118 遠征ふたたび・ロゴランドダンジョン1層
「ところで後ろの連中なんだが」
名古屋のロゴランドダンジョン1層を奥へと進みながら英花が話しかけてきた。
付かず離れずで俺たちの後をつけてくる一団がいるのは俺も気付いている。
千里眼スキルで確認してみたけど盾を持っていないことを馬鹿にしてきた面子だ。
こういう場合は悪意があったりすることが珍しくないので襲撃されることも考慮しておかなければならない。
いわゆるPK行為だな。
ただ、件の連中からは醜悪な悪意や殺気は感じられない。
PKはされないだろう。
「心配してくれてるんだろう」
「さんざん馬鹿にしてくれた連中がか?」
「さっきの連中のようになられちゃ迷惑ってのもあるだろうけど、何かあったら救出するつもりではあると思う」
「どうだか」
英花は馬鹿にされたことを根に持っているのか疑わしいと思っているようだ。
「馬鹿にしつつも重傷になったら運び出すつもりとか?」
真利が自信なさげに自分の考えを披露した。
「たぶんな。どのみち俺たちが大ダメージを負わない限り何もしてこないと思うぞ」
「見くびられたものだな」
英花の機嫌は悪いままだ。
「そう言うなよ。一応は助けてくれるつもりみたいだし」
「怪しいものだがな」
「ふざけたことを考えているなら返り討ちにすればいいんだよ」
真利は真利で物騒なことを言う。
いつものごとく一方通行の音声結界を張っていなかったら聞かれる恐れだってあるというのに。
「ふむ、まあそうだな」
英花の機嫌を少し戻してくれる効果はあったようだけど。
そうこうしている間に前方から人のものではない気配がした。
「さあて、マッドビーンのお出ましか」
後ろの連中は俺たちが歩みを止めると同じように止まった。
あくまで傍観するつもりのようだ。
とはいえ、これでPKではないと判断することはできない。
魔物の攻撃を受け弱ったところを襲撃するということもあるからだ。
それもないと俺は踏んでいるんだけど英花は後方への警戒もしておりピリピリしていた。
後方への警戒自体は他の敵が現れた場合などに素早く対応できるので必要なことだし好きにさせておくとしよう。
肝心のマッドビーンの方は気持ち悪いウネウネした動きで接近してくる。
「うえ~っ、触手っぽくて私ダメかも」
真利もあの動きはダメなようだ。
「先に片付けちゃうね」
そう言ってコンパクトボウで鉄球を素早く放った。
「ヒット」
確かに命中はしたな。
ただし、腕のように伸ばした枝の1本にブロックされ茎の部分には当たっていない。
あのウネウネ運動により鉄球の軌道がそらされたからだろう。
そう考えると、気持ち悪い動きにも意味はあった訳だ。
「あー、ダメかぁ」
真利も致命傷には遠く及ばないと悟ったようだ。
次弾を装てんするのかと思ったが、早々に武器を持ち替えて剣鉈を手にする。
「接近しないと話にならないみたいだね」
「そうか? 何発か当てればいけそうだけどな」
「仕留めるのに何発も当てなきゃならないなんてもったいないよ」
今まで守護者以外は一撃必殺で仕留めてきた真利にとっては、もったいなく感じるらしい。
確かに飛び道具は弾数に制限があるから、その考えはわかるんだけど。
せめて最初の1体は倒してから判断しても良かったんじゃないかと思う。
そうすることで敵がどれだけタフなのか、防御力があるのかないのか、痛みを感じるのかなどの情報が得られるので無駄ではないはずなんだが。
まあ、それを言ったところで射撃武器のモチベーションを落としてしまった状態から気持ちを復活させるのは面倒だ。
それをしている間に敵に接近を許してしまうだろう。
現にマッドビーンたちは、あの気持ち悪い動きそのままに駆け出してきた。
「うわぁ、気持ち悪ぅ」
テンポが速くなると、さらに気持ち悪さが増すな。
それもある程度まで接近すると収まっていく。
接近するのを止めたからだ。
「どうやら奴らの射程に入ったか」
言うが早いかコイン大の塊が次々と飛んで来た。
あれがマッドビーンの豆アタックだな。
全部で6発。
マッドビーンは3体いることから考えると両手で1発ずつというところか。
ただ、相手は植物の魔物なので他に枝がない訳ではない。
それらを攻撃に使わないという保証もないということを忘れてはいけない。
結構な速さで飛来する硬化豆弾は剣鉈で切り落とした。
「大した攻撃じゃないね」
真利も拍子抜けした様子である。
しかも自分の実に魔力を込めて硬化と大型化をさせてから飛ばすためか次弾が飛んで来るまでそこそこ時間がかかるんだよな。
初弾で仕留めるつもりだったんだろう。
当てが外れたからか今度は次弾の準備も進めているようだ。
「次からは連射してくるようだぞ」
言った側から撃ってくるが。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
まるで何処かで聞いたような台詞で真利が切り落としていく。
英花も無言で剣鉈を振るっていた。
俺はというと剣鉈から持ち替えたムチを振るう。
一振りで同時に複数の弾を叩き落とす。
バシィッ!
地面にムチが当たり痛そうな音がダンジョン内に響き渡る。
連射で飛んで来た弾も手首の返しで跳ねたムチの餌食だ。
「あー、それの方が楽そうだね」
真利がよそ見しながら剣鉈を振るっているが、豆弾は確実にさばいている。
「慣れは必要だけどな」
同時に豆弾を撃墜するには相応の練習が必要になるだろう。
「意外に弾が尽きないな」
不意に英花が呟いた。
そりゃあ魔力を使って補充しているからね。
しかも効率は悪くないのでマッドビーンが弾切れになるのは、このペースで攻撃を続けても数分は先だろう。
「そろそろ前に進むか」
「そうだな。疲弊するのを待つのは時間の無駄だ」
という訳で向こうの攻撃を落としながらスタスタと歩を進めていく。
それに合わせて弾幕が厚くなったものの結果は変わらなかった。
歩く速度は落ちないし豆弾が俺たちに届くこともない。
そしてついにムチがマッドビーンの1体をズタズタに引き裂く格好で仕留めた。
「はい、後よろしくー」
「あーっ、いいなぁ」
「間合いが違うからな」
「明日は私もムチを使おうかな」
そんなことを言いながら前進を続けた真利もマッドビーンの枝を切り落とし攻撃を封じてから茎を切り刻んだ。
英花も同じように剣鉈で仕留めている。
「ぶっつけ本番はオススメしない」
「そっかー。外で練習する訳にもいかないもんね」
話をしながらドロップアイテムを回収していく。
「様子見は終わったが、どうする?」
英花が俺たちの進んできた方を気にしながら聞いてきた。
後をつけてきた連中との距離は変わらぬままである。
俺たちが前進する間も同じように進んでいた訳だ。
「結構な間抜け面をさらしているぞ」
千里眼で確認したことを伝えてみた。
「襲ってこないなら無視でいい」
返事の声音から察するに険は残っていなかったので警戒は1段階下がったと見ていいだろう。
「それより、せっかく潜ったんだ。バックパックに詰め込めるだけ食材を詰め込もうじゃないか」
「賛成~」
「2人がいいなら、俺は構わないけどね」
英花の提案により引き続きロゴランドダンジョンの探索を続けることが決定された。
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