めばいい方です」


「何があるって言うんだよ」


「聞けば、魔道具が作れるって言うじゃないですか」


「革命的だよな。生活がもっと便利になるぞ」


「絶対にそれだけでは終わりませんよ」


「なんとかなるだろ」


「絶対に諸外国からあれこれ言われますよ」


「そうは言っても我が国で保護されるなら基本的人権は守られないとな。間違っても引き渡しなんてできる訳がないし拉致なんて許されないぞ」


 そんなことをしそうな国は軒並み天変地異で地上から消滅しているしな。

 外交圧力でどうにかしようとしてくることはあるかもしれないけど、天変地異以降の国際的なパワーバランスは大きく変化している。

 意外にも日本は強い方なんだよな。

 既存の兵器に頼っている国ほど冒険者が育たないみたいで要請を受けて海外のダンジョンへ向かう冒険者チームも少なくないようだし。

 ちなみに銃火器で魔物を倒してもレベルアップできないらしい。


「秘密裏に拉致しようとする者が国に属するとは限りませんよ」


「裏社会か。無いとは言わないが限りなく不可能に近いだろうな」


「どうしてそんなことが言えるのです」


 大川曹長はまなじりを釣り上げてお怒りの御様子だ。

 ちょっと近寄りがたい。


「曹長、彼らを見ても何にも見えないだろう」


 普通に聞いていれば目の前にいるのに何も見えないとはおかしな話である。

 これは要するに視覚系スキルの話をしている訳だ。


「ちょっ、大尉!」


 遠藤大尉の発言に大川曹長が泡を食っている。

 秘匿すべき情報を暴露されそうになったのだから無理もない。

 ほとんど暴露されたようなものだな。

 何かしらの視覚系スキルを持っていることだけは確実だと大川曹長自身が認めたようなものだし。

 せめてスルーできていれば誤魔化せたのかもしれないけど。


「いまさら誤魔化そうとしたってな。コイツらたぶん気付いてるぞ」


 氷室准尉が逃げ場を完全にふさいでしまったせいで、ぐぬぬとなってしまう大川曹長。


「確かに見えません」


 半ばやけくそで遠藤大尉の問いに答えた。


「つまり曹長よりレベルが確実に上ということだな」


「それやったら特殊部隊でもあしらわれてしまいそうですやん」


 堂島氏が目を丸くさせて驚く。

 特殊部隊と合同訓練でもしたのかな。


「真正面からぶつかればまず間違いなくそうなるだろうな」


 氷室准尉は驚きこそしていないものの呆れをにじませた苦笑をしている。


「きっと彼ら全員が強者だぞ。裏社会の連中ごときがどうにかできる相手じゃねえよ。万が一そういうことになったら報復の方が恐ろしいな」


「そういうことだ、大川曹長。心配しているようなことは起きない」


「どうして断言できるんですか。場合によってはテロの標的になることだってあるかもしれませんよ」


 大川曹長は食い下がる。

 あらゆる危険を排除したいのだろう。

 他人事として放置できないあたりは生真面目な性格で損をしているね。


「それも無理なんじゃないか」


「何故です?」


「隠れ里とやらで異世界の危機から逃れてきた連中が無防備でいるとは思えない」


「同感ですな。現に今回の件で連絡をもらうまで我々は彼らの存在に気付けなかった」


「むしろ張井たちがよく気付けたと思うんだが、どうなんだ?」


 向こうサイドでやり取りをしていると思っていたら急に話を振られた。


「自分の家の庭で違和感を感じたら調べると思うんですけどね」


「そりゃそうだ」


 同意して遠藤大尉はハッハッハと笑った。


「で、どうだったんだ」


「結界を張っていましたよ。ある程度、魔力操作に慣れていないと中に入ることはおろか様子をうかがうこともできないでしょうね」


「物理障壁に加えて認識阻害とかそういう感じの結界がある訳か」


「ちょっと待ってください」


 大川曹長が俺と遠藤大尉の話に割って入ってきた。


「張井さんたちはどうやって中に入ったのです?」


「魔力操作に慣れていないと入れないと言いましたよ」


「大川曹長、中の様子が見えたんだから入ることもできたってことなんだろうよ」


「そうかもしれませんが……」


 釈然としないものを感じているのか大川曹長は微妙に納得できていないようだ。

 結界の中に入れるかどうかの話だけでなく、この一件に関して引っかかりを感じているのだろう。

 何か怪しんでいるのだとしても、こちらは押し通るだけだ。


「現物を見た方が早いでしょうね」


「いいのか?」


 遠藤大尉が聞いてくるが視線の方向が違う。

 見ているのはジェイドたちの方だ。

 そりゃそうか。

 中にいるのは隠れ里の民なんだし。


「かまわぬよ。我らは御屋形様に従うのみじゃ」


「は?」


 さすがの遠藤大尉も呆気にとられている。

 残りのチームの面子もだ。

 御屋形様はないよなぁ。

 対外的に別の呼び方をするようお願いしておくんだったよ。


「張井、何したんだ?」


 氷室准尉が聞いてくる。

 そうなるよね。


「病人が大勢いたから助けただけですよ」


「なにぃ!?」


「病人を助けたって医療行為をしたんですか!?」


 氷室准尉は普通に驚くだけだったが、大川曹長は問い詰めるように聞いてきた。


「魔法で治癒しただけですが、何か?」


「魔法で!?」


「そんなことができるのかよ!?」


 大川曹長も氷室准尉も驚きをあらわにしている。

 一方で遠藤大尉や堂島氏は冷静だ。

 少なくとも表面上は。


「試してみたら上手くいっただけのことです。今後は他にできる人も出てくると思いますよ」


 できれば伏せておきたかったが、これくらいインパクトがあることを言っておけば他のことは有耶無耶にしやすくなるはずだ。

 魔法も最近は使える冒険者が増えてきているし、攻撃だけじゃない使い方があることを知らせておくのは悪いことではないと思う。


「「………………」」


「魔法での治療は法律の適用外だ。それに緊急避難として考えればなんら問題にならんだろう」


 こういう時に柔軟に受け入れてくれる遠藤大尉はありがたいね。

 この調子で隠れ里の民を日本で受け入れてもらえると助かるんだけど。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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