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130 回復させます

 リアによるダンジョン間転移引っ越しは滞りなく終了を迎えた。


「これは……」


 ネモリーが何かを言いかけて言葉を失っている。

 理由はなんとなく想像がつく。

 思っていたのと違う結果になったからだろう。

 別に隠れ里から転移させた家を魔改造したとかではないんだけど。


 ただ、変化はある。

 隠れ里では家々が田舎の農村を思わせるような配置で並んでいたところをガラリと変えたのだ。

 爺ちゃんの家の前にちょっとした広場を配し、その周囲にマス目状に家を置いた。

 区画整理された街を彷彿とさせる並びになっている。

 元は1本のうねりがある道の両サイドに家が配されていたので並びが変わってしまうのは仕方がない。


 そのせいでネモリーが何も言えなくなってしまうほどの違和感を感じさせた訳だ。

 こうなるようにリアに指示を出した結果ではあるので反省はする。

 事前に説明すべきだった。

 が、結果に後悔はない。


「しっかりせんか」


 バシッ!


 ネモリーは腰のあたりをジェイドに平手打ちされた。


「うわー、痛そー」


 真利は言いながら背中を丸めて首を引っ込める。

 叩かれた当人も体を仰け反らせて顔をしかめながら振り向いた。


「痛いじゃないかっ」


 抗議するのも当然だ。


「いつまでも呆けておる方が悪い。ワシらは皆の代表なんじゃぞ」


「だとしても、そこまで力を込める必要はないだろう。馬鹿力め」


 歯を食いしばり顔をしかめたままネモリーは腰をさする。

 どんだけ力を込めたんだよ。


「これくらいせんと目が覚めんかったわい」


「そんな訳あるかっ」


 右に同じだ。

 叩かれたのがレベルを上げていない一般人だったら確実に腰の骨を折っていただろう。


「2人とも、そのくらいにしてくれないか」


 英花が間に入るとジェイドは素直に頷いて引き下がった。

 一方でネモリーはというと……


「しかしなっ」


 今度は英花にも食ってかかる始末である。


「仲間の治療を優先すべきではないか?」


「ぐっ」


 淡々と反論されて言葉に詰まるネモリー。


「納得はできんだろうが、その痛みは我を失ってしまったことへの戒めだと思っておくのだな」


 そう言われてしまうと不服そうだった顔が意気消沈していく。


「わかった」


 言いながらネモリーは治癒魔法を使っている。

 そこまで痛かったとは予想以上だ。

 あれでよく吹っ飛ばされなかったものだな。

 インパクトの瞬間に腕の振りを止めたというのもあると思うが、あの調子では芯に残るダメージになったかもね。


「じゃあ、始めるね」


 そう言い置いてから真利が治癒魔法を使い始めた。

 すぐには完了しないが、これは範囲指定して魔力を全体に行き渡らせるためだ。


「ここでじゃと?」


 魔法にはあまり詳しくないのだろう。

 ジェイドが訝しげに真利を見る。


「あれは本来は接触で使用する回復の魔法を広い範囲に行き渡らせているのだ」


「そんなことが可能なのか?」


「桁違いの魔力と並外れた制御力があって初めて可能な芸当だ」


「ふうむ。人見知りをこじらせた嬢ちゃんもエキスパートなんじゃな」


「人見知りと魔法の腕前には関係がないだろう」


「腕前はともかく保持しておる魔力は桁違いであろう?」


「それはそうだが何の関係がある」


「ただの引っ込み思案な者がそこまでレベルを上げることができると思うか。並大抵のことではないぞ」


 どうやらジェイドは真利の非凡さに気付いているな。

 言われたことでネモリーもハッと気付かされたようだ。

 まじまじと真利の方を見て思った以上に実力差があることを認識したのかブルリと身震いした。


「運が良かったのう」


「何がだ」


「お主、特大の火球をぶつけようとしたじゃろ」


「うっ」


 それを蒸し返すのかと恨めしげな目でジェイドを睨み付けるネモリー。


「アレをあっさり消して見せた涼成。ワシらをここまで転移させた英花。皆の家を運んだリア。そして桁違いの魔法を使う真利。その彼らが召喚した精霊や妖精がただ者であるはずはなかろうて。誰が相手でもワシら2人では太刀打ちできんぞ」


「ぐっ」


 ネモリーはぐうの音も出ないとばかりに呻いたが、そこまでとは思えない。

 この2人が万全の状態なら無傷で完封することは困難なはず。


「これを運が良いと言わずして何と言う?」


 俺の見立てとは裏腹にダメ押しの言葉をぶつけられたネモリーは見事撃沈。

 丁度そのタイミングで真利の魔法が発動した。


「おおっ、力がみなぎってくるようじゃの」


 範囲魔法だからジェイドたちも影響下にある。

 当然、その効果の恩恵にあずかる訳だ。

 ジェイドがはしゃいだ様子を見せるのも無理からぬことか。

 ネモリーが無口になったままなのはジェイドから受けた言葉のダメージが残ったままなのだろう。

 さすがに真利の魔法でも、こればかりは治せない。

 いま使っているのは精神関係には効果を発揮するものではないからね。


「第1段階、終了だよ」


「御苦労」


 英花が短くねぎらいの言葉を真利にかけ、俺は無言でうなずいてみせた。

 小さくガッツポーズする真利。

 今の魔法で全員が完全に治癒したのであれば手放しで喜んだのだろうけど、残念ながら続きがある。


「これで終わりという訳ではないのじゃな」


「今のは衰弱した皆の体力を回復させるだけの魔法だからな」


「なるほどのう。じゃが、範囲魔法でそれをやってのけるなど普通ではあるまい」


 何処までを普通とするかにようるんじゃないかな。

 言いたいことはわからないではないけど。


「そうでもない。今のはネモリーにもできるんじゃないか」


「無理だ」


 ギョッとした顔で即刻、否定されてしまった。


「皆、衰弱しきっていた。これ以上弱るのを防ぐのが精一杯で回復させるなどとても……」


「呪いの影響があったからだろ」


 俺の言葉を受けたネモリーは訝しげにこちらを見てくる。

 何を当たり前のことを言っているのかと顔に書かれていた。


「こっちへ来る前に隠れ里全体を浄化したのを忘れてるぞ」


「それが?」


 まだわからないらしい。

 どうやら浄化は時間稼ぎのためだけに行ったと思い込んでいるみたいだね。


「呪われているから回復の効果が大幅に減衰していたんだよ」


「あ……」


 ようやく疑問が氷解したようだ。


「体力がある程度回復したら、後は病気にかかっている者たちの治療だな」


 これはさすがに範囲魔法では解決できない。

 全員が同じ病にかかっているなら話は別だが、隠れ里の皆が罹患している病はまちまちだ。

 呪いによってランダムにもたらされたものだからね。


「ここからは個別に見ていく」


 まずは重篤な症状の者からだ。

 せっかく回復させた体力が今も削られているから急ぐ必要がある。


「すまないが誰の家がどこにあるかわからんから案内できんぞ」


 どうやらネモリーは全員の具合を正確に把握していたようだ。

 かといって引っ越す前に治療するという選択肢はなかった。

 一時的に解呪したとはいえ隠れ里は呪いを受け続けている状態であり、それは病に伏している者たちも同様だ。

 治癒の魔法に相応の威力があっても受ける側が呪いの影響下にあると十全に効果を発揮できないからね。


「案内は不要です」


 そう答えたのはリアだ。


「なにっ!?」


「転移する際に全員の状態を把握しています」


 つまり、リアに任せておけば順番に案内してもらえるって訳だ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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