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139 種明かし?

「あの状況では一か八かだったのはわかるが、どうやったところでブレスは止められんはずだ」


 どうにも解せないと英花がうなる。


「でも、実際は瀕死の状態に追い込んだ」


「意味がわからん。どう考えてもブレスの破壊力は結界を上回っていたはずだ」


「止めたのはブレスじゃないよ」


「なにっ!? どういうことだ、真利?」


 英花の顔が怖い。

 どんだけ必死なんだよ。


「ブレスなんてまともに受けたら、すぐに壊れるってわかってたから正面じゃなくて後ろに結界を展開させたんだよ」


 理解できるか? と英花が俺の方を見てきたので頭を振って返事をした。

 真利との付き合いが長い俺に通訳を求めたのかもしれないが、話の続きを聞かないことにはさすがにわからん。


「ブレスって口の中にできてたでしょ」


「そうだな」


「奥から吐き出してる訳じゃないよね」


「そんなブレスは見たことも聞いたこともないな」


「ああ、私もだ」


 勇者なんてさせられてドラゴンと戦うこともあったけど、奴らのブレスも口腔内に属性が付与された状態で展開することを思い出した。

 体の奥から吐き出すものではない。

 もしそういうことがあるのなら、それはブレスではなく別のものだろう。

 ドラゴンのブレスがブレスで良かった。

 いや、あれは無防備に受けると命に関わるから良くないんだけど。


「だから喉に結界を展開したんだよ」


「はあ? 説明が飛躍しているぞ、真利」


 理解不能だとばかりに英花が頭を振った。


「口の中にブレスの起点ができるから喉に結界?」


「そうだよ。喉の奥まで多重展開させてみたら上手くいったんだよねー」


「つまり、ただの偶然だと言うのか?」


「とっさのことだから賭に出たら上手くいったんだよねー」


 呆れたものだ。

 ブレスの前がダメなら後ろに結界だと?

 英花が困惑するのもよくわかる。

 そんなことをしても何の意味も……


 いや、意味はあるのか。

 ブレスが放たれなかったのは事実だ。

 それどころかザラタンは瀕死の状態となって失神した。

 結果があるなら原因がある。

 理屈はわからないが真利の多重結界がそれであろう。


 そういえば真利が結界を展開した直後、ザラタンがやたらと暴れたな。

 ほとんど身動き取れないせいで足と頭をばたつかせる程度しかできなかった訳だけど。

 あれは何かに苦しんでいたと考えられるのではないだろうか。


「多重展開させるくらいだ。何か根拠があるんだろうな、真利」


 英花も何か考えるところがあるようだ。


「前から思ってたんだけど、ドラゴンとかのブレスってSFで言うところの高エネルギー砲みたいだよね」


「それがどうした」


 英花が不機嫌そうに先をうながす。

 本当に説明する気があるのか不安になったのだろう。


「あれってアニメとかだと発射前のシーケンスでエネルギー充填何%とか言ったりするじゃない?」


「んん?」


 自分の記憶を検索するのに集中するためか、しかめっ面になっていた英花の表情から険が取れた。


「そういうことか」


 なにやら納得している。

 真利のSF感丸出しの説明で理解できたようだ。


「ブレスそのものではなく、ブレスに供給される魔力をカットしたんだな」


 言われてみれば納得の理由である。

 ブレスは発射されようとはしていたが、できはじめの状態だった。

 真利の説明で言うところのエネルギー充填が始まったばかりだったのだろう。

 ならば、そのエネルギー供給を遮断してしまえばどうなるかは考えるまでもない。


「ブレスが発射されなかった理由はわかった」


 そう。謎が解けた問題はそれだけだ。


「ザラタンが藻掻き苦しんだのは何故だ? あまつさえ抵抗できないほど瀕死の状態になるなど考えられん」


「それは私もわかんないんだよねー」


「おい」


「だってー、ブレスを止めようとしたのだって一か八かだったしー」


「それは責められないだろう。あの状況ではそうするしかなかったと思うぞ」


 賭けをするなら結果が0%だと分かりきった方より、どうなるかわからない方に分がある。

 もちろんダメな場合もある訳だが真利は賭に勝ったのだ。


「だが、どうしてザラタンが藻掻き苦しんだのかは解明しておく必要があるぞ」


 今後のことを考えればそうだろう。

 ザラタンとの再戦がないとしても同クラスの敵と戦うことがないとは言い切れないのだ。

 いずれは氷帝竜なんてものがいると言われる北海道にも赴かねばならないだろうし。


「あれは風船が破裂したようなものですニャ」


 それまで部屋の片隅で丸まっていたミケが話に入ってきた。


「なんだと?」


「知っているのか、ミケ」


 思わず何処かのマンガの定番台詞のようなことを口走ってしまった。


「知っているも何も魔力の流れを見ていたら普通に気付きますニャー」


「なんだって!?」


 英花が驚きの声を上げているが俺も似たようなものだ。

 あの時はブレスにどう対処するかで頭がいっぱいだったせいもあって魔力の流れなど追っていなかった。

 いざとなれば霊体化して逃げられるミケだから冷静に観察できたのだろう。


 そして、ミケの口ぶりからすると魔力が関係しているようだ。

 ザラタンがブレスに注ぎ込もうとしていた魔力が防がれたのは奴にとっては想定外ではあっただろうが、そこに大ダメージにつながる何かがあるだろうか?

 ブレスに注ぎ込まれようとしていた魔力が莫大な量に及んだのであろうことは容易に想像がつく。


 しかしながら、それが奴のダメージと何の関係があるというのか。

 ブレスの不発が魔法の暴走状態のようになったとは考えづらい。

 それならば奴の口の中で大爆発を起こしていたことだろう。

 実際はカスカスの状態のものが漏れ出たと思われるだけである。

 そもそも魔力の流れから切り離されているので何の関係もないはず。


 ん? 魔力の流れ、か。

 ミケは風船が破裂したようなものと言ったよな。

 それって魔力が気体や水のかわりになったということか。

 ザラタンの見た目が変化したようには思えなかったが、内部がズタズタだったのかもしれない。

 ただ、今ひとつしっくりこない。

 ブレスの発射前とはいえ供給が止められた魔力がどう奴の内部を膨張させるのか。

 そこが謎だと考えたところで──


「そうか、そういうことか」


 何かに気付いたように英花が呟いた。


「ザラタンがバカで良かったな」


 クックックと喉を鳴らして笑う英花。


「どういうことだ?」


「ブレスが発射できなくなったのに無理に放とうとしたんだよ」


「はあっ? それってせき止められたにもかかわらず、さらに魔力を流し込もうとしたってことか?」


 さすがにバカすぎる。


「脳筋の極みだろう、それ」


 そうとしか言い様がない。


「呪いのせいでおかしくなっていたのか元々かは知らんが、そういうことだな」


「なんにせよ、ドラゴンが相手でなくて良かったよ」


「そうなの?」


 自分の説明後は黙って話を聞いていた真利が聞いてくる。


「知恵が回らず魔法も使えん亜竜ならともかく、ドラゴンが同じ状況に追い込まれた時に力業だけでどうにかすると思うのか?」


 英花が問い返す。

 ドラゴンがザラタンと同じように喉の奥にまで結界を展開されるとか考えられないんだが、そこはたとえ話なのでスルーだ。


「そっか。結界に干渉してキャンセルされちゃうよね」


 という訳で俺たちがザラタンに勝てたのは運が良かっただけだということが改めて証明されてしまった。

 薄氷を踏む思いというのを終わってから味わわされるとは夢にも思わなかったよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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