12 ゾンビエリアは広かった
5日目の探索は再び南方向から始める。
マーキングした場所に転移して日暮れまで距離を稼いでマーキング。
翌日からは方位を変えて同じことの繰り返し。
転移するためスタート地点が違うだけで4日目までとやることは変わらない。
偵察ゴーレムを先行させて周辺の状況を把握しやすくなったのはあるかな。
何か反応があれば千里眼のスキルを使い偵察ゴーレムのセンサーと同調させて状況を確認する。
定期的に休憩を挟んで確認する従来のやり方よりも無駄が少ないので進行スピードは上がったかな。
とはいえ朝早くから森の中を走りっぱなしじゃ腹も減る。
そんな訳で昼休憩を取って探索を一時中断。
「米が食いたいなぁ」
「同感だ」
異世界で手に入れた素材の中にはなかったから4年は食べていない。
英花などは俺以上である。
魔王になる呪いをかけられていた間は意識がほぼ無いに等しい状態だったそうなので、勇者として活動していた期間しかブランクは感じないそうだが。
いずれにせよ年単位のことなので充分に長い。
米を渇望するあたりは、やはり日本人だなと思う。
「っ!」
不意に俺たちよりさらに南進している偵察ゴーレムから送られてくる信号に変化があった。
今までのようにゾンビを発見したときとは異なる警報だ。
数が多くても個々の魔力に反応するように設定しているので警報信号は出ない。
おまけにゴーレムは停止するだけではなくゆっくりと後退している。
「どうした、涼成」
俺の雰囲気が変わったことに気付いた英花が尋ねてくる。
「偵察ゴーレムがヤバそうなのを発見したみたいだ」
「なにっ」
「待ってくれ。千里眼で確認する」
偵察ゴーレムとの同調を高めゴーレムを俺の思念で制御する。
センサーから伝わってきた映像はまだ昼だというのに日が沈んだ後のように暗かった。
奥の方はもっと暗くて見通せない。
密林の中とはいえ、これは明らかに異常事態である。
「暗くて奥が見えないな」
「ゴーレムを進めてもか?」
「いいや。自動で後退してたくらいだから瘴気が濃いんだと思う」
「ボスクラスの何かがいるってことか」
英花が腕組みをして考え込み始めた。
「もしくはダンジョンコアがあるか」
それは同時に守護者と呼ばれるボスがいることを意味する。
今の俺たちには荷が重い相手のはずだ。
「いずれにせよ撤退だな」
腕組みを解いて英花が断言した。
「今の我々ではレベルも準備も足りない」
「そうだなぁ。レベル上げて武器もゲットして隠密性の高いゴーレムを作って偵察して対処可能か判断って流れになるか」
「いったん外に出ることも考えた方がいいんじゃないか」
「それなんだけど、たぶん出られないぞ」
「どういうことだ?」
訝しげに問うてくる英花。
「ここが地元じゃなくて密林のある別の場所だと考えた場合、相当な広さになるだろ」
厳密に言えば俺の地元じゃなくて爺ちゃんの地元なんだけど話がややこしくなるので、そういうことにしておく。
「あー、それは違ってほしいね」
「もし元の場所にこのダンジョンが展開していたとしても空間拡張がヤバいレベルだと思う」
程度の差はあれダンジョンが実際の空間より広いのは常識である。
「絶望的な話だな」
「いや、そうでもないかもしれないぞ」
「どういうことだい?」
「あくまで可能性だけどダンジョンコアが無理して空間拡張しているとしたら?」
「リソースが足りずにボスが弱体化しているかもしれないな」
「と思った訳だ」
とにかく奥まで敵を侵入させたくなくて外からの侵入を困難にする方法としては広い密林は効果的だ。
ダンジョンコアを隠すという意味でもね。
「だから入念な準備をして攻略って訳か」
「まあね。探索もしないとダメだとは思うけどさ」
いま述べたことは、なんとなくそうじゃないかと思ったことであり根拠など1ミリもない。
外れることだって充分に考えられるのだから従来通りの方針も継続すべきだろう。
「それなんだが」
ふと気付けば英花が思案顔になっている。
何か提案があるのかもしれない。
「当面は北へ進まないか」
偵察ゴーレムが発見したものがダンジョンの中枢へといたる場所であったならわからなくはない考えだ。
中央からもっとも離れようとした場合、セーフエリアとなっている爺ちゃんの家から北側に向かうのが妥当だろう。
ただし、中枢がダンジョンの中心にありダンジョンの形状が綺麗な円形であった場合はという前提条件がついてしまうが。
とはいえ無意味ではないか。
同じ方向へ進み続ける方が端に辿り着きやすいだろうし。
手分けして探索できるくらい人が大勢いるなら話も変わってくるんだけど。
たった2人じゃ手分けしてもたかが知れている。
「そうするか」
「同時にこちら側の偵察も進めたい」
「早急に2号機を作れと?」
「あの奥にあるのがダンジョンコアじゃない可能性もあるんじゃないか」
「あんまり考えたくないなぁ」
あれだけ濃い瘴気溜まりだとダンジョンコアに準ずる機能があったりする。
「あそこからジャンジャン魔物が湧き出してくるとかボス級の奴がいるとかシャレにならんぞ」
偵察ゴーレムで探った様子からすると後者だと思うけど。
「それよりも本命のダンジョンコアを補助している恐れがある方がヤバいだろう」
英花の言う通りである。
階層タイプのダンジョンで言えばフロアごとに中ボスがいるようなものだ。
フィールドタイプの場合、いきなりボスに挑むことも不可能ではないのだけど。
ただし、すべての中ボスを先に倒しておかないとボスが強化されていたりするのでオススメはできない。
俺の仮定した話も根底から覆されることになるのが嫌なところだ。
フィールドがやたら広いのも瘴気溜まりの補助のおかげだとしたらダンジョンコアを守護するボスも弱体化するどころか強化されていることになるからだ。
「アレを先にどうにかしなきゃならんのかー」
「本命ということもあり得る」
「だから偵察か」
ダンジョンコアを探しボスの強さを推し量る。
コアがなければ濃い瘴気溜まりという訳だ。
「そういうことだ」
「レベル上げないとどうにもならないな」
ゴーレムを作るのだって資材が必要だ。
セーフエリア内のものが使えれば、すぐにでも2号機の製作に取りかかれるけど使えないからなぁ。
いや、使えるは使えるけど魔道具に作り替えても翌日になれば復元してしまう。
そもそもセーフエリア外には持ち出せないので意味がない。
水道の水は飲み水として利用できるし外にも持ち出せるのに不思議なものである。
「目標レベルはどのくらいになるかな」
「俺が最初に見立てたとおりになるなら2人で8レベル。ソロなら12レベルだろう」
「そのあたりが妥当か」
「まあ、8レベルまで上がれば別のガラクタが出てくる気がする」
そうすればゴーレムの2号機も作れるんだけど敵の情報が少ないのが困ったところである。
猫の手も借りたいとは、まさにこのこと。
ゾンビだらけのダンジョンには頼れる助っ人どころか猫なんているはずないんだけどね。
ん? 猫、猫か……
その手があったか。
戦うのはともかく斥候ならいけるかもしれないな。
読んでくれてありがとう。
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