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14 呼んだはずが……

 俺と英花は爺ちゃんの家の庭に展開した魔法陣を挟むように向かい合う。

 淡い光を放つ魔法陣に魔力を注ぎ込み──


「「我らの魔力を糧に顕現せよ」」


 2人で仕上げの呪文を紡ぎ出す。

 すると魔法陣が光を強めながら鼓動を思わせるような明滅を始めた。

 その光量がまぶしさを感じるほどになり明滅の間隔が徐々に短くなっていく。

 ついには庭中を明るく照らす光の奔流となる。

 さすがに目を開けていられなくなり腕でかばいつつ目を閉じるしかなかった。


 明るさを感じなくなるまでの時間が長く感じたのは気のせいだろうか。

 実際には瞑目してから数秒ほどしか経っていないようにすら思えるのだ。

 とにかく腕を降ろし瞼を開く。


 展開した魔法陣は残っているのだが、そこから放たれていた光は消えていた。

 ただ、それ以外は何もない。

 召喚したはずの相手がいないのは充填した魔力がスッカラカンになっていることから考えてもおかしいのだが。


「魔力だけ受け取って帰還したのか?」


 英花も俺と同じ結論に達したようだ。

 一からやり直しになるのは勘弁してほしいのだが。

 しかも今回と条件が同じまま──いや、儀式の日数を増やし魔力の総量を増やしたくらいでは二の舞になりかねない。


「何が気に入らなかったんだろうな」


 思わず愚痴めいた疑問が口をついて出る。


「やはり我々のレベルが低いのがダメなんじゃないのか」


「だとすると選り好みされた訳か」


 仕えるべき主人は自分で決める(キリッ)みたいな奴を呼び出そうとしていたとは想定外もいいところだ。


「食い逃げされるとは思わなかった」


 確かにその通りなんだけど言い方ってものがあるでしょうが、英花さん。

 ……泥棒に気を遣う必要も遠慮する必要もないか。


「次に会ったときが百年目だ。覚えておくんだな」


「言っても聞こえてないって」


「聞こえてなかろうが関係ない。我々の何日にもわたる努力を無視した罪は重い」


「それについては同意する」


 とはいえ同じものが再度呼び出されるなど確率的にあり得ないのだが。

 落胆のため息も漏れようというものだ。

 その時、魔法陣の中を風がそよいだように感じた。


「ん?」


 微かに気配がするので目をこらして魔法陣の上を見る。


「どうした、涼成?」


「姿は見えないんだが魔法陣の中に何かいる」


「なんだって!?」


 英花も俺と同じように目をこらし魔法陣の内側の空間に手を伸ばすが空を切る。


「確かにいるな。空気の流れはある」


 通常、召喚魔法が発動した後の魔法陣の内と外では空気の流れは変わる。

 故に外で風が吹いていても内では凪いでしまう。

 今回の場合は逆だけど、要するに別空間だと思えばいい。

 魔法陣を解除すれば内側の空間は元の場所へと送還される。

 この時、召喚の契約が完了していれば相手はその場に残るのだが契約が不成立ならばやはり送還される訳だ。

 今の状況がまさにそれである。


「こんな状態じゃ契約もできないぞ」


 見えないだけではなく相手の意思を確認することすらままならないのだ。

 それができるなら、俺たちが話をしている間に向こうが意思の疎通を図っていたはずである。

 現状でその気配はない。

 もしくは向こうがそうするつもりであっても、俺たちがそれを理解できないんじゃ意味などない。

 せめて姿が見える状態ならば意思の確認くらいはできたとは思うのだけど。

 それでは要求するスペックには程遠いのだけど。


「じゃあ、送還するか?」


 時間と魔力をかけただけに、もったいないとは思うが。


「待て、涼成」


 どうやら英花ももったいないと思っているらしい。


「いま涼成の言葉にすごく反応した」


 魔法陣の内側に手を入れっぱなしだった英花がそんなことを言った。


「偶然じゃないのか?」


「違うらしい」


「どういうこと?」


 サッパリ意味がわからない。


