120 遠征ふたたび・今日もロゴランドダンジョン
翌日にはロゴランドダンジョンの攻略を本格的に開始した。
2層の魔物はベジトレントで3層はフルーツトレントという具合にトレント系である。
ベジトレントは野菜類を生やした人間より少し背の高い広葉樹という変わり種のトレントだ。
トレント系ではもっとも脆いと言われている。
木の実の代わりに野菜がなっているのと何か関係があるのだろうか。
このあたりのことは異世界の書物にも書かれていなかったのでわからない。
そもそも木に野菜がなるという時点で違和感がハンパないのだ。
まあ、魔物に常識など当てはまらないと思うしかあるまい。
「ホント不思議だよねー」
「気持ちはわかるが侮るなよ、真利」
「うん、魔物だもんね。紙装甲だけど攻撃力はちゃんとあるし」
マッドビーンよりは与し易いが、真利はちゃんとわかっているようだ。
「その通りだ。飛び道具がないことに油断しがちだが手数も多い」
枝はすべて自在に動くので単体で複数の敵と戦える魔物だ。
木なのに枝は伸縮自在とか意味不明レベルである。
これは他のトレントでも言えることなんだけど。
このため手数の多さを考えると油断していい相手ではない。
「だよねー。さっきからすごく鬱陶しいし。素材が素材じゃなければスルーしたいよー」
「我慢しろ。今日は野菜を集めると決めたからな」
3人で相談して決めたことだ。
ロゴランドダンジョン2日目にして、すでに目立っているので自重した。
「それよりも、ここの連中だろう。何なのだ」
地元冒険者たちに対して不満が爆発寸前になってしまっている英花である。
「大阪の人たちと違うよね」
真利も引っ掛かる部分があるみたいだな。
大阪の方が馴れ馴れしい感じで迫ってくるから苦手にしていたのに、これである。
とはいえ本能的に感じ取っていた部分はあるのかもしれない。
「昨日の初戦が撮影されていた影響だろうな」
そう告げると、2人はギョッとした目で俺を見てきた。
「どどどどういうこと、涼ちゃん?」
焦っているのが丸分かりな真利である。
「どういうことも何もスマホ使ってたからな」
千里眼スキルで確認しているので間違いない。
「どうして止めなかったんだ、涼成」
「止めたら怪しまれるだろ。背後からの撮影だから顔は映ってないしな」
「そんなことを言っている場合か」
「動画をネットに上げるかもしれないが、それで反応が見られるなら儲け物かと思ったんだよ」
「どういうことだ?」
「2人は世間との感覚にギャップがある気がしないか?」
「あるよ」
「それは否定しない」
「その差がどの程度のものなのかを確認したくてな」
「それは私も興味があるが、せめて一言あってしかるべきだろう」
「いや、スマン」
すっかり失念していたのは反省しなければならない。
「今日は来ていないよね」
真利は後ろを振り返ってキョロキョロしたがいるはずがない。
昨日の冒険者たちが今日も俺たちの後をつけているなら、それはもうストーカーであることを疑わねばならない事態だ。
「怖いことを言うんじゃない、真利」
英花がドン引きしている。
それでもベジトレントの枝攻撃を軽くさばいて切り落としていた。
何気ない感じで喋ってはいたが普通に魔物と戦えているので問題はないだろう。
今日のこれも撮影されていたら、どんなことになるのか気にはなるけどね。
何だかんだで何度目かのベジトレントとの戦闘も終わった。
ドロップアイテムになったので回収していく。
今回はニンジンと大根だ。
「根菜類が木になっているなんてホント不思議だよー」
「さっきはキャベツとか白菜だったな」
「帰ったらしばらくスーパーに行かなくていいよね」
「それはやめておけ、真利」
「えっ、どうして?」
「我々は自衛軍にマークされているはずだ」
「普段の生活が変わったら変に勘繰られるかもしれんからな」
「そっか。そこまで考えてなかったよー」
俺も昨日の件でやらかしているから、ちゃんと考えろとは言えないな。
とにかく、その日は2層を隅々まで回って終了。
時間的にはかなり余裕があったけど、残りは他の小さなダンジョンに顔を出すなどしたので暇になったりということはなかった。
統合自衛軍がいまだ駐留しているので観光は選択肢としては選べない状況だ。
ピリピリした空気が名古屋市内に蔓延しているとでも言えば良いのか。
そのうち街中で自衛軍の兵士を見かけることも少なくなっていくだろうとは思うので、観光はその時だな。
ただ、食事には妥協していない。
昨日の晩ご飯は味噌カツで夜食として天むすを買ってきてキャンピングカーの中で頬張った。
今夜はひつまぶしの予定だ。
明日以降はきしめんや味噌煮込みうどんを食べようという話になっている。
なお、朝食は色んな店でモーニングを堪能すると決めている。
もちろん今朝も食してきた。
その店のトーストは小倉トーストだったのでインパクトは抜群。
帰るまでにもう一度行ってみたいとは思う。
次の日はいよいよロゴランドダンジョンの3層攻略だ。
「今日も来たんですか!?」
受付の人には驚愕されてしまいましたよ。
休めば良かったかもしれないと思ったが後の祭りである。
「何か問題でも?」
内心ではしまったと思いつつも表面上は平静を装う。
「いえ、問題はないんですが……」
どうにも歯切れが悪い。
それでピンときた。
「ここに来る前は大阪市内のダンジョンで同じようなペースでやって来ましたから問題ないですよ」
そう言うとギョッと目を見開いて絶句していた。
そんなに仰天するほどのことでもないと思うのだが。
なんにせよ、ここで油を売っていても時間を無駄にするだけだ。
受付を済ませた俺たちはダンジョンへと向かった。
1層、2層と適度に戦いつつ先を目指す。
前日のうちに3層へといたる階段は見つけてあったので寄り道せずに先を急いだ。
途中で何度か冒険者チームとすれ違ったけど例外なくビビられてしまった。
軽く挨拶をしたらぎこちなくも挨拶を返してくれたのでPKに間違われたとかはないと思う。
謎だ。
「何だったんだろうな?」
「例の動画が出回ったせいじゃないか」
英花が直感的な推理を披露する。
「あー、そうだよねー」
真利が賛同したが、それほどだろうか。
「あそこまでビビられるほどじゃないと思うけどな」
「気のせいかもしれないけど私が一番怖がられてた気がする」
「気のせいではないと思うぞ、真利」
その点については俺も否定はしない。
「なんだか嫌な予感がするよ」
真利がズーンと落ち込んだ顔を見せている。
この様子では下手に慰めても効果は見込めまい。
「むしろ確信だろう。そうであってほしくないと思うから予感などという言葉を使うのだ」
「それを言わないでよー」
さらに落ち込む真利である。
「自分でもわかっているではないか」
「まあねー」
「やはり大阪の誰かが動画を見て喋ったのだろうな。魔神様のことを」
俺もそうだとは思うけど拡散するスピードが速すぎないか?
思った以上に横のつながりがあるのかもしれない。
「もしかすると知っている奴かもしれん」
そんなことを言い出したのは英花だった。
「えー、誰なのー?」
「フグを食べに行った面子の1人だ」
「憶えてないよー」
そりゃそうだ。
あの時の真利は人見知りモードを全開にしていたからね。
「俺も記憶にないな」
「話し込んだうちの1人に、よそで冒険者をしているいとこがいると言っていた」
そいつだね、きっと。
ただ、それがわかったところで事態が好転する訳ではないのだけど。
読んでくれてありがとう。
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