140 それから
結局、ザラタンの件の後始末は俺たちだけで終わらせた。
隠れ里の民には充分に休んでもらうことにしたからだ。
慣れ親しんだ場所を失った上に病み上がりの者ばかりなのはキツいんじゃないかという話になったんだよね。
割と大変だったけど辛酸をなめてきた彼らのことを考えれば苦ではなかったかな。
御屋形様なんて呼ばれて浮かれてしまったのかと思ったほどだ。
不思議なものだね。
深入りするつもりはなかったのに親身になってしまっている。
まあ、いいさ。
あれこれと動く前にwin-winの関係を構築できたのだし。
「それにしてもザラタンの件は運が良かったよねー」
「まあな」
奴を完封して倒せたことだけではない。
ドロップアイテムも各種物品が多数集まったことで隠れ里の民が当面困らずにすむからね。
仕分けするのが大変だったけど。
あとはレベルが35から51まで一気に上がったことかな。
道理であれこれとスムーズに進められた訳だ。
そんな訳でどうにか仕分けも終わらせた後は休んでいたダンジョン攻略を再開。
といっても、隠れ里の民を放っておけないから地元限定でだけどね。
急激にレベルが上がったから調子を見るのに丁度いいんじゃないかと思った自分を過去にさかのぼってぶん殴りたい。
最初がうちのフィールドダンジョンで良かったよ。
あんな光景を他の冒険者に目撃されたら化け物呼ばわり間違いなしだ。
そのくせ日常生活では不都合はないんだよな。
自分でも意味がわからないがダンジョン七不思議くらいに思っておこう。
ちなみに他の七不思議は今のところ存在しない。
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病み上がりの面々も疲れを残さなくなったある日のこと。
俺たちはかねてから計画していたことをジェイドに提案した。
「パワーレベリングじゃと?」
「ああ、そうだ。簡単に言えば魔物をガンガン狩ってレベルを上げようってことだ」
反応が薄い。
というより困惑している。
そんなことをして何になるのかと顔に書いてあったので必然性を感じていないのだろう。
「メリットはちゃんとあるぞ」
そう前置きして説明を始めた。
真っ先に挙げたのが病気にかかりづらくなることと体力もつくから病気になっても早く回復すること。
隠れ里の民にとって、これがもっとも身に染みているだろうから。
現にレベルの低い者ほど回復が遅かった。
それから食料や素材を得る際に労力が少なくなることも重要だ。
レベルが低いと場合によっては命の危険があるし。
俺たちの目の届くところで一気にレベルを上げた方が安全性は高い。
弱いと自立心があっても彼らだけで狩りをさせられないからね。
うちのフィールドダンジョンは強い魔物をポップさせることがあるのでレベルが低いままだとセーフエリアから出られなくなってしまうという事情もある。
「いつまでもダンジョンのセーフエリアで生活が続けられるのか?」
「それを言われると厳しいのう」
隠れ里に潜んでいた頃も外に出られないことでストレスが増して病気になる者が続出したと聞いているし。
まあ、呪いの影響も少なからずあったとは思うが、ストレスがなければもう少しマシだったはずだ。
「レベルが低いまま外には出られないと思ってくれ」
「外はそんなに危険なのか」
ジェイドが表情を険しくさせた。
「誰かが襲ってくるという意味ではないが狙われやすい」
「ワシらの技術が目当てか」
「魔道具を作れる人間がほとんどいないんだよ」
ガラクタレベルなら最近は作れる者が出てきたんだけど、ダンジョン産のものとは比べるべくもない。
「それにこっちの世界ではドワーフもエルフも物語の中だけの存在だから、ものすごく目立つ」
「それは居心地が悪いのう」
「そんな話じゃすまないぞ」
そこからあれこれと説明したが結構な時間を使ってもピンとこないようだった。
テレビとかネットとか無い世界から来るとそういうものなのだろう。
このあたりは教育が必要になりそうだ。
「とにかく一目見ようと人が殺到するくらいは覚悟しておいてくれ」
「御屋形様がそう言うくらいじゃ。シャレにもならん事態になると皆の衆には説明しておこう」
それでどれほど危機感を抱いてくれるかは疑問だが無警戒でいるよりはマシだと思いたい。
この件については不安があったので早急に対応した。
といってもテレビとレコーダーを魔力で動くように魔道具化させて皆に外の世界がどういうものかを見せたくらいだ。
それでも一定の効果はあったみたい。
「食事をするのに行列ができるなんてっ」
「食糧が不足しているんじゃない?」
「暴動が起きないだけマシだな」
「私たちはなんて恵まれているのでしょう」
「御屋形様の庇護下に入れて良かった」
こんな具合に誤解もされたけど。
「あー、それは食糧が不足しているんじゃなくて人気の店に並んでいるだけだから」
この一言で全員が唖然としていたけど色々と見せたら、どうにか納得してくれた。
あと苦労したのはネットの説明だ。
ダンジョンには電波が届かないからね。
どうしたものかと頭を捻って考えた結果が魔力を電波に同調させる魔道具を作ることだった。
これは念話がヒントになっている。
魔力ならダンジョン内に届くんじゃないかということになって試してみたらビンゴ。
変換の手間はかかるのと指向性があるのでズレると受信できなくなるけど、そこは仕方あるまい。
むしろ、他人に知られる可能性が低くなるので歓迎すべきだろう。
徐々にネットに慣れ親しんでいく様を見るのはなかなか新鮮だった。
こういうのは若いほど受け入れやすいのかと思っていたけど、隠れ里の面々は少し趣が違った。
老若男女に関係なく積極的にネットを活用していたからね。
閉鎖的な空間にずっといたせいか外の情報に飢えていたのと探求心の強い職人が多かったことが関係していそうだ。
外の情報を得られるようになるとパワーレベリングの方も身が入るようになったのは嬉しい誤算だった。
最初は1レベル上げるのも一苦労だったんだけど、徐々に意識が変わって平均レベル10前後だったのが25くらいになったほどだ。
モチベーションは大事なんだと痛感させられたよ。
「そろそろ外に出てみるか」
「何とも言えんのう」
ジェイドに外に出る話を振ってみたんだが反応は芳しくない。
「じゃあ、もう少しレベル上げるか?」
「うーん。レベルを上げるのは望むところなんじゃが」
色々と外のことを知って外に出る踏ん切りがつかないようだ。
「出たい者だけ出るという訳にもいかないしなぁ」
うちのフィールドダンジョンに留まった者たちが後で外に出たいとなった時に何処から出てきたのかという話になるからね。
それは最初の面子も同じだろうという話になるかもしれないが、それは隠れ里から出てきたことにするつもりだ。
世界間を漂流したけど隠れ里が消滅したので外に放り出されたというウソとは言い切れないストーリーを用意している。
ただ、隠れ里が消滅したのに追加で出てくるのはおかしいので一斉にということになる。
「じゃあ、真利の土地の一部に結界を張るか」
生活様式が異なるものの家なら空き家がいくらでもある。
どうせ貰ったものだし有効活用させてもらうとしよう。
それでも政府と交渉は必要になると思うけど。
まあ、そのあたりは遠藤大尉たちに頑張ってもらうということで。
丸投げ?
そうとも言うね。
読んでくれてありがとう。
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