「手に当たる風が左右から交互に当たった」


「器用なことをするものだな」


「それは向こうに言ってくれ」


「そうは言うが契約は無理だろう。隠密行動は余裕でできそうだけど報告がままならないぞ」


 英花からの返事がない。

 なにやら困り顔でこちらを見てくる。


「どうしたんだ?」


「激しく乱れた風が吹いたんだが何を言いたいのかわからん」


 そりゃそうだ。風で音が出せるならいざ知らず無音じゃどうしようもない。


「何か必死な感じだけは伝わってくるんだが」


「妙にやる気のある奴だな」


 それは問いかけではなく単なる感想だったのだが。


「肯定するそうだ」


「風が上下に吹いたのか」


「そうだ」


「イエスノーだけわかってもな」


「また無茶苦茶に風が当たるんだが。何か言いたいことがあるみたいだ」


「意思の疎通ができるとでも言うつもりかよ」


「できるそうだ」


「はあ? どうやってさ。モールス信号でも使えるのかよ」


 だとしても不便極まりない。


「どうもそういうことではないらしい」


「何だよ。普通に会話できるとでも言うつもりか?」


「できるみたいだぞ」


「意味がわからん」


「いや、今の状態のままではダメなのかもな」


「どういうことだよ」


「もしかして召喚が中途半端なところで止まっているんじゃないか」


「顕現できていないって?」


「そのようだ」


「おいおい、これ以上どうしろって言うんだよ」


 魔力はたっぷりと渡したし召喚呪文は魔法陣によって完結している。


「足りないものでもあるんじゃ──、あるそうだ」


「そんなこと言われてもなぁ。今の俺たちに補えるものなんて魔力かゾンビの魔石くらいのものだぞ。あと、食料もか」


「違うそうだ。強く否定された。特に後半」


「魔力は充分で魔石は拒否ってことか」


「そのようだ」


「他に何があるって言うんだよ。髪の毛でも放り込めって言うのか?」


「違う? 違わない? どっちなんだ」


 困惑する英花。

 その反応から察するに複雑な風が吹いたらしい。

 髪の毛でそんな反応を見せるということは体の一部が……


「そうか、血液だ」


 契約で使うことになると思っていたのだが、召喚する段階で必要だったのか。

 俺たちの知識は中途半端だったようだ。


「肯定された」


 やれやれだ。こんなにも手探りで召喚を進めることになるとは思わなかったよ。

 とにかく召喚を破棄しなくて良かった。

 再度、召喚を試みても同じ轍を踏むところだったからね。


 何にせよ血が必要だ。

 解体用のナイフで指を軽く切り魔法陣の内側に手を入れる。

 英花も同じようにして続く。

 魔法陣に血がしたたり落ちた瞬間、中で激しい旋風が吹く。

 特に力を込めていなかったので手は外へと弾き出されてしまった。


 ひとしきり風が舞った後。


「何の変化もない?」


 魔法陣の内側には何者も姿を現していなかった。


「いや、魔力が強まっていく」


 そのようだ。早とちりだったか。

 今の俺たちなど比べものにならないほど魔力の高まりを感じたところで──


 ポン!


 シャンパンを開けたときのような破裂音とバスケットボール大の白煙が上がった。


「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーン!」


 白煙の中から1匹の三毛猫が外連味たっぷりに飛び出してきた。

 くるっと宙で前転し地面に降り立つ。

 器用なことに二本脚で。

 そして起用に片膝をついて最敬礼。


 その姿を見て日本の猫にしては大柄だなとか的外れなことを考えていた。

 突拍子もないというか予想の斜め上を行く変なのが来たために呆気にとられていたんだよね。

 なんかお調子者っぽいし。

 先行きに不安を感じてしまうんだが大丈夫なのかな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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