121 遠征ふたたび・攻略も観光も
さらに次の日は名古屋市内の他のダンジョンを回った。
4日連続だと何を言われるかわかったもんじゃないからね。
幸いにも面が割れるようなことはなかったようで何も言われずに入場手続きを取ることができた。
まあ、規模の小さいダンジョンだったのでサクッと掌握したのは言うまでもない。
時間に余裕があるので次のダンジョンへと向かい、同じように掌握。
これの繰り返しだった。
ほとんど作業感覚である。
「1層しかないとこは薄味だね」
真利がぼやくように言った。
「しょうがないさ。普通はそういうものだからな」
「普通じゃないダンジョンもあるんだ」
英花の慰めに引っ掛かるとは、よほど退屈しているんだな。
「何事も例外はあるだろう。真利が食いつくような話じゃないぞ」
「だってー」
プクッと頬を膨らませる真利だが、それにも理由がある。
「そんなことより魔神様の噂が広まってしまっているようだな」
「それを言わないでよ、涼ちゃーん」
真利が泣きそうな顔をした。
無理もないというか何というか。
何処に行っても冒険者には完全に怯えられていたからね。
「でも、受付の人は大丈夫だったじゃないか」
「何の慰めにもなってないよー」
真利の泣き言は続く。
「下手したら大阪より酷いんだよ。間近でビクビクされるのって思った以上に疲れるもん」
「そいつは御愁傷様だ」
「もー、他人事だと思ってー」
軽口を叩ける程度の状態なら心配しなくても大丈夫だろう。
あまりにメンタルに来るようなら考えねばならないが。
「仕方あるまい。ここの連中とは親しくなっていないからな」
どうやら英花は慣れの差だと言いたいようだ。
これも何の慰めにもなっていないけどね。
「何なら今からでも地元の冒険者に声をかけるか?」
「やめてよー」
英花の提案に真利の泣き言が続く。
「やめてやれ。真利にはハードルが高すぎる」
「む、そうか。すまない」
「いいけど」
こんな感じで緊張感の薄い話をしながらダンジョンを掌握していった。
フィールドダンジョンもいくつか攻略したが、やはり薄味だ。
今まで通りダンジョンコアを回収して消滅させるので手強いかどうかはどっちでもいいけどね。
ただ、フィールドダンジョンではリアがパワーアップしたことで得た新しい能力を用いることになった。
新しい能力により固体のように触れることができる特殊な魔力の塊を生成できるようになった。
俺たちはコアもどきと呼んでいる。
その名から推測できると思うがダンジョンコアの代わりをするものだ。
ダンジョンコアの情報を読み取らせて置き換えることでダンジョンを維持させることが可能になる。
ダミーコアとは違ってそれに特化しているので遠隔操作などはできない。
おまけに込められた魔力を消費しきると崩壊するので最終的にダンジョンが消滅することは避けられない。
何の意味があるのかと言われると、アリバイ作りかな。
俺たちがいる間にフィールドダンジョンが消失してばかりいると関連性を疑われてしまう恐れがあるからね。
ランダムで1~6ヶ月くらいで消えれば多少の誤魔化しはできると思う。
あまりに規模が小さいのは問答無用で潰したけど。
数日の間そういうことをしていたある日、統合自衛軍が名古屋の街から撤収していった。
来た時と違って物々しい雰囲気はなかったけど慌ただしい感じはあったね。
キビキビしていたと言うべきかな。
おかげで街の人たちはポカーンとした感じだった。
誰も彼もが何だったんだと首をかしげながら憶測まじりでああでもないこうでもないと話していたのは仕方のないことなんだろう。
スタンピードの発生を懸念して集結していたものの何もなかったので撤収しただけなんだけどね。
もちろん、そう推理する者も少なからずいたけど証拠がないので噂レベルの話で終わっていた。
真相を知っている俺たちからすると、ようやく帰ってくれたかというのが本音である。
今の今まで落ち着いて観光できなかったからね。
名古屋城だって統合自衛軍が陣取っていたせいで上の城にさえ入れなかったし。
ダンジョンの方も遠藤大尉たちと別れてからは入場できずじまいだったんだけどさ。
そんな訳で最初に行ったのは名古屋城である。
これは真利のリクエストだ。
「前に見たテレビの番組で色々と語られたうんちくが面白かったんだよ」
サングラスとオールバックがトレードマークのオジさんがアシスタントの女子アナと散歩感覚でテーマの街を巡りながら色々と知識を得ていく番組だな。
俺はあまり興味がなかったので見ていないんだけど、知らないが故に真利の解説が楽しめた。
「城は深いな」
「うむ、興味深かった」
俺だけでなく英花も楽しめたようで何よりだ。
そして次の日は熱田神宮に行った。
「神社の境内に鶏がいるらしい。この目で見てみたいものだ」
という英花のリクエストによるものである。
「その鶏は神使だよ、英花ちゃん」
「シンシ? ジェントルマンではないよな。鶏とは何の関係もなさそうだし」
「神の使いと書いて神使だよ」
「なるほど。狛犬などのリアルバージョンなんだな」
「どうなんだろう? そこまで詳しくないからわかんないよ」
俺も知らないけど気にしてもしょうがないだろう。
実際に行ってみると境内に鶏がいるという光景はなんだか不思議な感じだった。
あと宝物館で刀を見てきたよ。
特に印象に残ったのは大太刀かな。
とにかくデカくて、あれはもはや太刀の形をした槍だと思ったね。
翌日は俺のリクエストの番だったんだけど水族館と迷ったあげく東山動植物園にした。
「猫三昧だ」
「いや、他にも動物が沢山いるだろうに」
「サーバルとツシマヤマネコとマヌルネコは必見なのだよ」
「涼ちゃん、虎とかライオンもネコ科だよ」
「当然見るが可愛いに勝るものなしだ」
「大阪の天王寺動物園ではホッキョクグマが良きとか言ってたよね」
「あれは豚まんのキャラクターにもなったことがあるからだぞ」
「残念でしたー。モデルになったホッキョクグマは別の動物園に行っちゃったよ」
「なんだと!?」
驚愕である。
「まあ、いいや。今日は猫三昧で癒やされに来たからな」
「意味わかんない」
「他にも動物が沢山いるだろう。なんなら植物園もあるじゃないか」
「植物園に興味があるなら行くけど?」
「いや、こだわりはないから構わない」
ということで猫カフェでは補充できない猫成分を堪能させていただきましたよ。
一応は一通り回ってきたので猫だけで終わりということにはならなかった。
「ゴリラは迫力があったねー」
「動物としてみれば確かにそうだな」
「英花ちゃんは何が良かったの?」
「狼だな」
「そうなんだ」
真利と英花も楽しめたようで何より。
趣味に走りすぎて2人を振り回したんじゃないかと少々不安だったのでね。
翌日は再びロゴランドダンジョンの攻略だ。
マッピングは完璧だし、後は守護者を倒すのみ。
前回は素材優先で狩りをしていたから守護者にまで手が回らなかったのだ。
手続きを済ませて入場し3層へとまっしぐらに向かう。
それでも魔物と不意の遭遇戦は避けられなかったけれど、そこは素材を回収しておきましたとも。
手ぶらで帰ると変に思われるし守護者の素材は提出できないからね。
なんにせよ最短で守護者の間の前まで来ることができた。
さて、どんな魔物が守護者なのかな。
読んでくれてありがとう。
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