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131 治療の次に進むのも一苦労

 最初の重症患者は悪性腫瘍が全身に転移したドワーフの中年男性だった。


「ああ、こりゃ酷い」


「よく今まで長らえたな」


「きっと気力だね」


 体力が回復したとしても痛みまで取り除けるものではない。

 さっそく治癒魔法を使う。

 魔法を重ね掛けして念入りに腫瘍を消していく。

 それなりに時間はかかったが魔力の消耗はさほどでもなかった。


「英花、真利、確認頼む」


 腫瘍を消し終わったところで2人に問題がないか診てもらう。


「涼成、腫瘍は消えているが病的に痩せたままだぞ」


 英花が指摘するようにドワーフは種族のイメージにはそぐわないほど骨と皮ばかりの痩せ細った姿であった。

 治癒魔法を使う前よりも痩せているのだが、これは腫瘍をすべて消滅させた影響である。

 おかげで血色もよろしくない。

 より病気が悪化したと思われてしまいそうである。


「ダメダメだねえ。腫瘍を消しただけで終わらせちゃ治療したなんて言えないよ」


「俺は治療が完了したとは言ってない。腫瘍を残したままポーションは使えんだろうが」


 抗議をしても、まともに取り合ってもらえないのがイラッとする。

 が、腫瘍は残っていないことが確認できたのでポーションを全身に垂らしていく。

 肉付きが少し戻り血色も良くなったが健康だった頃と同じくらいにまで回復するほどの代物ではない。


 出し惜しみと言われそうだけど、効果の高いポーションは簡単には作れないからね。

 それに目覚めさせて問題ないぐらいには回復している。

 という訳で、このドワーフを強制的に眠らせていた魔法を解除し目を覚まさせる。


「こ、ここは……」


「ようやく起きたか、この寝坊助が」


 ジェイドの台詞と表情が合っていない。

 どうやら身内のようだったのでアイコンタクトで皆をうながし外に出た。


「この調子でいくぞ」


「次は私の番だな」


 英花が重い雰囲気を漂わせている。

 今の再会シーンに感じ入るところがあったようだ。


「その次は私だよ」


 真利もか。


「ん」


 何故か紬までもがやる気になっていた。

 こうなると……


「ニャーも立候補するですニャ!」


「私もやった方が良いのでしょうか」


 やけに張り切っているミケと自分だけが仲間はずれになることが不安だったのか尋ねてくるリア。


「好きにすればいいさ。それよりも急ごう」


 より重症である者から治療していくとはいえ、思った以上に酷いからね。

 そんな訳で次の患者の元へ向かった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 全員の治療が終わる頃にはとっくに夜が明けていた。


「夜通しかかったな」


「仕方あるまい。2百世帯すべてを回ったのだからな」


「むしろスピード解決じゃない?」


「そこは徐々に症状が軽くなっていったからではないですかニャー」


「ん」


 一仕事終えたからか、まったりした空気が流れている気がする。

 後先を考えなくてすむのが大きいと思う。


「とりあえず帰ってご飯にしませんか」


 リアが提案してきた。


「そうだね。眠気より空腹の方が堪えるよー」


「私も賛成だな。食べてから寝ると太りそうだが今日くらいは構わないだろう」


「魔王様はそういうの気にしないと思ってましたニャ~」


「何だと」


「これは失言でしたニャン」


 ジロリと睨まれたミケがペコペコと謝っている。

 それを見て苦笑してしまう余裕があるのは良いことだ。

 最初に治療してからは、ずっと重苦しい雰囲気だったからね。


「そういうことなら広場でバーベキューでもしようぜ」


「えーっ、朝っぱらからー?」


「涼成、それはどうかと思うぞ。隠れ里の面々に配ることを考慮してのことなのだろうが、病み上がりの相手には消化に良いものを出すべきだ」


「うっ」


 俺の提案は微妙な空気で却下された。

 英花の言う通りなので反論の余地はない。


「流しそうめんとかどうかなー」


「器材を今から用意するのか?」


「そうめんは消化には良いかもしれないが体が冷えるぞ。病み上がり向きのメニューじゃないな」


「あう」


 俺の意見に否定的だった真利も撃沈しているけどね。


「そういうことなら、煮麺はどうでしょうか」


 今度はリアが提案してきた。

 渋いものを知っているな。

 いつの間にそんな知識を身につけたんだろう。

 まあ、ダンジョンコアをいくつも吸収してパワーアップしてるし、ダンジョンと真利の屋敷を管理する以外は暇だから時間を持て余してはいるのか。


「いいんじゃないか。そうめんを湯がくところまでは同じだし」


「ふむ、悪くないかもしれんな。煮麺ならばフォークも使えるだろう」


 そうだった。

 俺はすんなり賛成していたけど箸を使える前提で考えてしまっていたな。


「では、広場へ参りましょう」


 リアが先導する形で爺ちゃんの家の前に新たにできた広場へと向かおうとした。


「待ってくれ」


 ネモリーに止められてしまいましたよ?


「なんだ、どうした?」


「もしかして我々の食事まで用意しようとしてくれているのか」


「もしかしなくてもそうだけど?」


「何故だ?」


 つい、条件反射で「坊やだからさ」と答えそうになったけれど、このネタが異世界人にわかるはずもない。

 それ以前に一般人にもわからんな。


「理由が必要か」


 俺が脳内で一人ツッコミをしている間に英花が問い返していた。


「そこまでしてもらうものが我らにはない」


 生真面目くんだね。


「乗りかかった船だからな」


 英花の返答に困惑の表情を浮かべ首をかしげるネモリー。


「日本語特有の言い回しはさすがに分からないんだろうよ」


「ああ、なるほど。普通に話せているから大丈夫だと思っていた」


 俺の指摘で英花も気付いてくれた。


「ひとたび関わった以上は途中で投げ出すことなどできぬという意味だ」


 説明を受け言葉の意味を理解したネモリーだったが。


「だからといって、そうですかと言える訳がなかろう」


 納得できるものではないと言ってくる。

 面倒くさい男だ。


「ジェイドは借りられるだけ借りておけと言ったし、お前も了承していただろう」


「ここまでのことだとは思っていない」


 どうにも頑なだ。

 このままだと、ずっと平行線をたどりそうだから俺も参戦するとしよう。


「借りを返すのは無事に脱出できてから考えても遅くはないとジェイドが言っていただろう」


「っ」


 ネモリーは言葉に詰まるが、それでも考えを曲げるつもりはないようだ。


「そういうのはジェイドに言ってくれ。俺たちはやりたいようにやるだけだ」


「なんだと」


「自己満足のためにやっているんだから好き勝手にやるのは当然だろう?」


 この問いかけにはネモリーも絶句してしまう。

 何しろ、お前の意見は聞いてないをストレートにぶつけたからね。


「じゃ、そういう訳だから」


 ネモリーを置き去りにする格好で俺たちは広場へと向かった。

 全員がネモリーの横を通り過ぎてからしばし、ようやく我に返ったネモリーが慌てて追いかけてくる。


「だからと言ってだな」


 歩きながら突っかかってくるが知ったことではない。

 ネモリーの話を聞くのが面倒なので徐々に早足になっていく。


「拒否されようが俺たちはやるだけだ」


「いや、しかし──」


 ゴスッ!


 ネモリーが何かを言いかけたところで鈍い音がした。

 そして、ドサリと崩れ落ちる音が耳に届く。


「は?」


 思わず足を止めてしまった。

 他の皆もだ。

 振り返ってそちらを見ると最初の治療で置き去りにしたジェイドが脱力したネモリーを担いでいた。


読んでくれてありがとう。

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